bitter,better,process.

bitter,better,process.

天童ウラキ、吶喊します!


そもそも、ヴェリタスはキヴォトスの最先端とまで呼ばれるミレニアムのエリートハッカー集団である。

普段はその技術を用いて各々がやりたいようにやっているが、その力の矛先が一方に向いてしまえば。


「…こういうの、芋づる式っていうんだっけ?」


「喋っていないで手を動かして、マキ」


カタカタとキーボードを打つ手は止まらなく、セキュリティホールを潜って見つけたアドレスを行ったり来たりする彼女達は、紛うことなきエリートハッカー集団だと言えるだろう。


「そういえば、なんでチーちゃんはトリニティにハレ先輩をお使いに行かせたんだっけ?」


「あそこは少し前から良くない噂が聞こえてて、どこかで裏を探ってみようと思っていたの」


「でもああいう所はだいたい書面でやってそうだけど?」


「インターネットはインフラよ。トリニティただってスマホやパソコンが無いわけじゃない」


「だからあんな設備まで使って足掛かりを作ったってこと?まあデザインの監修出来たから文句がある訳じゃないけど」


マキと部長の会話がイヤーマフ越しに聞こえてくる。そういえばノイズキャンセリング機能を切っていた。

マウスを叩きながら左手で耳元のボタンを押し、周囲の音を断絶する。

近辺のインターネットに接続し、取得できた情報ををできる限り暗号化してヴェリタスのネットワークに持ってくるだけの設備は、ハレが展開してくれたもの。

それを用いてハレを何とかするために動くなんて、こんな因果もあったものだ。

話を聞きながらコタマはそんなことを思っていた。

キーボードを叩きがら2人の話を聞いていると、不意に赤髪の少女がコタマの方を向いた。


「コタマ先輩の音声データを疑うわけでは無いけど…ほんとにハレ先輩がドラッグなんかやってたの?」


「もう1回聞きましょうか?」


「……いや、遠慮するね」


コタマが声の方向を見もせずに言葉を投げると、マキがうんざりした様な声と共にモニターと睨めっこする作業に戻る。


(私ながら気が立っている……)


自己分析も程々に、ふとマウスをクリックする手が止まる。


「…これは……」


トリニティにしては上出来なセキュリティに守られていたそのデータ。しかし。

(2分あれば突破できる)

コタマが結論付けた所要時間は、しかし彼女には多すぎた。

ここぞとばかりにキーボードを指先で虐待し、求める真理のために壁に開いた穴をこじ開けていく。


「ビンゴ」


「ん?」


「お?」


思わず口端が引き攣るように上がるのを感じる。

間違いない、これがハレが飛び込んでしまった問題の正体。


「……『砂糖』。アビドス生まれトリニティ育ちのドラッグ」


辿り着いた真実は、決して私が望まないもの。

それはドラッグ。

万一の希望、間違いが、なくなってしまった。


「……やはりハレは、この『砂糖』を…」


「いや、違うドラッグかも…でも、接触する価値はありそうね」


「それって、密売人と会うってこと?危険じゃない?」


実際マキの言う通り、招待の知れないドラッグバイヤーと会うのは危険性を伴う。

マキはいいとして、コタマとチヒロは前線で戦うのには向いていない。

つまり、実際に調査するとすれば……


「マキ、仕事をしてもらいます」


「……え?」



……そうして、赤髪の少女はアビドスに降り立った。

砂だらけの土地を踏みしめるスニーカーは、いささか不機嫌そうな靴音を立てている。

砂に埋もれた廃墟はグラフィティを描くのに丁度よさそうだが、今はやっている場合じゃないみたいだ。

左手に掴んだ水筒を振って中身の量を確かめる。


「まだ少しは残ってるけど…校舎はどこ……?」


右手に広げた地図では、そろそろ見えてくるはずだ。

しかし、こんな砂に犯された街にまともな建物があると思えないが…


「うへ、なんの用かな?」


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