Worst RABBIT

Worst RABBIT



私たちは、どこで間違ったのだろう…

「おい!少しは反応しろよ!」

バァン!

…痛い。

「まだ隠してるんでしょ?黙ってないで何とか言ったらどうなのさ!」

ドゴォ

…痛い。

「け、ケーキ……ケーキ……ケーキ!」

ダァン!

…痛い。

撃たれり、殴られる身体も痛いが、何よりも心が痛い。

規律ある正義を目指していたみんなが、

SRTとして共に困難を乗り越えたみんなが、

小隊の隊長として私を信頼してくれたみんなが、

ただ、ケーキが欲しいというそれだけの理由で暴力をふるっていることに私は心を痛めた。

私たちは、何を間違えたのだろう…

困っている人を助けるのは間違ってないはずだ。

人からの好意を受け取るのも間違ってないはずだ。

楽しみを最後に取っておくのも、先に楽しみを味わうのも間違ってないはずだ。

喧嘩を始めた隊員を止めるのは間違ってないはずだ。

怪しい食べ物を食べようとするのを止めるのは間違ってないはずだ。

…間違ってないはずだった。

ただ…こうして痛みの中にいると…それが間違いだったのではないかと考える自分がいた。

それでも私は…大切なみんなのために…私が目指す正義のために…止めないわけにはいかなかった。

「…」

そうして思考の世界に逃避していたら、いつの間にか暴力が終わっていたことに気付いた。

私は、ボロボロになっている身体を無理矢理起こして、あたりを見まわした。

「!!」

「……」

「…くひひ」

隊員のみんなは向こうで何かを話していた。

「」タッタッタッ

ぴょんこが私のそばに近寄ってきた。私のことを心配してくれているのだろうか。

「…ありがとう。ぴょんこ」

私は、近寄ってきたぴょんこを撫でてあげた。

「」ピコッ

私が撫でるとぴょんこも耳を後ろにしてリラックスしているようだった。

その様子を見て、少しだけ心が穏やかになった気が…

ダァン!

……えっ。

「い、言われた通りに撃ったけど……あ、当たったから……ゲームは私の勝ち……だよね?」

ミユの高揚する声が聞こえてきた。

「くひひ…でも生きてるじゃん。当てても生きてたら意味ないでしょ?」

モエの残念がる声が聞こえてきた。

「プッ、ククク」

サキの笑いをこらえる声が聞こえてきた。

そして目の前には…


銃で撃たれて、血をたくさん流しているぴょんこがいた。


「あ、あぁ、あぁあああああああああああああああ!?」

「プッ、アッハッハッハ!もうダメだ我慢できない!なんだよ今の顔!面白すぎるだろ!」

ぴょんこが撃たれた…ぴょんこが、私の大事な、先生から名前、ぴょんこ…ぴょんこ…ぴょんこぉお!?

「ぴょんこ!?しっかりして、死なないでお願い!ぴょんこぉおおお!」

「アッハッハッハッハッハッハッハ!ヒヒヒ、『ぴょんこぉおおお』だって、アッハッハッハ!『おおお』ってなんだよ『おおお』って!アッハッハ!」

私はサキの笑い声にも目をくれず必死でぴょんこを治そうとした…

でもダメだ。流れ出る血が多すぎて無理だ…

そうだ!病院、病院に!

ダァン!

「!?」

またミユが撃ってきた。私は必死になってぴょんこを庇った。

「ミヤコちゃん!……邪魔だからどいて!」

「ハッハッハ…ヒィ…笑い死にしそうだ…」

「どんだけツボってるのさ。でも…くひひ…ぴょんこを的にしたゲーム…面白いなぁ。言うなれば『ぴょんこゲーム』ってやつ?」

私はぴょんこを庇いながらみんなに問いかけた。

「どうして!どうしてぴょんこを撃ったんですか!?」

その問いに対してサキが答えた。

「はぁ?そんなのミヤコがケーキをよこさないからに決まってるだろ!?」

意味が解らなかった。ケーキ?…ケーキのためだけにぴょんこを撃ったんですか?

「そんな…ことの…」

「そんなこととはなんだ!私たちはケーキが無くてイライラしてるんだ!」

ダァン!ダァン!

「イッ!?いい加減にしてください!それでもSRTですか!?こんなの正義でも何でもありません!みんな規律ある正義に憧れてたんじゃないですか!?」

銃撃に撃たれながら…私はみんなを説得した。しかし…

「そんなことどうでもいいから隠しているケーキを出せぇ!」

ダァン!

返ってきたのは、無秩序な銃弾だけだった。

「!!」

頭に強い衝撃が走った…どうやらミユの弾が私の頭部に命中したらしい。

プツン

それと同時に、頭で何かが切れた音がした。

それを最後に銃撃が来なくなった。

「おい!どうしたんだミユ!?」

「た、弾切れ…」

「あーあ、せっかくいいところだったのにさぁ」

3人が弾切れに意識を向けているうちに私は、

ふらつきながらもぴょんこを抱えて、公園の外に出た。

そこからのことはあまり覚えていない。

ただ、獣医の人に言われた事だけが頭に響いていた。

『…正直に言いますと…助からない可能性の方が…それよりも貴女も病院に…頭から血が…』

そう言われて私は動物病院を出た。

助からない…ぴょんこ…どこで…何を…正義を…間違えて…

ゆるせない…ゆるせない…ゆるせない…

そうして歩いていると…あのスイーツ店が目に入った。

今日も大盛況なようで…無性に腹が立った。

人がこんなに苦しんでいるのに、あのスイーツ店にいる人たちはみんな幸せそうだった。

…気に入らない。気に入らない!気に入らない!気に入らない!


…気に入らないから、あのスイーツ店を潰すことにした。


私は襲撃する準備のために子ウサギ公園に戻ってきた。

「遅いぞ!何やってたんだ!」

サキ達がカンカンになって怒っていた。

そうだ…みんなを使おう。

「…落ち着いてください。実はいい考えを思いついたんです…ケーキがいっぱい欲しいですか?」

そう言うとみんな大人しく言うことを聞いてくれた。

最初からこうすれば良かったんだ…

そしてその日の夜、私たちはスイーツ店を襲撃して制圧した。

「スイーツはみんなに差し上げます。私は店員の人たちに用事がありますので…」

そう言って2階フロアに上がった。

そこには縛り付けた店員達がいた。

私はその店員達を引きづって、奥の部屋へと入った。

私はいままでの鬱憤を晴らすように、

店員達を痛めつけた。

しかし、いくら殴っても、撃っても、何もスッキリしない。

胸に何かが燻り続けてイライラする。

そのイライラを店員達にぶつけていた時、

「うへぇ~。その辺にしておきなよ~」

ホシノさんに出会った。

…私はホシノさんについていくことにした。

あの場に残るのが嫌だったこともそうだが何よりもみんなを完全に見捨てることが出来なかった。

そんな中途半端な甘さを私は捨てられなかった。

もう正義を語る資格もないというのに…

そしてアビドスに着いた時、私は悟った。

あぁ…きっと

「全部、間違えてたんですね…」

私の判断は全て間違っていたのだろう。だからこのような結果になったのだ。

「本当に…」

『最低』…それが私だった。

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(SSまとめ)

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