conception

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・男性妊娠ネタ注意(孕んだのはルフィの方)

・生後3ヶ月の娘とサニー号船内で過ごすローとルフィ

・神の力の介入によって出来た男性妊娠について、やや生々しくてエグい表現あり

・妊娠できた理由をニカのせいにしてごめんねニカ

・何だかんだで相思相愛な二人

・2023/06/17 追記
ちょっと加筆修正しました。読んでくれた方々ありがとう


・追記2 まとめページ作っておきました
https://telegra.ph/6billionnight-conseption-09-08


・2023/12/08 追記3
まだ編集できたのでちょっと修正したのと、スレ内で投稿したSSをピクシブにまとめて投稿しておきました
6billion nights/conception




↓本文はこちら




 サウザンドサニー号船内の一室、大型水槽が備え付けられたラウンジにある長いソファーに、ローは腰掛けていた。本を持つ刺青だらけのその手は震えていない。難しい顔をして、難しい内容の医学書を見つめている。だがその内容は頭には全く入っていなかった。赤ん坊がローの膝の上に陣取っているからだ。
 三ヶ月と少し前に生まれた『娘』は、ローに良く懐いている。

「お前、父ちゃんの事好きだなァ」

 隣で寝転ぶルフィは、そんな『娘』を愛おしげに見つめて話しかけ、時々指で突いたり、撫でたり、おもちゃであやしたりしている。『娘』もそれにはしゃいで笑うが、ローの膝の上から降りようとせず、ぐずる事もなかった。ルフィの『娘』を見つめる眼差しはどこまでも優しい。

 傍から見れば、穏やかで微笑ましい光景である。だがルフィが男であるにも関わらずこの『娘』を孕んだ『産みの母』である事を思うと、ローはどうしても複雑な思いにならざるを得なかった。酒の勢いで交わった、たった一晩の過ちから本来であれば起こるはずのない事態になった。それだけでも到底受け入れ難い話であるのに、心構えもないのに父親になる事を余儀なくされた結果のこの状況を、ローは手放しでは喜べない。

「かわいいな~。トラ男、本ばっか読んでないで撫でてやればいいのに。こんなにかわいいんだからよ」

 「かわいい」という言葉を、この三ヶ月どんなに聞いただろうとローは振り返る。この『娘』が生まれてから、麦わらの一味の船員達もハートの海賊団の船員達も、口々に彼女を「かわいい」と連呼し褒め称える。『娘』が泣こうが粗相をしようが何をしようが、愛情の方が勝って決して手を上げる事はない。両船の船員達は、情が深い者達ばかりであった。

 ルフィもその例に漏れない。あやしたり遊んだりは勿論、不器用な手つきでオムツを取り替えたり、風呂に入れさせたり、ミルクを与えた後に抱き上げてゲップをさせたりと、親として『娘』に接している。勿論隣で指導する医者のチョッパーやロー、協力し支えてくれる他の船員達の存在が不可欠ではあるが、大概の事は笑い飛ばす明るいルフィの性根が育児の疲れで翳る事はなかった。清潔は子供にとっても大事だと説かれ、ルフィ自身が風呂に入る頻度も以前より増えた。「かわいい」と告げるその穏やかな表情は、ローに失った家族の事をふいに想起させるには充分な優しさを湛えている。

 ローとて本当は、もっと手放しに『娘』を可愛がりたかった。『娘』の金色の瞳に見上げられると、自身との血の繋がりを確信せずにはいられない。顔立ちもどことなく似ていると船員達に度々言われる。両親と妹、故郷を失ってから得た、血を分けた初めての家族である。かわいいと思わないはずはない。

 だが医者としての性分が、どうしてもその思いを妨げる。一晩の交わりから数ヶ月経って突然突きつけられたルフィの妊娠、しかもある筈のなかった女性器のようなものが出現しているという話をチョッパーから説明されて、ローはあまりの衝撃で眩暈を起こし、自身の能力で調べてみればそれが紛う事なき事実と分かって卒倒した。哺乳類の、人間の男はその腹の中に、男の胤と結ばれるべき卵も、それを宿す為の胎も持ち得ない。だから男同士の交わりでの妊娠など生物学的にあり得ないという、その事実がありえない現象によって覆され、麦わらの一味からは再び「同盟」を結ぶ事で責任を取る事を半ば脅す口調と剣幕で迫られ、当のルフィは親になるという覚悟をとっくに括っていた後だった。ローにとって責任を取らないという選択肢は、最初から無いに等しいものだった。

 結婚ではなく「同盟」という形を取ったのは、結婚は嫌だというルフィと、責任は取らせるべきだという主張をする麦わらの一味の船員達の折衷案の結果だった。

 当初ルフィは、ローの自由を妨げるわけにはいかないから連絡も何もしなくていいと、頑なな態度だったという。妊娠が発覚してからローに電伝虫の連絡が行くまでの間の空白は、即ち一味の説得にルフィが根負けするまでを要した期間である。それを聞かされてローは心が動かないような冷酷な男ではない。責任を取る覚悟と少しの自棄の気持ちで同盟を再び結ぶ事を了承したが、自身の部下であるハートの海賊団の船員達にその旨を説明した時の、彼らの驚愕と困惑と憐憫が入り混じった反応と視線を思い出すと、ローは今でも自分のしでかした事に対しての報復じみた物を感じずにはいられなかった。

 それでも責任は取ると決めたので、ルフィがその身に宿した赤ん坊もきっと無事に取り上げてみせると約束した。何せ人類史上例の無い、男の妊娠と出産である。心配と不安をよそにルフィは妊娠している殆どの期間を健康で過ごし、いざ出産となった時も安産で、『娘』も頗る健康体で生まれてきた。

 だが生まれたその時点で不可解な部分があった。新生児と母胎とが繋がっているはずの臍の緒が無い。なのに『娘』には既に臍がある。そして出産後に胎内から出てくるはずの胎盤がいつまで経っても出てこない。ローとチョッパーが焦るうち、『娘』が通ってきた子宮口も何もかもが、ルフィの身体から跡形もなく消え失せた。今度はチョッパーの方が卒倒する番で、ローも、出産に関わった船員達も、信じられない気持ちで愕然とした。

 荒れ狂う海なら“北の海”で、更にでたらめな気候と海なら“偉大なる航路”や“新世界”でいくらでも体験してきた。悪魔の実に宿る不可思議で時に不気味な力も見てきたし、使いこなせた。幾多の死線も潜り抜けてきた。常人では成し得ない数多の経験と研鑽を積んで生き残ってきたローですら、ルフィの出産には人智を超えたおぞましい何かの存在を感じずにはいられなかった。ルフィが口にした悪魔の実の別名、『ヒトヒトの実幻獣種モデル“ニカ”』──その実に宿る“神”は一体何を思ってルフィの腹の中に胎と胎児とを同時に放り込んだのかと、背筋が凍る心地がした。

 だが生まれてきた子供はどこからどう見ても人間の新生児である。その時のローが何とか意識を失わずに済んだのは、懸命に産声を上げる『娘』の存在によるものが大きかった。だが翌日、産後の疲れから目を覚ましたルフィから初乳が出て、一週間も経てば本格的に母乳が出始めた時はローの方が動揺した。見た目は男のまま、“神”からもたらされた『母親』としての機能がルフィの身体に未だ巣喰っている事が、やはり受け入れ難かった。

 信じられない事態の数々は、医者としてカルテに記入してある。だが、もし成長した『娘』がこれを目にした時、自身の出生について暗い気持ちになるのではと、人生に一等暗い影を落とす結果になるのではと憂慮しない訳にはいかなかった。今は健康でも、今後何かしらの特殊な症状が表れる可能性もゼロではない。だから、ローは手放しで娘を可愛がれない。

 けれど愛しく思う気持ちにも嘘はない。愛しいと思わなければ、『娘』の髪の毛やまつ毛が白いと気付いた時に、とてつもない焦りを剥き出しにはしなかった。かつて故郷の破滅の原因となり、ローの身体を蝕んでいた珀鉛の病が『娘』にも伝わってしまっているのではないかと、焦燥を隠す事が出来ずに何度も、過剰な程に能力で確かめた。結果は珀鉛ではなくルフィに宿る“神”の性質が由来で、瞳の色がローと同じ金色である事からアルビノでもなく白変種の特徴を持っているという結論に至ったが、ここでも『娘』が希少な特徴を持って生まれてしまった事を、複雑に思わざるを得なかった。
 そんなローの葛藤の分もルフィは『娘』に愛情を注ぎ、両船の船員達も彼女を心から可愛がる。情の深い船員達に恵まれた事を、ローもルフィも感謝している。ルフィは自身の身体に起きた変化や娘の特異さを「不思議だな」の一言で済ませ受け止めていた。あまりに悩まないので周りの方が心配になる程だったが、口には出さないだけでルフィにもそれなりに葛藤がある事をローは見抜いている。船長として強くあろうとするルフィは、親としても弱さを見せようとはしない。だからローは、サニー号と航路を共にするポーラータング号内にいるよりも、なるべくルフィの側にいることを選んだ。『娘』を愛しいと思う気持ちに嘘はないように、ルフィを愛しく思う気持ちにも偽りはない。もしルフィが弱音を吐く事があれば、誰より側で寄り添いたいという覚悟と自負故の行動である。


 『娘』の頭をルフィが丁寧に撫でていると、小さな手がルフィの指をぎゅっと握った。

「どうした?」

 優しくルフィが問いかけると、両手で更に力強く握った。あー、と喃語で何かを主張している。

「抱っこか?」

 ルフィが起き上がり、『娘』に一言訊ねて抱き上げた。正解だったようで、『娘』は無邪気に笑っている。首が座った彼女は日に日に表情豊かになり、可愛さが増す一方だった。ルフィはソファーから立ち上がると、ビンクスの酒を歌いながら自身の身体ごと揺らして『娘』をあやした。

 ローはその光景をじっと見つめる。ローもかつては両親にこうやってあやされた事があったのを、朧げだが覚えていた。妹も同じようにあやされていた、今では遥か遠くに感じるその記憶を、目の前の二人のやり取りによって否応なく呼び起こされる。

「……麦わら屋。もう少しマトモな子守唄はねェのか」

 ルフィが歌い終えたタイミングで、ローの口からそんな台詞が出た。ルフィも『娘』も、ローに視線を向ける。

「赤ん坊に“酒”なんて歌詞が入ってる歌は似合わねェ」

 屁理屈だとロー自身も分かっていたが、話しかけずにはいられなかった。目の前の二人は曲がりなりにも親子として絆を育んでいる。父親としてその輪の中に自分も入るべきなのではという思いが兆したローは、そんな事を口にした。

「別にいいだろ。飲ます訳じゃねェし、おれだって酒あんま好きじゃねェし。でもこの歌は好きだからさ」

 な、とルフィが『娘』に同意を求めるが、当の彼女はきょとんとしてルフィを見つめるばかりだ。

「文句があるならトラ男も何か歌ってくれ」

 言いながら、ルフィがまたローの隣に戻って腰掛けてきた。『娘』はルフィにしがみついてはいるが、視線はローに向けている。ローは少し悩んでから本を脇に置き、『娘』へ手を伸ばした。するとルフィがすかさずローの膝に『娘』を座らせた。反射的にローは彼女を支える。

「トラ男の歌、おれも聴きてェ」

 文句を言おうとしたローはルフィと『娘』の眼差しに耐えかね、しっかりと彼女を抱え直すと、やがて歌を口ずさんだ。ルフィも『娘』も黙ってそれに耳を傾ける。

「トラ男、自信無さそうに歌うんだな」

 ローが歌い終わった後の、ルフィの感想の第一声がそれだった。

「……騒いで泣かせるよりはいいだろうが」

 聴きたいとねだってきた割にはあんまりな感想に、ローもつい口を尖らせる。ルフィは「そうか?」と首を傾げ、「まァそうかな」と勝手に納得した。そうして『娘』の小さな頭を撫でるうち、やがて彼女は瞼を閉じて眠りに落ちた。ローは腕の中の赤ん坊の重みが増したような気がして、ぎこちなくではあるがしっかりと支え抱きしめる。その光景にルフィは目を細めた。

「ちゃんと父ちゃんだよ、トラ男は。大丈夫だ」

 静かだが力強い口調だった。ルフィはたまに人の心を見透かすような言動や行動をする。ローは何も言い返せなかった。『娘』の小さな丸い頭と、ルフィの丸い頭の二つを見比べてみて、似ていると思った。『娘』はローとルフィの、どちらの面影も宿している。


 ローがルフィの妊娠を確認して卒倒してから次に目覚めた時、視界に映ったのは心配そうに自身を見つめているルフィの顔だった。サニー号の保健室のベッドの上に横たえられているとすぐに気付いた。

「大丈夫かトラ男?チョッパーかお前の仲間呼んでくるか?」

 額に掛けられたタオルを取りながら起き上がるローに、ルフィは声を掛ける。

「チョッパーは今みんなに説明してくれてんだ。トラ男がおれの身体を改造したわけじゃねェって」

 あらぬ嫌疑をかけられていたらしいとローは把握したが、それには何も応えずにルフィの顔と膨らんだ腹とを交互に見た。

「……お前が妊娠したのは理解出来ないが、分かった。……だが赤ん坊の父親は本当におれなのか」

 その問いかけは、ローの最後の念押しだった。せめて違うと言ってくれれば、まだ引き返せる可能性はあると縋った。自分自身の発言に胸の痛みを覚えながら、ローは問いを重ねた。

「お前、おれ以外と寝た経験は無いのか」
「……?寝た経験ってなんの事だ?」
「──酔ったおれとしたあの日の晩みたいな事を、他の誰かとしてねェのかって訊いてるんだ」

 再会がとても嬉しかったのに、素直に喜べなかったあの日の夜。普段より酒を呷ったローはルフィをポーラータング号の中に招き入れると、そのまま情事に縺れ込んだ。ルフィは抵抗せずローにされるがまま、肌を許した。その情熱的な交合の記憶は、翌朝ローは半分以上が吹っ飛んでいたにも関わらず、ルフィはローを責める事なく朗らかだった。だがローの確認の問いかけには途端に不機嫌になり眉を上げた。

「するわけねェだろ」

 抑えきれない怒気がルフィの声音に滲んでいた。

「あんなエロくてぐちゃぐちゃになるような事、トラ男以外とするわけねェ」

 耳を赤くしてそう告げたルフィを前に、ローは歓喜に湧き上がればいいのか、はたまた絶望に沈めばいいのか分からなくなってしまった。


 ルフィが身籠った事は、素直に好意を示せないまま情事に及んだ自身へ下した“神”の罰なのかと、ローがひとり悩み葛藤した事は一度や二度ではない。子供は授かり物というが、それならば何故わざわざ“神”は自分達を選んで授けたのかと、ローはルフィに宿っているらしい“神”に問うてみたいが、それは不可能な事だった。

 『娘』と、彼女につられて微睡そうになっているルフィを眺めて、ローはその瞬間は医者としての性分よりも愛おしさの方が勝った。今更あの一晩の事も、『娘』の特殊すぎる生まれも無かった事には出来ない。『娘』が海賊の子として生まれた事実に悩む事もあるだろうし、それ以上に一生ついて回る出自について苦悩する日がいつかは訪れる事が、想像に難くない。

 それならばせめて、愛情だけはたっぷり注いで、生まれてきた事が間違いではなかったと証明したいと、愛にだけは疑心を持たないようになってほしいとローは心から思った。自身を命懸けで愛してくれたロシナンテのように、支えてくれる船員達に恥じぬように、そして産む事を決意したルフィに寄り添えるように。

「麦わら屋。……お前が」
「うん?」
「……愛情深い性格で、良かった」

 今のローに出来る精一杯の愛情表現の言葉に、微睡かけていたルフィは瞼と顔をパッと持ち上げる。ぱちぱちと瞬きをした後、「ししし」と特徴的な、いつもの笑い方をした。

「そりゃトラ男の事だろ」

 ルフィは嬉しそうに、文字通り腕を伸ばして『娘』ごとローを抱きしめた。


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