Undesired route
「モブ子さん、クロレラ・オモチ・ワッフル2個も食べるんですね」
「常在戦場やからな」
「すみません、二度と眠れなくなるくらいカフェインたっぷりのお茶を下さい」
「48時間監視した」
「オタッシャですねえ」
百鬼夜行連合学院自治区内、伝統的な喫茶店である百夜堂
その中で似たような顔をした百鬼夜行生徒達が屯し、茶を啜りながら菓子を貪っている
どの生徒も姦しく笑い騒いでいるが、一様にその顔は青褪め、目の下に酷いクマを拵えていた
瞳は虚ろに宙を揺蕩い、会話内容はどこか珍妙で、集中を欠いているのが一目で判る
彼女達は他自治区との境界線を見張る為に陰陽部に命じられた臨時監視員であり、皆寝不足なのだ
何時侵入してくるか分からない触手共に備えているが為に
なんでこんなことになってしまったのか、新たなお茶を淹れながら、河和シズコは彼女らしからぬ陰鬱な溜息を吐く
ゲヘナ学園から発生したという得体の知れない侵略植物触手共、その脅威は未だ百鬼夜行へ届いてはいないものの、ゲヘナとの間にある小さな学園自治区群は既に占領されてしまっているという
様々な自治区を繋ぐハイランダー鉄道も、一部の路線が車両ごと触手に占拠されてしまったと聞く
更には子宮からの生まれ直しなる冒涜的極まる残酷行為により、一部の生徒に瓜二つな姿をした上位侵略植物共が出現し、ゲヘナの風紀委員長、トリニティのティーパーティーの1人、ミレニアムの元セミナー生の3名を模したそれらの指揮により侵略はより苛烈に、より正確に、より悪辣になっているそうだ
こんな状況でも先生さえいてくれればきっとなんとかなっただろう、あの空が赤く染まった日のように
だが肝心の先生はどこへ行ってしまったのか
そう思った直後、百夜堂の入り口が開かれる
もしや先生か、と其方に目をやり、しかし別人である事に気付いて、無礼だと理解しつつも落胆を感じてしまう
後輩であり同じお祭り運営委員会のメンバーである朝比奈フィーナであった
「フィーナ? どうしたの、確か今の時間は、まだ監視の仕事が」
「ぶ、ちょ……に、げて、クダ、さ……ぐぼえっ」
ボコリ、とフィーナのモデル並にほっそりとした腹が不気味な音を立てて膨らむ
まるでつい先日放映された、クロノススクールの自称アイドルレポーターの人生終了放送のように、丸々と大きく、臨月の妊婦のようにパンパンに張ってゆく
「え」
脂汗を全身から噴き出し、ガクガクと身を震わせて白目を剥くフィーナが床に倒れ込む
「ぐ……む゛っ! うぼえ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛っ!!」
そして呆然と、或いは寝不足のあまり人が倒れているという事実を認識出来ておらずぼんやりと見つめる眼の前で、まるで限界を超えた袋が破けるように、彼女の口と肛門から、凄まじい勢いでヘイロー付きサラダ触手の群れがぶちまけられていった
「ひ……いっ!? ひいいいいい! 嫌ァァァァァ!」
「あ……あ!? ア、アイエエエエエ! 触手! 触手ナンデ!? う゛お゛げええええっ!?」
「な……なんだあ゛があああああああああっ!?」
「やばいよモブ子さん寄生されちゃ、ごぼぼぼぼえ゛え゛え゛え゛え゛!!」
激しく痙攣するフィーナ、その口と肛門から止めどなく吐き出されゆく触手共
寝不足でまともに動けない生徒達は次々と毒牙にかかり、フィーナの腹の中から生まれてきたもの共を強制的に受け入れさせられてゆく
対抗手段の無いシズコは、倒れたフィーナ及び他生徒達の様子に後ろ髪引かれながらも百夜堂を飛び出す、此処で起きた異常事態を周囲に知らせ、被害を減らす為に
だが扉を開けた直後、その前にいた誰かに抱き留められ、強引に唇を奪われた
錯乱しながらも視認した相手は、ヴァルキューレの生活安全局の制服を着て髪を左右で三つ編みにしたなにかであった
生徒ではない、ありえない、髪の毛の代わりにあの忌まわしく冒涜的な植物触手が生えた存在が、人間の筈がない
怖気立ったシズコの抵抗も虚しく、生活安全局生徒もどきの口内から彼女の喉の奥へ、なにかが移り宿っていく
吐き出そうと激しく咳き込むシズコ、襲った側であるのに今にも泣きそうな顔で理解不能な譫言を漏らす人型植物触手
「ごめんなさい、生まれた罪を償う為にあの方の御言葉通りにやる必要があるんです、ごめんなさい、どうか私に償わせて下さい」
その意味不明な戯言をシズコが理解する前に、その腹の中に侵入したものが神秘を吸って爆発的に増え、フィーナ同様の擬似妊娠を引き起こす
キリノ子の言う所のあの方……セイアの子の未来予知に基づく指示に従い、監視の目をくぐり抜けていつの間にか百鬼夜行自治区内へと侵入を果たしていた人型触手の群れが大通りを逃げ惑う生徒達を押し倒してゆく
既に餌食になっていた者達が、先のフィーナの如く腹を膨らませ、まるで炸裂するように上と下の口から汚濁を噴き出してゆく
未だ無事な者達の消化器官へと、悍ましき侵略者共が殺到し、新たな苗床を続々と増やしてゆく
仮初めの平穏を完全に打ち崩された阿鼻叫喚の光景の中、体内で吐き気や強烈な便意を生じさせる暴れん坊共を抑え込む事が出来ず、シズコの口と尻からもまた、腹の中で育まれた穢らわしい濁流が溢れ出していった