by a hair's breadth
requesting anonymityハッフルパフの7年生サチャリッサ・タグウッドはホグワーツ城に隣接している森の中で、実験に使う魔法植物を採取している内に、普段足を踏み入れない森の深部に入り込んでしまっている事に気づいていなかった。
(あ、こっちにもある。今日は大収穫ね)
杖で植物を採り反対の手に持った袋に入れる。特に「検知不可能拡大呪文」等はかかっていない丈夫なだけの普通の袋であり、採集すればするほどその袋はどんどん大きく重くなっていき、気づけば袋を持ったまま移動するのに杖で「浮遊」させる必要が生じていた。
「エクスペリアームス!!」
武装解除呪文の不意打ちがサチャリッサを襲う。そこは特に悪質な密猟者達の野営地の近くであり、そこの密猟者達の巡回ルート上に位置していた。
「こんな森の奥まで何しに来たんだい嬢ちゃん?」
汚らしい服装の大柄な男がニヤニヤしながら杖を構えている。サチャリッサが慌てて周囲を見回すが、彼女は既に10人以上の密猟者に囲まれている。
そしてサチャリッサは抵抗する術を失って、野営地まで連行された。
「クルーシオ!!」
悪辣な表情の女が唱えたその呪文によって、サチャリッサの身を経験したことがないほどの苦痛が襲う。しかし続けてその女が発した言葉は、サチャリッサに今以上の苦痛がこれから襲いかかる事を理解させた。
「アタシ1人じゃ体力が持たないから、ウチの男どもの相手するの手伝っとくれよ。嬢ちゃん美人だからコイツらも1週間くらいは飽きないだろうし」
そう言いながら悪辣な笑顔の女が杖を振ると、サチャリッサの両膝から下に全く力が入らなくなり、起き上がる事ができなくなった。
「誰かたす」
言い終わる前に別の男が杖を振って、猿ぐつわを噛ませる。
「誰が最初か」で言い争い始めた男たちを悪辣な表情の女が興味なさげに仲裁するのを眺める事しかできないサチャリッサは「そうなればこいつらは喜ぶ」と理解していたのでどうにか涙だけは流すまいと努力していたが、それもそろそろ限界だった。
「よし!!!俺からだ!!」
悪辣な表情の女の根気強い仲裁によって順番がついに決まったらしく、かなり醜く太ったゴブリンがサチャリッサの目の前に歩み出た。
「じゃあ早速―」
そのゴブリンは言い終わる前にいきなり宙に浮き上がり、赤く塗られた樽に「変身」した。それを見て敵襲だと理解した密猟者達は殺気立って周囲を見回す。
樽はサチャリッサから最も離れた位置に居た細身の男に向かって射出され、その男を巻き込んで大爆発する。
「アルバスは檻全部開けて、動物をこのかばんの中に」
その声を聞いて誰が来たのか察したサチャリッサはとうとう泣くのを堪えられなくなった。
「ペトリフィカストタルス!!」
放たれた全身金縛り術をその女生徒は杖を持っていない方の手で払い除ける。無言かつ杖なしで「盾の呪文」を使用するのは、この女生徒が最近連日練習して身につけた新技術で、その実戦練習の為に手頃な密猟者を探していたのだった。
「アクシオ」
服を引っ張って「呼び寄せ」た密猟者の口に、女生徒は自分の杖を喉まで突っ込む。
「インセンディオ」
そしてそのまま密猟者の喉の奥に火を放った。呼吸器系を焼き払われたその大柄な男は断末魔の叫びを上げる事すらできずに倒れ、動かなくなる。
「クルーシオ!!!」
悪辣な顔の女が「磔」を唱えるが、女生徒はそれを防ぎも避けもせず平然と受ける。
「クルーシオ」
「磔」を浴びながらその女に杖を向けて気軽に唱えた女生徒の磔の呪文によって、悪辣な顔の女は地面に倒されて手足を縮めて痙攣し続け、やがて静かになる。そのまま無表情の女生徒にその野営地の密猟者達は1分かからず全滅させられた。
「大丈夫かいサチャリッサ………アルバスちょっと向こう向いてて!!」
女生徒によって自分の足にかけられた呪詛が解かれた瞬間、サチャリッサはその女生徒に飛びついた。
「今日の髪型も素敵だねサチャリッサ」
そう言いながら女生徒は杖を振って、サチャリッサの衣服についた土を落とす。
恐怖と絶望からの涙は我慢できても安心から来る涙は抑えられないサチャリッサは言葉が言葉にならず、ただただ女生徒に抱きついて泣き続けた。
「アルバスー、サチャリッサが森に来る理由ってたぶん植物集めで、近くに集めた植物が袋か何かに入って落ちてると思うからそれ探してきてー」
自分の方を見もせずに言い渡された指示に、ダンブルドア少年は黙って従う。
「…………落ち着いたかいサチャリッサ?」
顔を上げたものの抱きつくのはやめないサチャリッサに、女生徒が優しく訊く。
「ありがと」
涙声でやっとそう言ったサチャリッサに女生徒は再び杖を向け、その顔と髪の汚れをきれいに取り去った。
「自分で歩けるかい?それかカバンの中に入っててもいいけど」
「あるける」
「とりあえずウィゲンウィルド薬飲んでね」
見るからにまだ元気が無いサチャリッサの頭に手を回し、もう片手で瓶に入った水薬を飲ませた女生徒は、サチャリッサの顔を覗き込む。
「クッキーあるけど食べるかい?………いらないか………そっか………でっかいフンコロガシ見る?………‥そっか………えっと、えっと………スフィンクスとなぞなぞ勝負とか…………しないか…………どうしよ…………え、何?ごめん聞こえない。え?ホントに……?そうしてほしいならするけど………アルバス見てないよね……」
そこに戻ってきたダンブルドア少年は、空気を読んでもうしばらく他所へ行っていたほうがいいのかどうか悩んだあげく、2人が離れるのを待ってから声をかけた。
「取ってきました先輩、あとタグウッド先輩の杖も見つけました」
「ありがとアルバス………サチャリッサは今度から森には僕と一緒に行こうね?」
サチャリッサ・タグウッドがある程度気を持ち直すのにはその後数十分を要し、すっかり元気になるのには丸1日を必要としたが、心配する周囲をよそに、サチャリッサ本人の脳内では、その日の事は主にその助けてくれた同級生とのやりとりが原因で「嬉しい思い出」として記憶されたのだった。