case.1 傍観者

case.1 傍観者


※現実での性犯罪を肯定するものではありません

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──格子の向こうに、女がいた。

 

骨のような女だった。

百合のような女だった。

 

一点の穢れもない白い衣裳。

腰まで届く、寒々しい流氷を思わせる水色の髪。

投げ出された手足は幽鬼のように白く。細く。どことなく艶めかしく。今にも折れてしまいそうなそれは、女をいっそうたおやかに見せていた。

 

うつくしいおんなだと、男は思う。

血の通った健康美の対極にある、死を思わせる退廃的な美。

目を背けたいのに、逸らせない。

死神が人を魅了するならば、きっとこのような姿をとるだろう。

壺におさまるほどに小さくなった人間。役目を終えてぽとりとその身を落とす哀れな花。

とっさに脳裏に浮かんだその二つは、ただしく少女をとらえている。

ああ、鉄錆びた錠ですら、儚さの演出に一役買っていた。

であれば赤い首輪は血の演出か。首と胴が切り離された錯覚を起こしている。今しがた生を絶ったばかりのようだ。

 たしかに生きているのに、その身をもって死を体現する少女だった。


21の青年には劇物とも言える。

はく、と口を開けたまま立ちすくむ。

なにかを持っていたなら取り落してしまっていただろう。きっとその際の物音ですら男を正気に戻すことはないだろう。

白、よりも骨や百合を連想させる少女を見て、青年は──どこまでもくろい、純粋な黒を思うた。

豊かな感受性が仇となる。青年はいつまでも少女に見惚れ、いつまでも見つめていた。

目を逸らせず、瞬きすらできず、なにもせず、ただじっと。

ほうけた顔をさらしたまま、いつまでも、いつまでも──。


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