Whatcha Whatcha Doin
ここはテーブルシティのファミリーレストラン。
大好きな人と今度はパルデアを巡るんだ。
一世一代の初めてのデート!
の、はずだったんだけど…
「ねえ、スグリ君はわたしのことが好きなんだよね?」
「好きだけど?」
曇りのない朗らかな笑顔で答える男の子。うーんいい笑顔だ!じゃないんだよ馬鹿。なんで来ちゃったんだよばか!
いや来ても良いって言ったけど社交辞令だってわからないかな普通!?
でも社交辞令といいつつ二人分の航空券贈った紛れもない大馬鹿野郎はわたし!
…とかいいつつ、久々に会えて嬉しいのは本当。
今も元気してるってのがわかって安心したのも本当。
あの日から変わらない笑顔がまた見られるってだけで、幸せなんだよ。
…その時に告白してくれて嬉しかったのも本当だから余計に複雑!
「ゼイユちゃんはわたしのこと好きなんだよね?」
「好きよ?だーいすき!嫌いだったらここまで来ないって」
スグリ君の隣で恋人みたいにべーったりくっついてるのは私が告白してちゅーまでしたはずの初恋の女の子。
うーん久々の蠱惑的な笑顔…じゃなくって!!!
あの日告白してその後色々ごたごたしたからいまいちお付き合い出来てないからさ、
だから今日こそ告白をやり直すつもりでパルデアに来てみない?なんてデートのお誘いをしたのにさ!?
なんでスグリ君を連れてくるんだよ!いや航空券二枚あったら連れてくるよねごめん!
それに、二人がべったりしちゃう理由は嫌というほどわかる。
わたしが真夜中に人の居ない所で告白したいなんて思っちゃったからスグリ君が行方不明になっちゃって、
すごく悲しんでたから帰ってきたスグリ君のこと一時も手放したくない気持ちは痛いほどわかる。
わたしだったら怖くて二度と手放せない。
でもさ、でもさぁ、理解できるのと納得できるかは別なんだよ。
「なんで二人が隣り合って座ってるの…?
普通、わたしを挟んで三人で座るものじゃないの!?」
「姉弟だし…」
「何~?またヤキモチ焼きたて?」
「どっちか一人こっちに来てほしいなぁ!?
眼の前で好きな人が好きな人に取られてるこの気持ちがわかる!?
酷いよ酷いよ!人生で初めて告白したのに!ちゅーまでしたのに!
あと人生で初めて告白されたのに!まだお返事すらしてないのに!」
好きなもの×好きなもの。だから本当は喜ぶべきことなんだ。
なのに喜べない…!胸がムカムカして頭がガーってなるの!
姉弟だから仲良しなのは良い事のはずなのに!本当にわたしって心が狭い!
「お返事が返ってこないからもう終わったのだと考えてた」
「受け取っておくって言ったじゃん!?今も保留なだけ!」
「まあ別に気にしてないけど」
嘘だ。むすっとしてる。明らかにむすっとしてる!!
いや保留にしてるのは本当にごめんね!?
でも告白されるのって初めてだし自分がゼイユちゃんに告白してなければ普通にオッケーって言ってたと思うんだけど事情が事情過ぎて…
だって告白OKしたら二股になるし…ハレンチだし…
拒否するほどスグリ君のこと嫌いではないのも本当で…
ああああ自分って本当に浅ましくて強欲なバカバカのばか!
「スグ~!パフェのラブカスあげる!あーんして」
「あーむ」
チョコバニラフルーツパフェの最初の一口をスグリ君にあげるゼイユちゃん。
え?なにそれずるいずるいずるいずるい!そういうのわたしにやってほしかった!
ゼイユちゃんにあーんしてほしかったしスグリ君にあーんしてもらいたかった!
夢にまで見た幸せなシチュエーションなのにそこにわたしが居ないなんて…ああ…
「うぎゃあーーー!!!寝取られだあああ!!!」
「寝てから言って」
「寝れるかばかー!!今日という日を楽しみにしてたのに眠れるかばかー!!!」
「…マジか…聞かなかったことにして…」
顔を真っ赤にしてうつむくスグリ君。今更照れても遅いんだよずるいんだよ!
やっぱり恥ずかしいんじゃん!恥ずかしがってまで無理してイチャつくなよ!?
耳までまっかになったスグリ君をつつきながらゼイユちゃんは更にごきげんな笑顔。
「…すけべ」
スグリ君の耳元でなにか囁いてる。眼の前でこそこそ話すんなぁーーーーー!!
「うるっさいっ!」
乱暴にゼイユちゃんを手で払い除けて更に顔がうつむくスグリ君。うつむいてもわかる顔がもうまっかっかのりんご飴状態。
何を言ったの!?何を言われたらそうなるの!?なに二人でアオハルしてるの!?
混ぜてよーーー!まーぜーてーよーーー!挟まりたいよーーー!!!!
「あたしはスグを甘やかして幸せ。そしてアオイが可愛い反応するのを見れて幸せ。
からかうのをやめる理由がなさすぎ!盆と正月が一緒に楽しめるんだもん」
「わたしだけを愛してよぉ!わたしだけの宝物になってほしかったよ~!!
うわ~~~~ん!!こんなことになるなら初恋なんてするんじゃなかったぁ!!」
三人でわけあいっこしようと思ってたレモンジェラートを一人で泣きながらばくばく食べる。
幸福と嫉妬の甘酸っぱいジェラート。青春の味ってきっとこんな感じ。
「泣いてるアオイも可愛い…ねぇ、スグもそう思わない?
良い子ちゃんぶってるアオイも可愛いけど本当は背伸びした普通の女の子。
もっともーっとアオイの本当のすがたが見たくなっちゃうよね?
もっと嫉妬して怒ってほしくない?本当の感情をぶつけてほしくない?」
「…そうかな、そうかも…アオイが弱ってる所はみたいかも…にへへ…
アオイは強いだけの女の子じゃなくて普通の人間なんだ…
親近感湧いてますます好きになる…もっと弱らせたい…」
「鬼だぁ、悪魔だぁ、ふたりしてわたしをいじめるんだぁ!」
冷たいジェラートが頭をキンキンに冷やす。冷たくて幸せで涙が止まらない。
欲しかった甘いだけの幸せよりはほろ苦いけれど。これはこれで…?
……もしかしてわたしっていじめられるのが好きなの?うわ、気づきたくなかった!
「涙でぐしゃぐしゃなアオイ可愛すぎ…写真撮っちゃお!スグにも送ってあげる」
「うあーーー!撮るなぁ!見ないでぇ!泣き虫なわたしを見ないでぇ!!
ていうか勝手に撮った写真を他人に渡すなぁ!そういうのいけないんだぞ!」
「他人じゃなくて姉弟だし。はい送った」
「ホーム画面に設定したいけどどうすんのこれ」
「すなーーーーーー!!!」
たどたどしく取り出されたスグリ君のスマホをゼイユちゃんが覗き込んであれこれ操作してる。
ていうか姉弟でおそろいのスマホカバーにしてる…
…あれ?スグリ君スマホ買ったんだ?え、聞いてないそれ聞いてない!!持ってなかったはずでは!?持ってなかったからわたしのスマホで写真撮って一緒に撮れた写真覗き込んで笑い合ってたのにその思い出まで取らないでよ!?
「…‥スマホ買ってもらったの?いつ?連絡先交換しない?SNSやってる?お友達登録しよ?てかSNSやってなかったら教えてあげるからこっち来て」
「やだ」
「やだじゃない!看板の写真送ってあげるから!欲しいでしょ!?
だからゼイユちゃんから離れて!」
「…ん。いらない。今もっと大切な宝物ができたから…」
「消せ!消ーしーて!フォトハラスメントはんたーい!!
でも本当にいつ買ってもらったの?もっと早くに教えてくれても良かったじゃん
ゼイユちゃんも教えてくれればよかったのに」
「ごめんね~、アオイには秘密って言われちゃったから」
「だってまだチャンピオンになれてない。
いつかアオイと並び立てるぐらい強くなってからもう一度告白したい。
だからその時まで内緒」
…これってまた告白されてるようなものだよね。
嬉しいことだけど。わたしのためにそこまでしてくれるのが嬉しいけれど。
幸せなのにわたしは心まで素敵な女の子なんかじゃないから。
どうしても、捻じ曲げて言葉をとらえてしまう。
「わたしはチャンピオンじゃないスグリ君と友達になっちゃだめってこと?
もう普通の子とお友達になっちゃだめってことなの?
特別な誰かとしか、お友達になっちゃだめなの?」
わたしの本当のすがたが見たいって言われたから。
だから飾らないむき出しのわたしが溢れてしまう。
一度溢れたら止まらない。
幸せだったのに、本当のわたしが出てきたら幸せじゃなくなってしまうのに…
「わたしがチャンピオンやめたらどうするの?
強くない女の子に戻ったらどうするの?
…正直もう何も頑張りたくない。ポケモン勝負も疲れたからやりたくない。
宝探しで抱えた宝物を守るのに精一杯で疲れちゃった。
学校やめたい。みんなの大きな期待の重さに耐えられない。
だから林間学校は楽しかった。普通に楽しくて、普通に幸せで。
わたしのことを何も知らない二人が、何もしてないわたしに優しくしてくれたのが嬉しかった。
何かすごいことをするのを期待されなかったから好きになったのに…
…なのにスグリ君は、わたしに強いチャンピオンで居てほしいの?」
幸せの涙がいつのまにか止まってる。眼の前が真っ暗に頭の中はぐるぐるに。
幸せだった空間が真っ黒なわたしの悪意で塗りつぶされてしまう。
スグリ君はそんなことを言いたかったんじゃない。そんなのわかってるのに。
自分の蓋が開いてしまったから傷つける。
せっかく好きになってくれたのに、好きになってくれたわたしは嘘なんだよ。
告白してくれたのに、そんなの知ったらきっと嫌いになるに決まってるのに。
「強かったからアオイが好きになったのは本当。憧れてたのも本当。
でも憧れて理想を押し付けるだけの人間にはなりたくない。
チャンピオンを目指すのは、同じ位置に立ってアオイの気持ちを知りたいから。
今はアオイの気持ちがわからないから、いつか知りたい。
そして好きな人に寄りかかる足手まといの自分から成長したい…それだけ」
「…強くなかったら好きじゃなかったの?じゃあわたしは頑張らなかったらスグリ君に好きになってもらえなかったってこと?
やっぱり頑張らないわたしのことを好きになってくれる人はいないんだ…」
そんなことはじめからわかってる。
魅力的な女の子にならないと好きになってくれる人はいないなんて普通のこと。
何もしない魅力もない可愛くもない何も出来ない人間を愛してくれる人なんているわけがない。
スグリ君に当たり散らしても何かが解決するわけがない。
わたしだって愛されたい。
わたしだってお姉ちゃんがほしかった。お兄ちゃんがほしかった。
ただそこにいるだけで愛してくれるような人がほしかった。
…ずっと、ずっとひた隠しにしていたパンドラの箱のなか。
ぐちゃぐちゃどろどろの感情の奥底にしまいこんでいた本当の思い。
はじめて二人に会った時に…羨ましいって思っちゃったんだ。
うらやましい、ずるい、妬ましい。欲しい…わたしもそういう人がほしかった!
だからどっちか欲しかった。片方を奪って愛されたかった。
そうすれば、無償の愛がわたしのものになると考えてしまった!
でも奪えなかった。
無償の愛を独り占めすることは出来なくて、満たされないから妬ましい。
今もムカムカしてる。だって独り占めできてないから。
二人ともわたしのことが好き。それは嬉しい。でも満たされない。本当に欲しかったものを手に入れられなかったから、今は妬ましい。
本当に浅ましい、おろかで馬鹿な本当のわたし。
そして嫌われるんだ。
二人に甘えて本当のことを話したから、きっと二人とも離れていく。
片方だけになら話せたかも知れない。だって片方が離れてももう一人いるんだから。
二人に話したら二人共離れていく。馬鹿だ本当に馬鹿でおろかでばか。
「でもさ、頑張ってきたアオイがいたのも本当のことでしょ?
頑張った自分を自分が認めなくてどーすんの。
まああたしは後ろ向きなアオイも頑張って輝いてるアオイも好きだけどね~
ほらスグもそうといいなさい。言いなさい!」
「弱ってるアオイもめんこい…じゃなくて、どっちも好きだよ」
「あんた本当に最っ低!」
「言えって言ったのねえちゃんだろ!言ってる内容も同じだし」
「言い方ってもんがあるでしょ!?まるであたしが小さい子をいじめて泣かせるのに興奮してる性癖倒錯者みたいじゃん!?」
「なんだ…気づいてたんだ?心の病院かかったほうが良いべ」
「あーーーー!???殴るよ手ぇだすよひっぱたくよ蹴る蹴ったごめん!!!」
「痛っっつ!!!!」
眩しい幸せ、でもそれはわたしの幸せじゃない。
「ほんと、仲良しなのが羨ましい。いいなぁ。
わたしもお姉ちゃんかお兄ちゃんがほしかった…」
「ねえちゃんなんて殴ってくるし怒鳴ってくるしめっちゃウザいけどそれでも!?」
「はー!?優しい時もあるって言いなさいよ謝んなさいよ!」
「事実を言っただけなのに殴ってくるねえちゃんなんか嫌いじゃないけどさぁ」
「好きだと言いなさいよ殴られてるほうが幸せなんでしょ!?」
「そんなこと一言も言った覚えがない!おれまで変態にすんなこのロリコン!」
「あーんーたーもーだー!!!」
眩しすぎて、目が眩んで。それはわたしの幸せじゃないけれど…でも、やっぱり…
欲しい!
やっぱり欲しい!諦められない!
幸せになりたい!幸せが眼の前にあるのに指を加えて見てなんて居られない!
わたしだけが我慢すれば二人の幸せは守られるかもしれない。
でもだからなに!?わたしが幸せじゃないならわたしの人生に意味なんて無い!
だから、壊してしまうかもしれないけれど。傷つけてしまうかも知れないけれど。
それでも手を伸ばさずにはいられない!
「せめて喧嘩に混ぜて!挟まりたい!幸せのサンドイッチの具材になりたい~!」
「アオイはやくこっちに来て!弾除けになって!」
「女の子の影にこそこそ隠れる自分が嫌なんじゃなかったの!?
強くなるんじゃなかったの!?もーアオイどいてスグ殴れない!」
「なんでわたしは殴ってくれないの!?ゼイユちゃんはわたしのこと好きじゃないの!?」
「最低だよねえちゃん…」
「何であたしが悪者になってんのよーーーー!?!?!?」
やさしいデコピンがおでこに当たる、全然痛くない幸せな傷。
…ちょっぴり幸せ。満足できない小さな幸せ。
これからも本当に欲しかった自分だけの宝物は手に入らないかも知れない。
一生満たされることはないかもしれない。
でも、今はこの小さなの幸せが何よりも一番大切な宝物。