W妄想SS
「『参観日のお知らせ』……ね」
「小春ちゃんの部屋に捨てられてたんだけど、一応保護者だろ。見ておくべきかと思って」
くしゃくしゃのプリントを丁寧に広げた祐は、僕も行こうかなと恐ろしいことを言い出した。
「なんでゴミ箱の中身見たんだ」
話を逸らす試みは「清掃員入れるなって言ったの君じゃないか」とあっさりかわされ、どころか「小春ちゃんがこんなことした理由を考えなきゃいけない」などと説教が始まる始末。
「まあ、予想はつくよ。君は授業参観ってガラじゃないし、今は仮面ライダーだ。来てくれと言い出しづらいんだろうね」
「……言っとくが、一回だけ行ったからな。なんか居づらいんだよ。母親ばっかだし」
祐は今までで一番大きなため息をつく。じゃあお前も経験しろよ。何あの人、不審者かしら、ロリコンかも、とお母様方に陰口叩かれる気持ちがわかるのか。親父ならまだしも、俺は父親で通じる年齢じゃないし、顔も似てないから兄妹とさえ言えないのだ。
「今回は絶対に行くべきだ。僕もついていくし、保護者に話しかけられたら相手するよ。小春ちゃんだって、紡に来てほしいと思ってるはずだ」
「なんで言い切れるんだ」
「来なくていいならそう言うだろう。口に出せないからプリントを捨てたんだと、僕は思う」
気持ち悪い合理主義のお前ならそうかもしれないが、年頃の女の子である小春に当てはめるのは──だが俺は反論をやめた。一度だけ足を運んだ時は警備員を呼ばれたし、その後は学校の前まで行って、やっぱりやめて……の繰り返し。よくないとは思っていた。
「わかった。行けばいいんだろ」
「清潔感のある格好でね」
言うなりスーツを選び始める祐。そこまで気合入れる行事じゃねえぞと言うのが精一杯だった。
***
「参観日ですか?」
「はい……小春はノゾムさんに懐いてるっぽいけど、なんか聞いてました?」
「私は聞いていませんね。でも、小春さんも言わないだけで、伊佐凪さんが来るのを望んでいると思います」
ノゾムさんは長い前髪の奥で微笑んだ。祐に言われるのはムカつくが、どストライクの綺麗め美人なノゾムさんに言われるとやる気が出る。
「そうだ、よかったらノゾムさんも来ませんか? 小春も喜ぶと思うんで!」
「私が、ですか。……そうですね、少しだけ見に行こうかしら」
弟の参観日もよく行ったから、とほとんど無意識みたいにつぶやくノゾムさん。
「弟さんいるんですか? 初めて聞きました」
「え? あ、ええと、その…………ごめんなさい……」
「や、すんません、問い詰めるつもりはなくて! 話したくないこととか誰にでもあるし!」
危なかった。ノゾムさんは弟の話題がタブーなのかもしれない。複雑な家庭環境はどこにでもあるものだ。
しかしダメ元で言ってみたのにラッキーだった。ノゾムさんも来るらしいからお前来なくていいぞ、と祐に伝えたら、虫食ったみたいな顔をしていたが。
***
参観日当日。
朝から俺たちもノゾムさんも要請を受け、学校と正反対の方向へ駆り出されたり、今まで倒した怪人を劣化コピーしてくるクソ野郎と泥試合を繰り広げたり、色々あったわけだが。
なんとか参観の授業には間に合った。俺と祐のシャツはすっかり汚れ、ノゾムさんのスカートも若干破れている。けれど着替える暇は無い。
「教室……ここだな……」
「間に合ってよかった、ですね……」
「紡、せめてネクタイだけ締め直して……ああ君結べないんだった。もういいか……」
お母様方は相変わらず怪訝な視線を向けてくる。薄汚れたチンピラ、胡散臭い笑顔が貼りついたバカ、一番まともなノゾムさんも明らかに何かあった格好だ。こんなことならやっぱり来るんじゃなかった──と思った瞬間、振り向いた小春と目があった。まんまるい目を驚きに開いて、俺たち三人を順番に見つめる。
授業中だから声は出せないが、唇が「ありがとう」と動いた。