VS東仙
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「そこにいるのは...成程 虎屋翼か」
「んん...?誰なんですの この白玉団子は」
「...先ほど藍染様と共に相対した東仙要だ 随分と物覚えが悪いらしい」
「仮面をつけてないイケメンな顔は覚えてますけど その白玉仮面は初めて見たので大目に見て欲しいですわね」
先ほど檜佐木副隊長が斬られたのを見てヘラヘラした市丸ギンを置いておいて飛び込んでは来ましたが...
「虎屋翼 君に聞こう...狛村は私の虚化を堕落だという 君の友である黒崎一護と同じ力だ そして虚に近づくことが堕落だというのは死神と虚を正邪で分ける矮小な二元論から出る言葉だ 君はどう考える」
「うーん?虚化が良い悪いで無くて使ってる本人の正邪って奴が論点なのでは?」
「仲間を裏切り 友を裏切り 部下を裏切ってまでも過ぎた力を得よう刀することが堕落だと言っているのだ‼」
そうして話していると檜佐木副隊長が一度東仙を手繰り寄せるが返り討ちにあい 狛村隊長が卍解してその力を振るい始めた
「虚化していたとしても君の能力だけは危険だ 清虫弐式・紅飛蝗(すずむしにしき・べにひこう)」
死神の頃より威力は増し鋭い刃がこちらに殺到する
あの中ですら東仙にこの場で近づけるのは卍解した狛村隊長だけだろう
「…東仙… 貴公が死神にになった目的は......」
「復讐だ」
復讐...私にとっても切っても切れない言葉
「ならば正義とはなんだ‼ 愛する友を殺した者を許すことか⁉それは確かに善だろう!美しい事だ!目も当てられぬほどにな!
だが善であることが即ち正義なのか⁉
違う‼亡き者の無念も晴らせず安寧の内に内に生き永らえる事は 悪だ‼‼」
正直に言えば...共にあった滅却師達を殺した者が明確に分かっていれば私も東仙のように行動していただろう
私には彼の行動を咎めることも諫めることも許すことも出来はしない それらは私の領分を随分越権する行為であるからだ
そして...狛村隊長はそれを聞いた上で許した
「"鈴虫百式"狂枷蟋蟀(グリジャル・グリージョ)」
「これが空か‼ これが血か‼ これが世界か!......それがお前か」
黒い塊であり醜悪な目を持った怪物と化した東仙その目が私にも向く
「お前の話は少し藍染様から聞いている...お前は何故死神に迎合する?千年の間友とした滅却師を苛み続けた死神を その友が死んで喜び勇んで近づく死神を こうして現世の者を戦力として扱う死神を」
「私は死神の味方ではなく...ただ友のために戦っている 貴方や狛村隊長と同じですわ」
それを聞いて化け物は落胆したようにもしくは腑に落ちたように目を一度閉じる
「そうか...古き友を捨て真新しい友を優先するか 醜い在り方だ」
「やかましいですわよ このアホ!醜い醜いってもうちょい語彙ってもんが無いんですの⁉このアホ アホー!」
「君のアホ一辺倒に言われたくはない...!」
「それじゃあ...このスカポンタン!これで私の方が二つで勝ちですわ!」
「これ以上君と語り合うのは無意味なようだ‼」
もはや言葉は精々互いの気を削ぐ程度の事しか出来ない
事ここに至ってはただ刀のみが真に対話の為に使える物だ
「青い光 かつての友を模し形だけは再現した虚しい光だ」
「ちょっと気にして語彙を増やしてきましたわね...ですが光の役割はそれだけではないですわよ」
「...気にしてなどいない」
武器に塗りたくった蛍光塗料を無理くり光らせているのは確かに滅却師を目指した結果でもある
「"目くらまし" 前は貴方に効きませんでしたけど今は効いてますわね」
光る獲物によって指先の微細な変化には目を向けづらい ましては水鉄砲の引き金を引く程度の物を見分けるのは難しい
「目に入ると痛いですわよ...!硫酸入りですからね!」
百均の水鉄砲ではありえない高圧の水が突然飛びだし咄嗟に東仙は手を構え防ぐ
「東仙!!」
無論そんな大きな隙を見逃す狛村隊長ではない 先ほど九相輪殺(ロス・ヌウェベアスペクトス)を喰らい倒れていた体を無理やり起こし卍解による拳での一撃を見舞う
仮面に罅が入り...それでも尚まだ東仙は倒れていない 再び倒れた狛村隊長に止めを刺そうとした
「...やはり あなたはもう東仙隊長じゃない......」
檜佐木副隊長によって脳天を刺され更に罅は大きくなっていく...
怖れるべき戦いは終わった 怖れを捨てた復讐の獣が復讐の対象に殺されて
私が怖れを捨て復讐の獣になった時...私を殺すのは誰の刃なのか それが友でないことを願うばかりだ