drunk
残業、そして一次会で切り上げてきた飲み会を経て、ラウダは疲れ切った体で玄関の扉を開けた。酒気は抜けていない。うんざりした気持ちに、つい溜息が漏れる。
「そうなんだ。無茶なこと言われるのは辛いよね。……うんうん、わかる」
ペトラの声が聞こえてきた。リビングを見るとパジャマ姿のペトラがスマホを片手に通話している。相手はフェルシーだろうか。愚痴を聞きながら相槌を打っているようだ。
「ふふ、昔からそうだよね。でもそこが可愛いって言う人もいるかもよ?」
ペトラの声がリビングに響き渡る。ラウダは「ただいま」を言う気力もなく、そのままバスルームに直行した。
シャワーを浴びて体を流す。
不快なばかりの飲み会だった。しょうもない奴らだ。もう二度と参加するものかと思いながら、ラウダは洗髪する。
仕事仲間と飲むことだって仕事のうちのようなもの、不得意よりは得意だったほうが良い。そうした言葉を思い出し、飲み会など好きでもないのにあえて参加したのだった。結果は金と時間を支払ってストレスを買ったようなものだった。
苛立ちを洗い流すかのように、ラウダはシャワーの水圧を上げる。
バスルームを出るとペトラは未だに電話している。何をそんなに話すことがあるのか。苦々しく思いながらも、洗面所に戻って髪を乾かし、歯を磨く。
僕が帰ってきたことには気づいているだろうし、さすがに電話を切ってほしいのだが……しかし、何やら再び盛り上がる声が聞こえてきた。フェルシーとの会話を楽しんでいるのが伝わってくる。
「あはは……ううん、それはフェルシーの良いところだから。私は好きだよ」
ペトラはくすくすと笑いながら優しい眼差しを向けている。親友の愚痴や悩みを真剣に聞く一方で、フェルシーの良いところを見つけようとしているのだ。
愚痴るくらいなら直接会えばいいのにと理不尽な怒りを感じる。ソファに腰を下ろしたラウダだが、ペトラはラウダに時折視線を向けつつ、なかなか電話を切ろうとしない。今フェルシーに集中してほしくない。そんな我儘な思いが頭をよぎる。
「ねえ……ペトラ」
低い声で名前を呼ぶ。
「……ペトラ、もうそろそろ切ったら?」
ラウダはそう言ってペトラの首筋に顔を近づけた。 鼻先に石鹸の香りが漂う。 ペトラの体がびくりと跳ねる。うろたえた様子のペトラの背中にそっと手を這わせ、そのまま指先でくすぐり始める。
「そ、そうだね……フェルシー、ごめん私そろそろ……ふふっ、ちょっと待って」
ふいに脇腹をくすぐった。ペトラが「きゃあ!」と高い声を上げる。
「ちょ、ちょっとラウダ先輩! 何するんですか! ……ううん、大丈夫。……きゃああ!」
ラウダは執拗にペトラをくすぐり続けた。
「あははっ……! わ、わかった、もう切るから! うん、おやすみ……ちょっとラウダ先輩!」
ようやく電話が切れた。同時に抱きつくようにしてラウダはペトラをソファに押し倒した。
「何するんですか! あんな切り方したら…!」
怒るペトラにラウダは顔を近づける。そしてそのまま唇を重ねた。
「んっ……」
ペトラが抵抗しないのをいいことに、ラウダはそのまま舌を差し入れた。歯列をなぞるようにして口内を蹂躙していく。やがて息が続かなくなり唇を離すと唾液が糸を引いた。
「いきなりどうしたんですか……」
乱れた呼吸を整えながらペトラが言う。ラウダは無言のまま再び唇を重ねた。
「んっ……」
今度はペトラも積極的に舌を絡めてくる。互いの舌が絡み合うたびに水音が響いた。唇を離すとペトラはすっかり頰を赤らめ、その瞳には情欲の色が浮かんでいた。ラウダは再び顔を近づけると、今度は首筋に舌を這わせる。
「……っん…!」
びくりと体を震わせるペトラの反応を楽しむように、何度も首筋を舐め上げる。その度にペトラの口からは甘い吐息が漏れた。
「ラウダ先輩……あの……」
「なに?」
「……ベッドに行きませんか?」
ラウダは答えず、再び首筋に顔を埋め、今度は痕が残るほど強く吸い付いた。
「ひゃあ!」
ペトラが悲鳴を上げた。ラウダはそのまま舌を這わせていく。
「ねえ! ソファじゃ! 危ないですって!」
「……」
ラウダはペトラを抱き上げると寝室へと向かった。ベッドに押し倒したペトラの体に覆い被さり、再び唇を重ねる。そしてそのまま舌を差し入れた。
「んっ……ふ……」
キスをしながらパジャマの中に手を滑り込ませると、柔らかな膨らみに触れる。優しく揉みほぐすように手を動かすと、やがて乳首が硬く立ち上がり始める。そこを指先で弾くようにして刺激を与えると、ペトラの口からくぐもった声が漏れ始めた。
ペトラのパジャマをたくし上げ、露わになった乳房に顔を寄せる。先端を口に含み舌で転がすと、ペトラの口から甲高い声が上がった。ペトラは自分の胸に吸い付くラウダの頭を撫でながら快感に耐えていた。ラウダはやがてペトラのショーツの中に指を滑り込ませる。そこは既にぐっしょりと濡れていた。
「興奮してるんだ?」
そう囁くとペトラは顔を赤くする。ラウダがそのまま秘裂に沿って指を動かすと、くちゅりという水音が響いた。その音を聞きたくなくてペトラは顔を背ける。ラウダはペトラの脚を大きく開かせ、その間に自分の体を差し入れた。
「は……恥ずかしいです」
ペトラが涙目になっているのを見てラウダは満足げに目を細めた。羞恥心に耐え切れず真っ赤になっている表情が愛おしいと思う。ラウダはペトラの耳朶を軽く甘噛みしてから首筋に唇を押し当てた。同時に膣内に侵入させた中指を動かす。
「……んっ」
ペトラはぴくりと体を震わせた。ラウダはそのままゆっくりと抜き挿しを始める。最初は浅いところで出し入れを繰り返し、次第に奥へと進めていく。やがて指の根元まで入るようになったところで、同時に親指で陰核を押し潰すようにして刺激を与える。
「あっ! 」
強い快感に耐えかねたのか、ペトラは体を弓なりに反らせた。ラウダはペトラの体から口を離すと、今度は下着ごとパジャマを脱がせた。
「ラウダ先輩……?」
不安そうに見つめてくるペトラに対し、ラウダは微笑むとその両足を抱え上げるようにして持ち上げる。すでに愛液でびしょ濡れになっているペトラの秘所に顔を近づけると、ラウダはその蜜を舌で舐め取った。
「……やっ! だっ、だめですって!」
ペトラが慌てて足を閉じようとしたため、ラウダはその太腿に自分の頰をすり寄せた。そして再び舌を伸ばすと、今度は割れ目に沿って舐め上げる。
「あ……! んんっ……!」
ペトラは甘い吐息を漏らしながら身悶えた。ラウダはペトラの反応を楽しむように執拗に責め立てる。陰核を口に含むと、ペトラの体がびくんと跳ね上がった。ラウダはそのまま舌を動かしながら、さらに中指を挿入させた。
ラウダはペトラの秘裂の中に挿入していた指を少し上げて動かし始める。上下運動を繰り返しているうちに、ぷちゅぷちゅという音が聞こえ始めた。今度は人差し指と薬指を同時に挿入する。そして二本の指を出し入れしながら、親指で陰核を刺激し続けた。すると次第に中がきゅうっと締まり始める。同時に膣内のざらついた部分を重点的に攻め立てると、やがて絶頂を迎え、ペトラは大きく体を痙攣させた。
「ああぁっ!」
断続的に震え、ぐったりとしてしまったペトラの中から指を引き抜く。ペトラのそこは滴るほどに潤っており、糸を引いていた。
ラウダはズボンの前をくつろげ、自身のモノを取り出す。
「ペトラ、入れるよ」
ラウダの問いに、ペトラは涙目になりながらも小さくこくりとうなずいた。
ずぷりと音を立てて先端を埋めていく。その質量と熱さにペトラは一瞬息が詰まったが、時間をかけて奥まで飲み込んでいくと、やがて腹の奥にこつんとぶつかるような感覚があった。
「入った……」
ラウダが耳元で囁く。ペトラはぎゅっとラウダの首に抱きついたまま動かなかった。絶頂を迎えたばかりのペトラの内部は、まだ引き絞るように動いていて、ラウダはすぐに達してしまいそうになる。
ラウダはペトラの頭を撫でながら、ゆっくりと抽送を始めた。
「あっ……ん……あぁ……」
ペトラの口からは絶えず喘ぎ声が漏れる。結合部からは愛液が溢れ出ており、シーツに大きな染みを作っていた。ラウダのモノが出入りするたびに、ぐちゅっ、ずぷっと水音が響く。その音さえも興奮材料となり、二人の快感を増幅させていく。
「ペトラ……!」
ラウダはペトラの唇を奪い、舌を絡めた。同時に突き上げるように腰を動かすと、ペトラの体がびくりと跳ねる。
「んっ……!」
ペトラは苦しげな声を漏らしながらも必死になって応えようとする。ラウダはそんな健気な姿に愛しさを感じずにはいられなかった。
「ペトラ、好きだ」
ラウダは何度も口づけをしながら愛の言葉を繰り返す。その度にペトラの膣内がきゅっと締まる。
「私も……好き……です」
「んっ……く……!」
ラウダはどくんどくんと脈打たせながら大量の精液を吐き出すと、大きく息をつき、そのままぐったりと倒れ込んだ。二人はしばらく繋がったまま抱き合っていた。
「はぁ……っ……」
ずるりと引き抜くと、どぷっと白濁液が溢れ出す。その刺激にすら感じてしまい、ペトラは小さく喘いだ。
「……大丈夫?」
ラウダは心配そうな表情を浮かべると、ペトラの頬を撫でる。
「ごめん……」
「……」
乱れた呼吸を整えると、ペトラは身じろぎをした。お互いの体液でベトベトだし、汗ばんだ肌が気持ち悪くて仕方がない。ラウダもすっかり……おとなしくなった様子だし、2度目のシャワーを浴びたいと思った。だが今は体にうまく力が入らない。
「本当に、どうしたんですか、いきなり……」
ペトラが尋ねると、ラウダは小さな声で答えた。
「電話が……長かったから……」
「……えっ?」
「事故対応で残業になって……僕は前から注意したほうがいいって言っていたことがやっぱり起きて、でも客先では僕が怒られた。立場上、仕方ないんだけど」
「うん」
ペトラは相槌を打ちながら、ラウダの話に耳を傾ける。
「ペトラに話を聞いてほしかった。帰り道ずっと。でも帰ってきたらずっとフェルシーと電話してただろ? ペトラは悪くないのに……ごめん」
やったことを考えると呆れてしまう気持ちもあるのに、ラウダがしゅんとする様子を見たペトラはなんだかいじらしさを感じて可愛くも思えてしまった。
しかし同時に、ラウダの今日の予定を思い出し、疑問も浮かぶ。
「でも、ラウダ先輩、今日は珍しく飲み会でしたよね。対応後にそのまま、って…。事故のおかげ……なんてこと言ったらあれですけど、会社の人とも仲良くなれそうでよかったなって、私、安心しちゃってましたよ」
そう言うペトラに、ラウダは口をとがらせた。
「むしろ最悪だった。同僚なんかと仲良くなんてなりたくない」
「え、どうしてですか?」
「出自による溝を痛感させられただけだ。世間知らずのスペーシアンのボンボン呼ばわりされるし、知るわけもないような身内の話で盛り上がられて、少しも面白くなかった。行かなければよかった」
ラウダは吐き捨てるように言うと、ペトラの胸に顔を埋めた。ペトラはそっとラウダの頭を撫でる。
「そんなことがあったんですね……」
「ペトラは僕の帰りも気づいてくれなかったし」
「ごめんなさい」
「僕のこと、ちゃんと見ててよ……」
ラウダは拗ねたような、それでいて切実な声音で呟く。ペトラはラウダをぎゅっと抱きしめた。
「いつものラウダ先輩らしくないなって思ったのに、ちゃんと気にかけてあげられなくてごめんなさい」
「……ペトラ」
「ずっと見てるつもりだったんですけどね。これからはもっとラウダ先輩の気持ちを考えるようにします。だから、全部私に話してくださいね」
ラウダはペトラにすがりつくように抱きついた。
「寂しかったし、慰めてほしかった。ペトラに……」
ペトラはラウダの頬を包み込むようにそっと手を添える。瞳を覗き込めば、そこには慕ってくれる少年の面影が垣間見えた。ラウダが見せるこの表情が大好きだ。
「私、ラウダ先輩が無理してる顔見るの嫌なんです。力まなくていいんですよ。もっと頼ってくれていいんです」
ラウダはペトラの胸に顔を埋めたまま力なく頷く。いつもは気丈に振舞おうとする彼が、たまにはこうして弱音を吐いてくれるのが嬉しい。
「ラウダ先輩、お疲れ様。よしよし……」
ペトラは背中をさすりながらラウダを抱きしめ続ける。嫌なことがあっても、辛いことがあっても、ここが帰る場所だと思ってほしい。
「ごめん。僕、ワガママ言っちゃって」
「そうですね。フェルシーには明日謝っておきますけど、こういうのはもうやめてくださいよ? 今日は仕方ないんで……もうゆっくり休んでください」
ペトラはラウダの髪を撫でながら微笑む。
「ペトラ……」
「なんですか?」
「……一緒に寝よう? なんか、ペトラのそばにいたい気分で」
いつもは照れ臭がるくせに、今日は珍しく素直だ。きっと酔いも手伝って羞恥心が薄れているのかもしれない。
「ええ、いいですよ。私もラウダ先輩のそばにいたいです」
「ありがとう……」
そう言ってラウダはペトラに身を預ける。いつもなら自室に帰るところだが、今夜はペトラの胸に顔を埋めたまま眠りについた。
ペトラはラウダの寝顔を見下ろし、頬を指先でそっと撫でる。
「おやすみなさい、ラウダ先輩」
ラウダの穏やかな寝息を聞きながら、ペトラはそっと目を閉じた。肌を重ねるようにラウダを抱きしめると、いつの間にかペトラも夢心地になっていった。