VSクリーク海賊団

VSクリーク海賊団


クリーク海賊団がヒレに登りバラティエに迫る。

それに対して先ほどサバガシラ号ごと吹き飛ばされたカルネやパティ含むコック達にサンジが立ちはだかり、私も武器であるデッキブラシを構える。ルフィはもう敵船のボス、クリークの元へいた。

 

これだけの人数だ、相手はきっと物量で押せると思っているに違いない。

でもここには私、ウタウタの実の能力者がいる!またクロネコ海賊団の時みたいに全員操ってやる!

そう考え、シロップ村の時と同じように叫んだ。

 

「皆!耳塞いで!」

 

ルフィはすぐに、コック達もそのルフィの様子を見て一拍遅れて耳を塞ぐ。

それを確認して大きく息を吸った時だった。

 

「てめェら!!今すぐ耳を塞げ!!」

「えっ」

 

クリークの叫びが響いた。予想していなかったことに一瞬歌うのが遅れる。

すぐに持ち歌の「新時代」を歌い始めたが…バタバタと倒れるクリーク海賊団のメンバーは半数にも満たない。

それ以外のメンバー、クリークも含めて皆耳を塞いでいた。

 

『ジャマモノやなものなんて消して…!』

 

とにかく歌い続けながら操れる人だけで戦うことにした。ウタワールド側で五線譜でクリーク海賊団を拘束しつつ、現実では複数人がかりで耳を塞いでる手を解けさせようとする。しかし残りのクリーク海賊団も一筋縄でいかず、なかなか操る数を増やせない。

更に耳を塞ぐのが間に合わなかったのを見落としていたのか、一部のコックもウタワールドに取り込まれていた。とりあえずそのコックの体も操作して、怪我をさせないように立ち回らせる。

 

「やはり能力者だったか!」

 

船員の様子を見てクリークが叫ぶ。あの忠告で警戒されてしまったらしい。

 

『この世とメタモルフォーゼし—』

「お前が何かやってんのか女!」

『ようぜぇぇ!!?』

 

いつの間にか傍に迫っていたクリーク海賊団の蹴りをギリギリで避けデッキブラシを叩きつけて反撃する。

操作とウタワールドでの戦いに集中して、気が逸れてしまっていた。なんとか攻撃を避けながら歌い続け、無事なクリーク海賊団にはデッキブラシで攻撃する。

 

なかなか乗っ取りが上手く進まないだけじゃない、他のコックの皆やルフィも両手で耳を塞ぎながら蹴りをメインに、ただしクリークだけは鎧の内臓武器を使って戦っている。余りにも戦いづらそうだった。

これじゃむしろ味方を妨害しているんじゃないか?そう考えた時、カルネの声が響いた。

 

「なんかよく分かんねえけど耳塞いで闘ってられるか!!」

『いつまでも終わりが—』

「ぐー…」

『来なっ……あ、ああああ!!…この歌を歌うよぉ!』

 

聞こえた内容に慌てて歌うのを止めようとしたが間に合わず、両手を使って戦おうとしたカルネが眠ってしまう。

すぐに歌い直してカルネの体を操作して、すぐそこに迫っていた眠っていないクリーク海賊団の攻撃を避けさせる。

 

(どうしよう…どうしよう!絶対これ失敗してる!皆の邪魔しちゃってるよ!!)

 

内心で焦りながらも、迫ってくる敵を捌きながら、歌いながら、ウタワールド側で拘束しながら、どうすればいいか考えながら、でもこのままじゃ皆の邪魔になって、とにかく闘って——

 

「ウタ!!!」

 

パニックになりかけた所にルフィの大声が響いた。そちらを向くとクリークの攻撃を耳を塞ぎながら避けるルフィがいた。

 

「一旦歌うのやめろ!!!」

「わ…分かった!!」

 

きっとその返事は聞こえていないだろうが、すぐに歌うのを辞める。歌っていないことが見て分かるように、両手で口を塞いだ。

ルフィは私の方をチラリと見るとすぐに耳を塞ぐのをやめた。

その様子を見てコック達とクリーク海賊団も耳を塞ぐのをやめ、すぐにまた戦い始める。

 

私もすぐに戦おうとして——その場に座り込んでしまった。

偶然傍にいたパティが私に声をかける。

 

「おいお客さん!?どうした!?」

 

とにかく答えないと…そう考え必死に顔を上げて今の状況を伝えた。

 

 

 

 

「めちゃくちゃ眠い」

「こんな時に何言ってんだああああ!!?」

 


傍にいたクリーク海賊団を殴り飛ばしながらパティが叫ぶ。

反論の余地が無い、全くもってその通りなのだが…ウタワールドに結構な人数を入れて、体を操作しながら自分も戦った。それで予想以上に体力を消耗してしまったらしい。今にも意識が飛びそうだが説明はしないといけない、そう考え頭をフラフラさせながらなんとか伝えようとする。

 

「私能力者なんだけど…能力…使うと…眠く…なっちゃっ…てえ…」

「おい!今こんな所で寝るな!!起きろ!」

 

パティが私の肩を掴んでガクガクと乱暴に揺する。だが全く眠気が飛ばない。されるがままにガクガクと揺れていた。その時だった。

 

「妙な女が!!」

 

私を揺するパティの背後からクリーク海賊団がそう叫び3人迫っていた。

私は反応しようとしたが…腕もろくに動かせない。

パティも反撃のため振り返ろうとするが間に合いそうには—

 

その瞬間、黒い影がその3人を蹴り飛ばした。

 

「レディの寝込みを襲ってんじゃねェぞ…クソ野郎ども」

 

閉じそうな瞼を必死に上げながらそう言って助けてくれた人を見る。

サンジだ。

 

「ありが…と…」

「君のためならこれぐらい朝飯前さ~!❤んウ~タちゅわぁ~ん❤!」

 

絞り出すようにお礼を言うが、もう駄目だ。今にも意識が飛びそうで、何やらテンションが上がってるサンジにもまともに返事も出来ない。

 

「さぁウタちゃん!ここは危険だ!おれが安全な所に連れていこう!」「おい待て!お前に任せたらずーっと寝顔見て帰ってこねェだろ!?」「こんな時にんなことするかっ!」「信用できねェな!無駄に強ェんだから黙って戦ってろ!おれが連れてく!」「はぁ!?何言って…オイ待てパティ!」

 

何やら会話が聞こえるがイマイチ頭に入ってこない。

すると突然パティが私をおぶってレストランに戻っていく。

どうやら避難させようとしてくれてるらしい。

 

「ごめん…な、さい…あり…がと…」

「いいってことよ!アンタはウチのお客様!こんぐらいのサービスはさせてもらいやさァ!」

 

パティが大きい声で答える。そういえばクリーク達が来る直前、ゾロとウソップと一緒にご飯食べに来てたんだっけ…

そう思い出しながら、ついに限界が来て意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

「ルフィ!」

目を覚ましてすぐに我らが船長の名前を呼びながら飛び起きる。

そこはいくつもハンモックがある部屋、おそらくコック用の共有寝室だろう。私はその一つに寝かされていた。

すぐに傍に置いてあった私の武器、デッキブラシを掴み部屋を飛び出す。通路を進むと誰もいないレストランに出て、そのまままっすぐに船外を目指した。

すぐにでもルフィ達に加勢しないと。そう考え勢いよく扉を開けるとそこには——

 

 

 

 

何もない海が広がっていた。

耳をすませば海鳥の鳴き声まで聞こえてくる、とても平和な海だった。

 

「…あれ?」

「おう、小娘。目ェ覚めたのか」

 

声をかけられ後ろを向くとこのレストランのオーナー、ゼフがいた。

その足は義足が折られ、松葉杖をついていた。

 

「その義足…どうしたの!?」

「これか?気にすんな。ドジ踏んだだけだ。その内交換する」

 

本人は平然としているのできっと問題ないだろう。そこで一つ、どうしても確認したいことを聞いてみることにした。

 

「もしかして…あいつらってルフィがもう全員ぶっ飛ばした…?」

 

恐る恐る聞く。もうほぼ答えは分かっているが。

 

「全員じゃねェが…戦いはとっくに終わったぞ」

「やっぱり!!」

 

予想通りの答えに思わず崩れ落ちて叫んでしまう。

ルフィ達が戦ってる間、私は何をやっていたんだ!?

寝てた!ぐっすりと!

 

「その…戦いってすっごく静かに終わったりは…?」

「火事に毒ガス…まァ騒がしかったな」

「私がグースカ寝てる間にそんなことに!?」

 

それも相当な激戦になっていたらしい。私が呑気に寝てる間に。

あんなのにルフィが負けるなんて全く思っていないが…さすがに怪我はしてるんじゃないか?

私が考え無しに能力を使ったばかりにルフィの負担が増えたんじゃないか?

思考がマイナス方向にどんどん飛んでいく。

そこへゼフが声をかけた。

 

「嬢ちゃんは能力者だろう?デメリットは寝ちまうことか?なかなか重いな。結果論だが…使いどころを間違えたな」

「うぐっ!?」

 

正論で刺された。

まったくその通り、前回上手くいったから考え無しに使ってしまってこのザマだ。

 

「能力を過信したか…“偉大なる航路”に行くつもりなら気を付けるこった。そういう奴はカモにされるぞ」

「はい…肝に銘じておきます…」

 

海賊の大先輩からの忠告をしっかりと心に刻む。

今回の戦い、私は完全に足手まといだった。これから“偉大なる航路”に進もうというのに、こんな失敗するなんて…もっとちゃんと能力のデメリットを考えて使わないと…

でも今はとにかく。

 

「私、ルフィに謝ってこないと…寝床、貸してくれてありがとうございます」

「おう、礼ならパティに言っとけ」

 

 

 

厨房にいたパティ、そしてコックの皆に助けてくれたお礼と寝床を貸してくれたお礼、そして能力のことで迷惑をかけたことをしっかりと謝った。言い方は荒れているが皆快く許してくれた。

その後、ルフィを探してバラティエの外周を歩いていると、ちょうど曲がり角の向こうに当人の声が聞こえた。

すぐに謝りに行こうと駆け寄ったが、そこに見えたのがルフィとサンジだった。

何やら楽しそうに話していて、二人とも目がキラキラとしていた。あの目、昔海賊王になると決めた時のルフィの目と同じだった。

 

(私の話は…後にした方がいいかな?)

 

二人の楽しそうな会話を邪魔したくなくて、その時はそっと離れた。

 

 

 

 

「ほんっっっっとにゴメン!!!もう二度とこんなことないようにするから!」

「気にすんなって、勝ったんだから」

「ウタちゃんだって頑張ったんだ。謝る必要はねェだろ?」

 

しばらく後、二人の会話が終わった頃に合流した私は謝り続けていた。私は責任を感じていたが、当のルフィはどこ吹く風だ。サンジも私を責めないでくれる。だが、自分の失態を思い出すと納得できない。先ほど二人から戦いの様子、そしてギンのことも聞いたが、なおさら納得できない。

 

「でも!私がいたらもっと軽傷で済んだかもしれないじゃん!」

「こんなの怪我に入んねェよ。それにウタがいたらガスマスク足りなかったって、さっきもサンジが言ってたじゃねェか。そしたら負け…はしねェな、引き分けになってた!」

「それも聞いたけど~…」

 

さきほど聞いた激戦の様子、毒ガスを使われて、ギンが自分を犠牲にしてサンジを助けたらしい。確かに話を聞いた限りじゃガスマスクが足りない。私がいたらルフィは助かっても私は死んでいたってことだが…それでも何もできなかったのが悔やまれる。

もう一度謝ろうとして口を開きかけ…思い直した。今するのは謝罪か?他に言うことがあるんじゃないか?これから“偉大なる航路”を目指すなら言うべきことは違う気がする。

 

「ねぇルフィ」

「だからもう謝んなってー」

「うん、もう謝らない。だからこれだけは言わせて」

 

ルフィの目をしっかりと見て言う。

 

「私、もう二度とあんな情けないことしないから!!ルフィ達と一緒に戦って、皆を助ける強い海賊にちゃんとなるからね!」

「…ししし!そっか!分かった!」

 

私の宣言にルフィはニコニコと笑っていた。今日は、能力にかまけてせっかく鍛えた技を活かし切れなかった。こんな失敗、もう二度としない。

そう心に決めた瞬間、ルフィのお腹から大きな音がした

 

「腹減った!」

「そうだね、私も」

「ウタちゃんは何か食べたいものあるかい?すぐに作るよ」

「本当!?それじゃあねー」

 

サンジの提案に答えようとした時、ルフィが割って入った。

 

「ウタも一緒に賄い食おうぜ!ここのすっげーうめーぞ!もうすぐコックのおっさん達も飯の時間だ!」

「おい待て、せっかくなんだウタちゃんにはおれが好きなだけ作って…」

「…私、賄いの方がいいかも」

「え?」

「だってコックの皆ももうすぐご飯でしょ?せっかくなら皆と一緒に食べたい!」

 

サンジのご飯も魅力的だが、今は他にお客もいないし、ゾロ達もいない。ルフィも賄いを食べに行くつもり満々だ。じゃあ一人より皆と食べた方が美味しいに決まってる。

 

「…そうか、じゃあ店員食堂に案内するよ。あと、今日のスープはおれが仕込みをしたんだ。特別うまくできたから楽しみにしててくれ!」

「そうなの!?楽しみー♪」

 

サンジの自信満々の顔を見て、3人で店員食堂に向かったのだった。

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