acquired

acquired


さっきまで娘が歳の割には達者に弾いていた琴の音が聞こえないな、と平子はふと気付いて手を止めた。

誕生日に浦原から贈られた新しい「玩具」に最近夢中な娘は元気な日は楽しそうに爪弾いて遊んでいるのだ。末は音楽家かな、と親バカの顔でローズが微笑んでいたのも記憶に新しい。

今朝は割合に元気だったはずが、ひょっとして急に体調が悪くなったのか?

いてもたってもいられなくなり、大急ぎで着物の裾を乱して大股で廊下を歩く。泣き声はない。今日はみな仕事なりで出払っているから、誰かと話し始めて手が止まったということもないはずだ。

「撫子?入るで…!?」

乱暴な手つきで襖を開けた瞬間目に飛び込んだ光景に驚き、平子は開け放した襖を閉じもせずに慌てて娘の元に駆け寄った

小さな体は琴の横で丸まっている。着物の裾が乱れて覗く折れそうな肉の薄い脚が、赤く爛れてケロイド状に──娘自身の霊圧で灼かれているのだ!

「あかん…!撫子、撫子!しっかりせえ!」

微かに呻くような声が聞こえて、まだ生きていると確信する。娘のために手に入れた上等の毛布で体を包み、脚が痛まないように慎重に抱え上げて部屋の片隅に置かれている電話機のダイヤルを回す。

「ハイ浦原商店d…「撫子の義骸が壊れた!足先から爛れておかしなっとる!今からそっち行く!」撫子さんが!?わかりました、すぐに新しい素体を調整しますから!」

早口で捲し立てれば浦原も慣れたもの、すぐに了解したのを聞いて受話器を置き、目立つ髪を隠すよう引っ詰めて帽子を被ると娘の体を毛布ですっぽり頭まで包み直してやる。

「撫子、すぐ大丈夫になるからな、ちょっとだけ我慢や」

か細い声で呻くように返事をした娘を抱え、平子は浦原商店への最短経路を駆け抜けた。

Report Page