Y談おじさん
『吸血鬼すぐ死ぬ』に出てくるY談おじさんとのクロスオーバー
「我が名は吸血鬼Y談おじさん!」
「吸血鬼Y談おじさん!?」
意気揚々とした声が目の前の男から発せられ、タンチョウは思わず内容を復唱してしまった。不覚。
現在タンチョウは久しぶりの休暇をドフラミンゴと久し振りに顔を出したロシナンテ、ローと共に町で買い物をして過ごすことにしていた。他の幹部陣やハートの海賊の乗組員達もそれぞれ町で買い物したりゆっくり過ごしているのだが。春になると可笑しな人が現れるというが、その類いの人間に絡まれてしまったようだ。タンチョウはドフラミンゴとロシナンテに渡そうと手に持っていたアイスクリームをそのままに思わず吸血鬼を名乗っているイタい人物をマジマジと観察してしまう。
仕立てのいいチェック柄の黄色いスーツ、整えられている髪、そしてステッキ。何より尖った耳と尖った牙。お伽話に存在する吸血鬼のような出で立ちだが、この世界に吸血鬼という存在は種族として存在しない。
海軍に引き渡す、いやタンチョウは海賊だからそれは出来ないな……。それとも医者に連れて行くべきか、丁度ハートの海賊もこの町にいる訳だしと悩んでいた為、反応が遅れた。目の前の人間が強そうではなかったので油断していたとも言う。
「それじゃあ挨拶代わりに。君たちにY談の幸あれ!」
ピカ!
男が持ち上げたステッキの先端の球体から光が迸る。悪魔の実の能力者か?!アイスを投げ捨てて身構えるが何も起こらない。……?
「禁欲的なスーツから覗く鎖骨ってエロいです」
……!?何のつもりだと問おうと口を開いたタンチョウの口から全然違う言葉が飛び出す。何、何だ!?
「腰から尻の流れるラインは素晴らしい!」
「胸に挟まれてバブみを感じたい」
「あの日のお姉さんとの純粋な日々、それにこそエロティシズムを感じるのですよ」
「わかる、剃り残しを恥じらう女人からしか得られない栄養がある」
周囲から突然猥談が飛び交い始め、じわりと嫌な汗が流れる。まさかこれは。
「アハハハ!いやー溢れ出るY談の素晴らしいことだ!この世界でも変わらずだ!」
涙を流しながら笑って楽しそうにしているY談おじさんとやらは此方の剣呑な視線に気が付くと、ニヤニヤしている。
「私の能力はY談波を浴びた人間の言語中枢を狂わせ、全てをY談に変換する。素晴らしい能力だろう」
「臍から股間に向けてのラインは良い!」
「酷いとは随分な言い草だ。しかしまだまだY談力が初々しいね」
とんだ酷い能力ですけど!?と叫んだつもりが再び変換されてしまいタンチョウはグググと唸る。しかしこの男、Y談の裏に隠れた本当の言葉を理解しているようだ。早いところとっ捕まえてしまわないと他にも被害が出てしまいそうだ。主にドフラミンゴとかロシナンテとかローとかロシナンテとか。絶対ロシナンテ被害に遭いそう。
「おっと、私は戦闘能力はからっきしでね。なので逃げる」
「スーツの裾がパンツスーツから僅かに出てるのって良いですね!」
踵を返して逃げ始めたY談おじさんに待てこの野郎!と怒鳴った言葉すら変換され、タンチョウは待たせていたドフラミンゴ達を放って走り始めたのだった。