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 青い監獄の中でも、俺と凛の関係について勘づいている奴はいた。

 潔だ。

 チームホワイトで組んでいた時、直接『凪と凛って知り合いなのか?』と聞かれた。

 『うん、まぁ知り合い。詳しくは話せないけど』と濁すと、少し不可解そうな顔をして『そうなんだ』で終わった。入り込んだ話になってしまうと、凛があまり知られたくないだろう過去の話に繋がりそうだから……はぐらかした。

 その場では終わった話になったけれど、潔はまだ納得していない様子だった。

 潔は凛をライバルとして見ていた。強くなりたくて、2次選考突破後は凛に話しかけることが多くなっていたように見えた。

 でも、多分それだけじゃない。


 『最近凛と仲良しじゃん。あいつ全心ハリネズミみたいなのに、珍しー』

 『からかうなよ。てか、凪の方が親しそうじゃん。この前二人で話してんの聞こえてたぜ』

 『別に。ただの知り合いだし』

 『本当か?そうは見えないけどな~』

 『潔にしては珍しいじゃん。サッカー以外のこと知りたがるの』

 『そう……かもな。凪なら昔の凛のこと知ってる気がして』

 『認めた。……まぁ知ってるけど、勝手に話して良いものじゃないし。てかなんで潔は凛のこと知りたいの。昔の凛のことって、あんまりサッカー関係なくない?』

 『あー、うん。そうなんだけど。その、実は…………』


 トライアウトの時、休憩時間に潔と交わした会話。どうやら潔には幼い頃再会を約束した相手がいて、その子が凛に似ているらしい。似ているだけじゃなくて、その子が当時潔に教えたオリジナルの数え歌を凛も知っていたらしい。そこであたりをつけて、凛がその子かもしれないと思って。

 それで、凛と旧知の仲っぽい俺から過去のことを聞きたかったみたいだった。

 “数え歌”に纏わる話は凛から聞いたことがない。でも、潔がたまに歌っていたそれに隠されていた暗号らしきものには“soccer”と。

 …………。

 冴如く、昔の凛は冴の後ろをついて回るような大人しい子だったらしい。そして、冴に誘われて凛がサッカーを始めたのは6歳の秋頃。潔がその子と出会ったのは6歳の夏頃。

 噛み合わない。

 …………でも。

 冴なら?

 凛如く、今の自分は昔の冴をなぞっていることが多いと。冴は8歳の頃には既にサッカー少年として有名だったらしい。

  ………………めんどくさ。

 めんどくさいけど、これを放置したらもっとめんどくさいことになる気がした。

 寝転がったベッドの上で弄っていたスマホゲームを止めてスワイプして、あまり使っていないLINEを開く。そして、“Sae Itoshi ”と表示されたアイコンをタップした。


 “あのさ、潔世一ってやつと昔会ったことある?”

 既読がついて数分後。

 “そいつがどうしたんだ”

 yesともnoとも取れる返答。

 “過去に再会の約束をした相手が凛だと思って、俺に昔のことを聞いてきた どうしたらいい?”

 今度は返信に時間がかからなかった。

 “何もしなくていい そいつが勘違いしてる内は”

 …………。

 “あんたはそれでいいの?”

また返信が遠退いた。

 “何のことかさっぱりだ”

 白を切られた。

 “でも、そいつが自力で勘違いに気付いたら 教えてもいい”

 めんどくさ。

 了解、のスタンプを送って、スマホをベッドに放り投げる。ごろんと仰向けになって、ぼんやり天井を眺めることにした。

 あー、めんどくさいなぁ。めんどくさいことを回避しようとしたら余計めんどくさくなった。

 ま、潔が自力で気付いたらでいいし。気長にやるか。

 てか冴、いつもより語彙が凛に寄ってるし。潔の勘違いだって認めてるし……


 「まさかとは思ったけど、正解引いちゃったかー」


 でもまあ、冴に直接会わない限り思い出して気付かないでしょ。凛はだんまりだし。


 「……もう寝よー。めんどくさくなりませんように」


 あの頃はそう思っていた俺だけれど。

 U-20代表と戦うことになって、潔や凛と共に冴に会うことになるのはもう少し後の話だった。


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