Who killed Cook Robin?
Couldn’t put Humpty together again. “ハンプティを元にはもどせない”笑い事である。そういうことにしておいた方が皆、安寧である。知らない顔をしておけばよいのだ。既に列車は走り出して止まることはない。お互い、顔を見合わせただけでそう合意は取れた。もう後は野となれ山となれ。神ならぬ身でこのことをどうにかするなど愚かで高慢で滑稽なのだから、今この事態の前では二人等しく運命に翻弄される矮小な生き物だった。
「柱間、お前マザーグースを知っているか?」
「コマドリを殺したのは誰か?という問いなら愚問だの」
「違いない。にしても、オレもお前も……いや、野暮だな」
「うむ。オレも何も言うまい」
柱間は愉快そうに笑っていたが、これはやけくその笑いでポジティブな面など一切なかった。嘆きも怒りも意味をなさないので笑っているとも言えたし、事態の深刻性に情動がおかしくなって笑っているとも言えた。ともかく、二人は慌てたり、事態を嘆くということも放棄してその場に坐していた。
「これも御釈迦様の掌のうちだったら爆笑モノだ」
「オレたちみたいなのをわざわざ気にするかの?」
「さぁ、どうだか。一匹の蜘蛛を助けただけの悪人をお助けになろうとする方だ。悟りを開けぬ凡愚には分からないだろうさ」
「今のうちに蜘蛛でも助けておくか?」
二人ともにやにやした。蜘蛛を助けた程度で柱間自身もどうにかなるとちっとも思っていないからこそにやついていた。覆水盆に返らず、後の祭り。放たれた矢はコマドリを貫いた。ここからどうにかできる人物が矢で射抜かれたコマドリであった。
「お互い正義の組織っていうのが余計に笑えるな」
「警察と軍のトップが下手人とは……」
「ミステリや推理小説だったら今頃読者が本を叩きつけてるぜ」
「オレたちが知らないだけで、伏線は張られていたのかもしれないぞ」
「それにしても、だ」
マダラが椅子から立ち上がり仰々しい動作で横たわるコマドリの側に寄った。舞台に立っているかのような動作で、コマドリの持っている紙切れを手に取り、柱間に渡した。柱間がその紙切れを読み、今度は爆笑した。紙切れには一言、驚いたか?と書かれていた。端からコマドリはこちらの正体を知っていたらしい。読み上げるのは憚られた柱間はマダラに紙切れを渡し、見るように促した。促されるまま見たマダラが柱間とは反して苦虫を噛み潰した顔をした後、力なく椅子に座った。
「どの段階から分かってたと思う?」
「オレたちに正体が分からないようにしていた時点で端からだろう」
「本当に性格ワリィなこいつ」
「そうか?こればっかりはオレたちが悪いと思うぞ」
柱間の言葉にマダラが片眉を上げた。性格が悪いのは確かだが、性格の悪いことをせねばならなかった原因は二人にある。それは主観でも客観でも事実であった。そもそも、二人して正体に気が付かなかったのはお笑い種でしかない。二人して前世は近くで見ていた所為でコマドリが伝聞になったときどう表現されるのかよく知らなかったのと、身の安全のために容姿の情報を丹念にコマドリ自身が消していたのはある。しかし、ちょっと余裕を作り二人とも考えればコマドリの正体に気が付いたはずであった。例えば、目の前に居る対立している組織のトップと手を組んで休戦をするとか。
「ご丁寧に修正パッチは遺していきやがって」
「これで確かに世界は元通りだが……」
「これの出所はオレたちにお任せとか性質が悪いにもほどがある」
「生きているよりかはマシと判断したのだろうな」
端から手を組むか形だけでも軍と警察で連名で協力要請をしておけば自害という手段に出なかったのか。それは残念ながらコマドリが囀らない以上謎のままであるが、生きてどちらかに与していれば確実に新たな禍根の種になったのは間違いなかった。暴走するアンドロイドのシステムを修正するプログラムを生成した救世主は、それを配布できる複数の組織に協力を呼び掛けていた。主に組織側の問題で上手くいっていなかったが。
己が生きている状態では一つの組織にしか渡せないなら死ぬ。コマドリは前世からそういう手段を取る人物であった。そして、コマドリの判断は最終的にはマダラも柱間も得をするだろう。軍と警察がコマドリの遺したデータを配布するために正式に手を組めば、アンドロイドによる被害も収束する。唯一の問題は、二人共コマドリの死亡によってそれが齎されるのは一切望んでいなかったということだろうか。
「本当に最悪だ」
「……違いない」
確かにこれで綺麗に世界という名の卵は元通りなのかもしれないが、二人が持っていた卵だけは戻らない。矢で射ったスズメは自分たちであったし、卵を潰したのも二人であった。そして、何より二人が嫌なのは自分たちがコマドリを殺した犯人だと誰にも告げることができないことだろうか。