Xデーは一分後

Xデーは一分後


※五つ目のスレ冒頭の過去宛タイムカプセルを受け取ったアオキさんによるジムリーダー生存if

※アオキさんに夢を見てる人間が書いてます

※長いです。4000文字越え

※頭空っぽにしてお読みください

※なんだこれ受け付けねえ!ってなったらピッピ人形を投げてください

 "なげつける"のは勘弁してください




チャンプルタウンのジムリーダー兼、パルデアリーグ四天王副将兼、パルデアリーグ営業。三足の草鞋を履いて日々を過ごす男、アオキはその能力の非凡さに似合わず平凡を求める男であった。

しかし今日この日、彼は平凡な日常から追い出された、否、出ていくことを余儀なくされた。


眼前に迫るは、一般的に知られるポケモンたちによく似た姿の、全く別種のポケモンたち。彼らは相対する敵、アオキとアオキのポケモンたちを蹂躙せんと現在進行形で襲いかかっていた。後にパラドックスポケモンと呼ばれる侵略者たちを相手に奮戦するアオキたちであったが、戦況は良いとは言えない。

アオキの手持ちのポケモンたちは侵略者相手に必死に戦っているものの、明らかに劣勢であった。一匹の実力であれば決して劣りはしないのだが、その実力を凌駕してしまえるほどの数が敵にはあり、疲労とダメージで今にも倒れてしまいそうだった。

それでも彼らが持ちこたえているのは、トレーナーであるアオキと共に覚悟を決めたからだった。

ポケモンたちの戦いの余波、あるいは侵略者の攻撃に被弾したことによってアオキは身体のあちらこちらに傷を作っていた。この戦場に彼以外の人間が存在したなら今すぐこの場から退くよう彼に言っただろう。だが、アオキには今、戦場から撤退する選択肢は存在せず、むしろ残って戦わなければならない理由があったのだった。


***


アオキがジムリーダーを務める街、チャンプルタウンはパルデアのブラックボックスとでも言うべき場所、パルデアの大穴へと通じるトンネルに一番近い街だった。それ故にアオキの上司であるトップ、オモダカは彼に大穴の周辺のパトロールや有事の際の対処などを命じた。

その日、アオキは大穴の監視などの設備があるゼロゲート内部に立ち入った。メンテナンスなどはアオキは門外漢だが、彼に分かる範囲だけでも異常が無いか、定期的に確認の必要があった。


「……異常なし。まあ、それが一番いいことですが。」


メインコンピューターの動作チェックを終えて、街に戻ろうと端末の前を離れようとしたその時、目の前の端末が何らかの電波を受信したことを知らせてきた。少なくともアオキの知る限り使用されたことのない機能の動作にあまり良い予感はしないものの、それを放置するわけにはいかず受信したそれを確認する。


「通信?まさかエリアゼロの観測ユニットから?いや、発信元の表示がおかしい……。」


リアルタイムの通信であることに、監視の目を掻い潜り大穴内部に侵入した人間が助けを求め連絡してきたのかと考えるも、発信元の表記は観測ユニットの名を示すどころか、まともな文字列を見せてくれなかった。


「確認するしかないですか。」


不信感を抱くものの、確認しないことには進展はないだろうと判断したアオキはその通信を受けとる。


『───お元気ですか─ザザッ─皆さま』


程なく、声が聞こえてくるが、その声はアオキにとって予想外な人間の声だった。


「トップ……?」


何故、彼女の声が。

もしオモダカがアオキに用があるなら、スマホロトムで連絡を入れてくるはずだった。長考に入りかけるアオキだったが、通信先の彼女はこちらを気にすることなく話を続ける。誰かに語りかける言葉は、しかしそれを聞く相手の存在を認識していなかった。


『皆さまの知るオモダカでは──ザザッ』

『───過去、あるいはこれから辿る可能性のある未来の存在です。』


アオキの疑問に、通信先のオモダカが答えを提示する。つまりこのオモダカは、現在リーグにいるオモダカとは別の時間に生きるオモダカであるのだろうとアオキは考えた。理解しようとすることはやめておくことにした。

では何故、彼女は過去、または未来に連絡をしたのか。その疑問もまた彼女の話を聞いて納得せざるを得なかった。


通信先のオモダカは長時間に渡り惨劇を語った。

曰く、大穴より現代に存在しないポケモンが現れた。後にパラドックスポケモンと呼ばれるようになった彼らはパルデア中を襲い、それによりジムリーダー八人が死亡した。

他にもその惨劇の糸を引いた組織の存在や、パラドックスポケモンは過去、未来の存在であることなどの情報。非現実的な話であったが、無視の出来ない話だった。


「なるほど、参考にさせていただきます。トップ。」


彼女との一方的な通話の記録はしっかり録ってある。こちらのオモダカに報告を入れてから記録をリーグへと送ろうと考えていたそのとき、本日二度目の非日常の通達がされる。同時に一度目には無かった警報が鳴り響き、アオキのスマホロトムもまたけたたましい警報音を鳴らして目の前に飛び出てきた。


『エリアゼロにて異常発生を確認したロト!』


スマホロトムを静かにさせつつ、端末を操作して監視機器を確認する。大穴の壁には生物が通過した際に反応を示すセンサーが高度を変えて三セット設置されていた。反応を示したのはエリアゼロに一番近いもの、つまりエリアゼロから地上へと向かう存在が出現したということだった。

たった今パラドックスポケモンへの対抗策を聞いたばかりであり、アオキは一体ならば問題なく対処可能であると判断した。しかし異常はさらに膨れ上がる。


『エリアゼロにて異常発生を確認したロト!』

『エリアゼロにて異常発生を確認したロト!』

『エリアゼロにて異常発生を確認したロト!』


スマホロトムの警報音をどれだけ止めても、すぐにまた警報音が鳴り出す。目の前の端末もまた異常を知らせることをやめなかった。


(一体どころじゃない。何体出てきているんだ?まさか……)


未来のオモダカが語った惨劇が脳裏を過る。その裏付けを得る方法にアオキはすぐに思い至った。

エリアゼロ内部の観測ユニット付近にはゼロゲートとリーグの端末でのみ確認できる定点カメラが設置されていた。第一観測ユニットのカメラならば今のエリアゼロの状態がよく分かるだろう。

アオキは手を動かす、すぐに今のエリアゼロの映像がモニターに広がった。


それを確認して、アオキは。


「……ああ、そうですか。」


それだけ、呟いた。


『トップから電話ロト!』

「繋いでください。」


警告ばかりを告げていたスマホロトムが、ようやく別のメッセージを告げることを許された。アオキは今までで一番の早さでオモダカからの電話に応える。


「アオキ、緊急事態です。エリアゼロで異常が」

「知ってます。丁度ゼロゲートにいたもので。」

「そうでしたか、ならば話は早いですね。先ほどから警告音が鳴り止まないのです。恐らく大穴の下からはかなりの数のポケモンたちが」

「トップ」


せっかくの一方通行ではない通話だったが、アオキから見て最早一刻の猶予もないのは文字通り"目に見えていた"。恐らく彼女はまだ映像を確認出来ていない。

オモダカと通話しつつ、手を動かす。二つ目のセンサーが異常存在を感知したという通知が見えた。


「先ほど未来のトップから連絡がありまして、音声データはリーグに今送ってます。確認しつつ動いてください。」

「アオキ?一体何の話です。」

「自分から言えるのは、未来のトップが語った、今の自分たちにとってのXデーは今日。すでに目前まで迫ってるということですかね。」

「!?これは……」


観測ユニットの映像を確認したのだろうオモダカの声がアオキの耳に聞こえてきた。音声データの送信が完了したことを確認したアオキは最後にモニターに広がる光景を見て、外に向かって歩きだした。

映像には多くのパラドックスポケモンが集まり、上を目指す様が映っていた。飛べるものは飛んで、そうでないものは飛べるものの背に乗っていたり、崖を這い上がろうとするものもいた。


「トップ……あなたは自分に振る仕事の量は多かったですが、それさえ除けば、まあ、悪くない上司だったと思ってますし、あなたがパルデアの指導者であることはこのパルデアに生きる者たちにとって幸福なことだなと思います。……仕事は最後まで全うしますので、そこは安心してください。」

「待ちなさい、アオ───」


ブツリ、と彼女の言葉の途中で通話を終えて、スマホロトムの電源を切った。手持ちたちとはまた違った形で長いことアオキを支えてくれた相棒であったが、警告は既に意味のないものだったし、下手に飛び回られたほうが危ないだろうことは容易に予測できた。


三番目のセンサーの警告音が、ゼロゲートから立ち去るアオキの背を、そして覚悟を後押しした。


大穴を眼前に、アオキは思考した。


(どれほどの数の敵が現れる。ああトップにはもっと感謝も苦情も言いたかった。ムクホークたちを巻き込んでしまう。焼きおにぎりが食べたい。どれだけ耐えられる。)


──自分の力で、どのくらい未来を変えることが出来る?


数分前は想像でしかなかった現実味のない悪夢は今、確かな実体を伴ってすぐそこまで来ていた。


(自分一人ならまだ良かった。それならパルデアが受ける損害は軽いものだった。だが、自分以外の7人のジムリーダーの死、それは人々の日常を奪い去るのに十分すぎる。)


手持ちたちを出す。今連れている手持ちはジムリーダーとしてのノーマルポケモンたち。それに加えて四天王時の手持ちであるカラミンゴも連れてきていた。

自分の死の覚悟を決める一方でアオキは躊躇した。この場で戦うのはアオキの都合であり、死出の旅路に彼らを伴うのはあまりに自分勝手なのではないか、と。


「ピュイィ!!」


突如としてムクホークが鳴き声をあげ、釣られるようにアオキは視線を向けた。ムクホークと目が合う。彼はアオキを睨むように見つめていた。


舐めるな、覚悟はとっくに決めてる。


彼はそう言っているような気がした。

アオキが他の手持ちたちを見渡せば、皆真っ直ぐにアオキを見つめていた。


「……そうですね、すみません。皆さん、こんな自分とここまで一緒に戦ってくれてありがとうございます。……最後まで、お願いしますね。」


任せろと言わんばかりの表情を浮かべた彼らはアオキに背を向ける。いつもの頼もしい相棒たちの背の向こう側に、招かれざる客の姿が見えた。


目を閉じて、大きく深呼吸。目を開き、敵を見据える。

アオキたちの勝利条件はただ一つ。


───"自分たち以外の"犠牲を発生させないこと。


「それでは、業務開始です。」


時代錯誤な珍客には、お引き取り願おう。

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