Two transfiguration professor.
requesting anonymityダンブルドア校長が出奔しアンブリッジが締め出された校長室の留守を預かる今年の「闇の魔術に対する防衛術」教師は、現役の学生にしか見えない容姿のまま、現在もまた私物化した校長室の床で熟睡した挙げ句、壁に並ぶ歴代校長の肖像画の内のひとつである、己の学生時代に校長だったフィニアス・ナイジェラス・ブラックに小言を貰っていた。
「脱ぎ散らかすなと何度言えばわかる愚か者め。杖を一振りする事すら億劫か?」
眉間にシワを寄せたブラック校長に、その女生徒は「不服」を顔で表現しつつ従う。
「はあーい…………片付ければいいんでしょ片付ければ。口うるさいんだからあ」
そう言った「校長室の留守居役」の女生徒は杖をスウーッと動かして、校長室中に散乱していた脱ぎっぱなしの服やら食べかけの菓子やらを全て自分の「検知不可能拡大呪文」のかかった旅行かばんの中にまとめて収めた。
その時、校長室に来客が訪れる。
「先生、少しお時間よろしいですか?………おや、まあ」
大きな絵画らしき物を2人して運んでいるフレッドとジョージ・ウィーズリー、そして「ザ・クィブラー」を読みながらその後ろを着いてきたらしいルーナ・ラブグッドを伴って校長室に入ってきたのは変身術教授にして副校長、ミネルバ・マクゴナガルだった。
「ダンブルドアが居ない間に先生が校長室をどれほど散らかすか不安だと仰るので、こちらにお連れしました。フレッド、ジョージ。それをそちらに。そう。そこの壁へお願いします。はい、ありがとう」
マクゴナガルの指示通りに双子が校長室の壁に取り付けた肖像画を、マクゴナガルが紹介する。
「わたくしが使っている部屋には、歴代の変身術教授の肖像画が揃っているのです。そしてこちらがほら、あなたが1番よくご存知の教授ですよ」
ほんの少しフレッドとジョージを思わせる笑顔でマクゴナガルが言った。
「マチルダ叔母さん!」
その肖像画の中の人物と目が合って女生徒よりも早く声を上げたのは、脇の机の上に置かれた女生徒の友人、ギャレス・ウィーズリーの肖像画だった。
「こ、こんにちは、ウィーズリー先生………」
女生徒は完全に学生時代の心境に戻っていた。―怒られる!
「相変わらずだね。あの頃ならまだしも今はあんた先生なんだ。だらしない生活態度は看過できないよ。……いつまでパジャマで居るんだい着替えな」
そう言った肖像画の中のマチルダ・ウィーズリー教授に女生徒は素直に従うが、フレッドとジョージ、そしてルーナは驚きの声を上げた。
「「「『ウィーズリー』先生?本当?!!」」」
驚く3人に、肖像画の中のかつての変身術教授は笑顔で肯定する。
「私は100年ぐらい前にホグワーツで変身術を教えてたマチルダ・ウィーズリーです。みなさん、この子が世話になってるね。それとあっちのは甥のギャレス」
叔母に紹介されたギャレス・ウィーズリーの肖像画が、隅の机の上から手を振る。それにルーナが笑顔で手を振り返した。
「わがまま言って悪かったねミネルバ。どうもありがとう。フレッドとジョージも運んでくれてありがとうね」
そう言われたマクゴナガルは微笑み、フレッドとジョージは少し顔を見合わせてから「どういたしまして。ウィーズリー先生」と言って恭しく一礼してみせた。
マチルダ・ウィーズリー先生は「面白い子達だねえ」と言ってクスクス笑う。
「ところでマチルダ、そしてそちらにいらっしゃる御学友の方々。伺いたいのですが、こちらの先生、学生時代にはどのような振る舞いをなさっていたのですか?」
マクゴナガルのその質問に、辺りの肖像画が口々に答え始めた。
「今と対して変わらないですよ先生。パジャマのまま授業に出て減点されたり、下着姿のまま廊下走って減点されたり」
パフスケインを抱えたハッフルパフの女子が額縁の中から言う。
「森に行ったっきり何日も帰ってこないと思ったら指名手配犯仕留めて魔法省から褒められたり、密猟者の集団を呪文の練習台扱いしてたり」
その横の白い目のスリザリン生が杖の先を赤く光らせながらそう言って笑う。
「よその授業に勝手に参加して減点されて、そのまま先生の助手したり」
「僕と2人でヘキャット先生に指名されて1年生の指導役することも時々あったな」
同い年のように見える兄妹らしきスリザリン生2人が言う。
「僕に薬の材料を提供し続けてくれたし、皆からの頼み事をいつも抱えてたね。なのに時間に追われてるような感じは全然なかった。あ、でもその辺の床で寝るのはいただけないね。今も治ってないみたいだけど」
隅の机の上のギャレス・ウィーズリーの肖像画もそう言って笑う。
「男子にも女子にも人気あったし、下級生にも慕われてたね。スキンシップ多いし優しいし優秀だし、勘違いさせるんだよねぇ」
スリザリンの制服を着たものすごい美人の女子が背景に描かれたプラムを手に取りながら言った。
「あんたもそうだったもんねレストレンジ?」
額縁に入ってきたスリザリンの女子がそう言ってからかい、レストレンジと呼ばれたものすごい美人のスリザリン生は大いに慌てた。
「いろんな事教えてくれたし、いっぱい遊んでくれたんだよ!」
「みなさんと一緒に、宿題をいつも手伝っていただきました」
姉妹なのであろうハッフルパフの制服を着た2人が同じ額縁の中から言う。
「いつも皆を振り回してたね。やることなすことメチャクチャなんだから」
聡明そうなレイブンクロー生の青年が天球儀らしきものを手入れしながら微笑む。
「でもみんなそれが楽しくて、コイツに着いて行ってた」
キリンとワシに並んで佇むグリフィンドール生が壁の高い位置から皆の発言に続く。
「減点も加点も、他の生徒みんなを合わせたより多かったね」と言ってマチルダ・ウィーズリー先生が笑った。
「それで最終的に寮への貢献がプラスマイナス0に収束するんですよね」
小さなダンブルドア少年がウィーズリー先生に続いて笑う。
「1度に600点の減点をくらう愚か者など、こやつ以外に現れてたまるものか」
フィニアス・ナイジェラス・ブラック校長が苦々しげに付け足した。
「ホントに呆れた奴だよ。さんざん助けてもらったのも事実だけど」
グリフィンドール生の青年が困ったような顔して肩を竦めて見せる。
「実技は誰にも負けないのに、座学はほんとに苦手なんだよね。同じ間違いを何回指摘したやらわかんないや」
ギャレスが当時を思い出してまた笑う。
「退屈しない人ですよ。あの頃も、今も」
小さなダンブルドア少年がそう締め括り、当時を知る肖像画全てが同意した。
友人達やウィーズリー先生に学生時代を暴露されたその女生徒はそこら中に友人達の肖像画を配置したせいで目を逸らそうとして別の肖像画と目が合うを繰り返した挙げ句、真っ赤になって俯いてしまった。
「そんな皆してバラす事ないじゃん…………」
そう漏らす女生徒に、ルーナが歩み寄ってトドメを刺した。
「みんなアンタの事が大好きなんだね、先生。あたしもアンタのこと好きだよ」
マクゴナガルがこんなにもニコニコしているのは、本当に珍しい事だった。少なくともフレッドとジョージには初めて見る光景で、2人してニヤニヤしながら何も言わずにその光景を眺め続けていた。