『USA君女装する!?』番外編 あなたに微笑むバレンタイン
「ウサちゃんはチョコを渡す人は居る?」
「うん……(裏声)ん〝ん〝!?」
……あぁ、やっぱりウサちゃんにも居るんだ。
ウサちゃんからチョコを貰った相手はとっても喜ぶんだろうなー。
顔を赤くしてちょっぴり慌てているっぽいウサちゃんを見ながら、私はチョコを渡したい男の子の顔を思い浮かべる。
私——結城友奈には恋人がいます。
幼馴染の男の子で優しくて素敵なゆゆワイ君。
バレンタインデーが近く、そんな彼へと渡すチョコをどうしようかと悩んでいた時に偶々出会ったウサちゃんに私は相談を持ち掛けたのでした。
悩んだらやっぱり相談だよね——
「……えーっと友奈ちゃん? チョコってバレンタインの事かしら?(裏声)」
「うん、そうだよ。その、ね。……今までは幼馴染の男の子に毎年何気なくチョコを渡していたんだけど、恋人になったからにはやっぱり特別なチョコを送った方が良いのかなーって思っちゃって……」
勇者部のみんなもそれぞれが付き合っている相手にチョコを送るみたいで、特に東郷さんは「ワイ君が欲しがるだろうからチョコレートのお菓子を作るわ。……まったく、用意する身にもなって欲しいわね」と言っていたけれど、すっごく笑顔で嬉しそうだったなぁ。
他のみんなも「ワイにはたっぷりの媚薬をチョコに入れて……」「お姉ちゃん、私も作るの手伝うね」「煮干しの日なんだからチョコにも合うわよね……」「等身大の私のチョコ像をワイ君に食べて貰うんよ~」「まぁ、一応彼氏だし作るよ。渡すの恥ずかしいけど……」と誰もが様々なチョコを準備しようとしていて、私も恋人のワイ君に特別なチョコを用意したいと思ったのでした。
「……スペシャルなチョコなんて必要ないわ(裏声)」
「えっ……。それってどういう事?」
少しの間俯いていたウサちゃんが顔を上げると、彼女は真剣な表情でそう言って。
その言葉が気になって問いかけると、ウサちゃんはまるで懐かしい物を見るように目を細めて、優しい声音で呟いた。
「好きな相手から貰えるチョコなら何だって相手は嬉しいもの(裏声)」
「好きな相手からだったら何だって嬉しい……」
思い浮かぶのは笑顔のゆゆワイ君。
私がチョコを渡すと、彼はいつも満面の笑みで喜んでいてくれた。
私の事を愛していると気付いたのは最近みたいだけれど、「ずっと昔から友奈の事を異性として意識していたと思う」と語ってくれたワイ君も、私からの毎年のチョコが嬉しかったんだ……。
トクンと胸が跳ねて、嬉しい気持ちが広がっていく。
あぁ、早くゆゆワイ君にチョコを渡したいなぁ……。
バレンタインはまだ先の事なのに、早くワイ君の喜んだ顔が見たくてたまらない。
「私も、好きな人から貰ったチョコが義理当然のチロルチョコだった時もあったけれど、天に上るぐらいにハッピーだったわ(裏声)」
「えっ……チロルチョコ?」
チロルチョコと言えば記憶を失っていた東郷さんがUSA君へと渡していたのがそれだったような……。
趣味が異なっていた為か、毎日のように言い合いを続けていた二人だったけれど、バレンタインには東郷さんがUSA君へと「義理よ。あくまで同じ部活に所属しているから送っているだけで特に意味はないわ」とそっけなく手渡ししていて、それを受け取ったUSA君が顔を真っ赤にしていたのを思い出す。
USA君に釣られるようにして、東郷さんも顔が真っ赤になってて可愛かったなぁ。
「と、ともかく送るチョコは何でも良いの! 大切なのはエモーションよ!(裏声)」
「エモーション……」
ウサちゃんも自分の事を話すのは恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にしていて可愛い。
でも、そっか。
大切なのは送る気持ちなんだ……。
「ありがとうウサちゃん。私たくさん気持ちを込めてワイ君にプレゼントするね!」
「ええ、グッドラックよ友奈ちゃん!」
人差し指と中指をクロスさせたハンドサインを私に送るウサちゃんは女の子なのにカッコ良かった。
私もお返しとばかりに彼女へとエールを送る。
「ウサちゃんもチョコを渡すの頑張ってね! ウサちゃんの優しい想いも絶対届くに決まってるよ!」
「へっ、ええ……ありがとう(裏声)」
「善は急げだよね。じゃあ私、ワイ君へのチョコの材料買って来るね! またねーウサちゃん!」
「え、あっ、goodbye!(裏声)」
ウサちゃんへと別れを告げて、私は少しでも早くチョコを用意するために、勢いよく駆け出した。
だから、その後「え……俺から美森へとチョコ渡すの? この姿で? マジ?」という言葉を聞く事も無かったのでした——
・・・・・・・・・・
バレンタインの日には私の思いをぎゅーっと込めたチョコをワイ君にプレゼントして、ワイ君はとっても喜んでくれた。
ワイ君からお返しとばかりにたっぷりじっくりと愛されちゃったのは予想外だったけど……。
でも、その……凄く気持ち良くて幸せでした。
終わった時にはバレンタインの日から1週間経っていて、端末に勇者部のみんなからの連絡がびっしりと入っていたのは驚いたし、心配をかけたことを叱られもしたけれど、風先輩と樹ちゃんも私より1日早かっただけで叱る側に入るのはズルい。
……え、もうみんなに叱られた後だった?
……そっかぁ。
それと、何故か東郷さんにお礼を言われた。
「友奈ちゃんのおかげでとっても素敵な贈り物を貰ったし、可愛いモノが見られたわ。ありがとう友奈ちゃん」という私には何のことだか分からなかったけれど、東郷さんが喜んでて良かった。
ウサちゃんも好きな相手にチョコを渡せたと東郷さんが教えてくれたし、今年のバレンタインはみんなが上手くいったみたいで本当に良かったなぁ。
ウサちゃん、アドバイスをくれて本当にありがとう——
END