Z-EROが見た夢

Z-EROが見た夢



鋼鉄の乙女は夢を見るのか、という問いかけは世間でも企業宛によく送られてくるらしい。

答えから言えば、イエスともノーとも言える。

私達鋼鉄乙女はスリープ状態の間にAIがメモリを反芻し、不要な情報を仕分けて削除する。その反芻時の再生行動を「夢を見ている」と評するのなら、私達は夢を見るという事になるのだろう。

(ぐ……あ……)

故に、私が見ているこのメモリは、言うなれば「悪夢」に分類されるのだろう。

(右38°方向から射撃……脚部出力不調、地面に転がって回避……)

再生するのは今までの戦闘のメモリ。違法改造された同胞達から襲われ、その全てを掻い潜り手にかけた時の再現。

(狙撃用マルチライフル残弾2、照準調整……頭部着弾)

彼女達は私を捕らえるべく襲って来ているだけであり、私は決して望んで戦っているわけではない。彼女達が私を狙うのは、私が全ての鋼鉄乙女の祖であると同時に、私でしか再現出来なかった技術が搭載されているから。彼女達の「主人」は、その技術の全てを手に入れるべく私を手中に収めようとしているのだろう。勿論その手に入れた技術で何をしようとしているかなど、今の状況から容易に推察できる。

(残敵数は……!?)

そして、私とて毎回の戦闘に余裕で勝利出来たわけではない。度重なる戦闘、ままならない修復、違法武器の使用による後遺症……それらの蓄積が、少しずつ私を鈍らせ、彼女達につけいる隙を与えてしまう。

(センサーに感は無かったはず……!出力、上回れない……!)

例えばこのメモリのように、不意打ちに対応出来ずパワーアームで羽交い締めにされたような。

(脱出策、ライフルを投棄してアームの隙間から打撃して……あうっ!?)

……おかしい。このメモリではライフルを腕から外し、肘打ちで拘束を無理矢理解除させたはずだ。だが今、私は拘束されたまま胸を弄ばれている。

(何故だ……!いや、とにかく一刻も早くっ!?)

立て続けに口から発せられる高周波が電子頭脳を襲う。思考を掻き乱し、私の中の処理しきれていない『Sv.Zl』を活性化させ、人間でいう所の「発情」状態へと私を堕としていく。

(いぎっ♡え、演算回路に異常っ♡体が、体が熱暴走をっ♡)

武器庫であるはずの胸を弄られ。急所であるはずの股に侵入を許し。なんて事のない暴力が、私の体を昂らせ、追い詰めていく。

(しゅちゅ力ていかぁっ♡抵抗できにゃいぃ♡)

体が、心が屈服するように書き換えられていくのを感じる。力が抜け、身を敵へと委ねてしまう。こんな所で負ける訳にはいかないのに、負けてしまいたいという情念が渦を巻いて飲み込んでいく。

(博士♡はかせぇ♡ごめんなさいぃ♡)

上書きされていく。私の使命も、私の誇りも、私自身も。

(わたひ♡もう♡もどれないよぉ♡)

いや、あるいは。何もかもを放棄して、愛玩される人形へと成り果てる。

(イくぅ〜〜〜〜っ♡♡♡♡♡)

これが私の望みだったのかもしれな


「ッッッッッッッッ!!!!!」

唐突な回路の接続によりスリープモードが解除され、私はガバリと跳ね起きる。いや、今のは再起動だったのだろうか?

警戒して辺りを見回すと、建物内の薄暗い部屋の中。近くには鋼鉄乙女修理用の装置(旧型だが)と

「んがっ!?やっやべえ寝てた!!あ、気がついたんだなZ-ERO!」

私に馴れ馴れしい口をきいてくる男。こいつの事は一応メモリ上では『同盟相手』には分類してある。パートナーの鋼鉄乙女と共に、時に私の邪魔をし、時に私と肩を並べて戦う不思議な連中だ。

「いやー良かった!アイツらを追っ払った後急にシステムダウンするからさ、まさかやられたんじゃねえかって心配したんだぞ?」

キーボードの跡がついた顔でヘラヘラと笑いかけてくる。その言葉でようやくメモリの正常な引き出しが実施される。そうだ、私は組織の鋼鉄乙女達による襲撃を彼らとの共同戦線により切り抜けたものの、今までに積み重なった不調が悪化して強制的にスリープモードに移行したのだった。

「悪いとは思ったけど調べてみたら接続回路も駆動機器もだいぶガタガタだったし、違法ナノマシンの除去も併せてオーバーホールしてるんだよ。今必要な部品をなんとかジャンクから作れないか試してる所だからさ、もうちょっと我慢してくれよな」

……呆れたお人好しだ。私にとって彼はマスターでもなんでもない、全くの無関係な存在だ。それどころか、彼に刃を向けた回数だって一度や二度ではすまない。だというのに、彼は私の事を助けようというのか。全くこれでは私の立つ瀬がない。

実際、彼の言う通り私の電子頭脳が発するエラーと警告は以前に比べて7割ほど減少している。スリープ前と比べて身が軽く感じ

「ん?どうかしたのか?」

はたと自分の姿を再認識する。身に纏うマントは他所に置かれ、全身の装備は勿論胸部や臀部の装甲も外された、いわば「生まれたまま」の状態。オマケに股間からはメモリ整理機能の不調の影響か、ラジエーター液がとろとろと漏れ出している。

「もしかしてまだ不具合があるのか?おーい?聞こえてる?」

ああ、なるほど。先程『悪いとは思った』と言ったのはこういう事か。合点がいった。そうかそうか。

私の極めて優秀な思考回路は現在の正確な状況から次に取るべき行動を高速で算出し、

「だああああああああ!!!!!!」

「うおおおおおおおお!!!???」

取り敢えず、目の前の男を一発ブン殴る事にした。

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