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ふー……ふーっぅ……ふ…………
赤子を扱うようにさするしか出来る事が無かった。
ここには口をすすげそうなものは無い。原因そのものである瓶で口直しをし、ベッドの上で安静にする。そうしているうちに一、二時間が過ぎた。
すっかり借りてきた猫のようになってしまったカキツバタの傍らでスグリは内心大変なことになっていた。
己の輪郭を把握出来なければそれを好く相手と嫌う相手すら分からない。
大人しくカキツバタの手のひらで転げていれば、馬鹿正直は素直さと捉えられ、好かれるのでは?と思惑を抱えていたスグリだったが、今や千切れてしまったリードから衝動を抑えるのにいっぱいいっぱいだった。
手のひらで受け止めた体液混じりの薬物。量にしておよそ20本弱……千載一遇のボーナスステージに充分すぎるほどの後押しをする波が押し寄せてくる。
だめだめだめ!流石に!人として!弱ってる相手に迫るのは!
ふらつく理性で己を叱咤する。正に蛇の生殺しだ。
「なーぁスグリぃ……オイラなんか飲みてぇよぅ……」
どぎまぎとしてあまり直視しないようにしていた汗の匂いがするカキツバタ。
素人目にも脱水になりかけているのが分かった。
とは言ってもこの部屋で飲めるものは他にないのだが。もう自分で倒そうと考えていた元凶の瓶を睨む。
「はは……水なんかあったら薄めてしまえっからねぃ……」
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結局100本飲んだカキツバタはもう後は眠るだけ……のつもりだった。が、大分落ち着いたカキツバタを前にスグリはそうもいかない。
「カキツバタ」
「んー……?オイラはねみぃのよ〜。もうやる事もねぇし……」
ぼふっと枕に頭を乗せ寝転がる。早くこんな部屋から出たい。そしたらまたみんなで……
「俺ちょっとその……口ん中さ気になって寝れないかも……」
クッションを抱えぺたんと座ったスグリが困り顔をかしげる。
これは必要な事。そう強調すれば選択肢は絞られる。
以前姉に「子供っぽい」とからかわれ、もうしない……と決めたのに、ついうっかり繰り返してしまった。よりによってカキツバタの前で……そんな出来事が交際に至る分岐点だった。
全く同じ姿を垢抜けないと嗤うか、愛らしいと好くかは別だ。
ともあれスグリは深く考えることはせずとも普段通りにしていればいい……のを初めてやめた。自覚を持った仕草をする。タイプで言えば間違いなくフェアリー技だ。
「そうは言ってもよぅ……」
「カキツバタ……だめ?」
するぅっと伸ばした脚が距離を詰め迫る。つい甘やかしてしまいたくなる顔に目を伏せて大人しく口を開けるしかなかった。
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とあるトレーナーのミネズミがおやつ欲しさに他の個体の口の中を探す行動が話題になったことがある。
これはそういうもの……と自分に言い聞かせ口の中の甘みを探ることが本心と信じて疑わない。単なる建前だと知らずに。
軽いキスくらいは以前からしていた。それはもうミネズミの挨拶だ。しかし今は違う。
人がキスをする理由。一説には、唾液で体内に入る相手の状態を感知するためだとかなんとか……
口の中をまさぐられ だんだんとぼんやりしていく頭からどちらが上だとか下だとか……以前放棄していた問いが露わになる。
水面に映った月のように同調していく意識が答えていた。
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着ぐるみの中はこんな感じなのかねぃ……
娯楽施設で子供にじゃれつかれても声を出してはいけない仕事。
自ら仕込んだ知識に翻弄されクッションに顔をうずめ逃避しようとするカキツバタを問い詰める。
「かきつばた、、まだ、おれからっ、にげるき、、?」
この行為で求められる能力は眼前の相手を見ること。紙面上に綴られた他者の幻影に必要な情報は無い。だというのに。口を閉ざしただ生理的に溢れる声を堪えるカキツバタにスグリは苛立つ。
相手との齟齬を埋めていくことをせず、気絶してしまえばゴール……と考えるカキツバタは坐薬などで処女を失ったことにはならないようにどこかで認めたくなかった。
こんな部屋で底意を捻じ曲げられるのは御免だ。以前スグリとの関係で間違えてしまった後、何度も挑むことは諦めなかった。
ただあの時のように外部に助力を求めることは出来ない。
もはや致命的になってしまうかどうなるか……相手に委ねるしか無い。
「す、ぐりぃ♡ その、、よぅ、さいご、までっ、、ちゃあんと、しなかったら、、ぁ♡ の、のーかんにっ、、してやるからあ"っ、よぅ、、♡」
ようやく口を開いたと思ったらまだ処女気取りだったの……?と驚く。カキツバタの懇願を聞く気がないのは素直の面で覆い隠した衝動をぶつけてから。“さいご”がどうなるか考える判断はもうとっくに誤っていた。
「ははっ、、♡ おれは、ちゅー、してるあいだにっ♡こうなったんじゃ、ないべ?」
「え"、、?」
いつからだ?飼い犬に手を噛まれるように扱うつもりはなかった。どちらが手玉に取られていた?
「にへへ、、♡ きょうのぉっ、かきつばたは、、さいしょから、、ぜぇんぶ、のむつもり、、だった、、でしょ♡ かぁっこよくて♡ すきぃ♡」
柔らかな好意が耳から側頭葉まで響き揺らいだ反応が顔に出る。好機を逃さずスグリが一気に弱点を捉える。
「ひっ、、♡ まっへ、すぐ、り、、♡なかぁ、あ"っ、、ほんとぉにっ、なっちま、うぅ、、♡」
最後の最後でとにかく抵抗を試みるも脚の間に挟まっているスグリからは脱け出せなかった。
奥に打ち付けられた事実に人生で一度もない嬌声をあげる。
言い訳の出来なくなったショックで意識を手放し本来の目的へと達してしまう。
めのまえがまっくらになった……。
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よし、卒業しよう。
翌日部室に顔を出したカキツバタはそう決めた。
睡眠障害気味の自分だけが見た夢だったら?
下手に自室に籠って「不自然を案じたスグリ」が来るか「心配を装ったスグリ」が来るか……
不安を抱え一人で二の舞になる可能性のある自室で静寂に包まれるより少なくとも人の目のある部室の方を選び、以前から逃げていたものよりあの部屋を想起させる部室から根本的に逃げることを決意した。
根本的には何も変わっていない。しかし珍しく真面目にテキストに向き合っている姿は周囲をざわつかせる。
幸い身体的な痕は一切残っていなかったが……記憶だけは違った。
少しでも記憶を塗りつぶそうとめくるページにエスパータイプが見せる幻覚の仕組みについて記述されていた。
どうやら《幻覚の根源は時間の感覚にある》らしい。
“過去や未来”といった今現在存在しないものについて考える……という仕組みから派生した感覚だ。
今が楽しけりゃそれでいい。逆に言うなら強烈な幻覚を呼び起こす曖昧な今という不安からは逃げ出したくてたまらない。
ざわつきに混じり扉の向こうからぽてぽてと足音が聞こえる。
果たして鬼が出るか蛇が出るか……分岐点は時すでに遅しなのだから。
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人が人を忘れる順番で匂いの次に覚えているのは味らしい。
こことある地方はジムリーダーが七つの罪を司る。というコンセプトのリーグだ。
人間は自分にとって都合のいいものを善として言い張ってるだけで、全てにとっての善悪って存在しないよね〜というポリシーだとか。
この星で最も多く命を殺めたものを絶対善として奉るのは好気性生物という立場があってこそだ。
どこか自分に似た学園の長の息がかかった地方で実験場も兼ね備えたジムの椅子に座ることにした。
ジム挑戦では当然カイリュー、ブリジュラスなど能力の高さで策を練るのは禁止されるという基本的なルールに加えて……手持ちのヌメイルと戯れる“この桃色”たちをぞんざいに扱うことも出来なかった。
「イチハツさんは食べないんですかー?」
「オイラは遠慮しとくぜぃ。感覚ってのは個体差があっから〜」
誰のどの感覚を指して言ったのか。
あの時の記憶からどれだけ距離が空いたのか……
のんびりとした青空に桃色の尾の橋が架かる。
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…… …… やあん?
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