Tombstone of a certain snake

Tombstone of a certain snake

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不死鳥の歌が響き渡る朝のホグワーツ城正面広場で続く戦いの中。ヴォルデモートはミネルバ・マクゴナガル、アーサー・ウィーズリー、キングズリー・シャックルボルト、ホラス・スラグホーンそしてアメリカ合衆国魔法議会議長とその数人の部下たちという10人近くをいっぺんに相手取っていた。

「貴様らとて純血なのだぞウィーズリー!!」

ヴォルデモートが放った呪詛をマクゴナガルとキングズリーが2人がかりで防ぎ、スラグホーンとMACUSA議長とアーサーがすぐさま反撃する。

「それは違う!ウチの親戚にはマグルがたくさんいる!みんないい人たちだ!それが我がウィーズリー家の誇りだ!」

遥か向こうで負傷したイルヴァモーニーの生徒を城内に搬送しようとしているビルとパーシーは父の叫びが聞こえたらしく、その背中を見つめて笑顔を浮かべる。

「つくづく見下げ果てた奴だ、アーサー・ウィーズリー。アバダ・ケダブラ!!」

ヴォルデモートが放った死の呪いに、マクゴナガルもキングズリーもアーサーもスラグホーンもMACUSA議長と部下たちも一斉に失神呪文を放って対抗する。

「俺様に敵う者などいるものか!!!」

10人弱を1人で圧倒するヴォルデモートの死の呪いが押し始めた時、マホウトコロの職員らしき男性が背後からヴォルデモートを襲った。

「鬱陶しいわ!!」

ヴォルデモートはそれを片手で払い除けるが、吹き飛ばされたその職員は猫のようなしなやかさで即立ち上がり、再び低い姿勢でヴォルデモートに斬りかかる。

その後方では最後に1人残っていた巨人の長ゴルゴマスが極彩色の鳥の群れに翻弄され、ポモーナ・スプラウトとイルマ・ピンスの放った魔法で眼球に着火されていた。

巨人ゴルゴマスが呻き身を捩った隙に、その胴体をマホウトコロとダームストラングの2人の生徒がよじ登る。

「ちゃんと毎日風呂に入らんかいクソボケが!!」

「コイツは特に酷いな。鼻が曲がりそうだ」

2人の生徒は未だにお互いの言葉が判らないものの、一緒に戦う内に考えている事は解るようになっていた。

頭から血を流しながらも刀の鍔に開いた穴に杖を挿し入れて纏めて握っているそのマホウトコロの女子生徒と、杖を巨人ゴルゴマスの首に向けたダームストラングの男子生徒は巨人ゴルゴマスの左右の肩にしがみついて同時に唱える。

「「ディフィンド!!」」

ゴルゴマスの首からは血が流れるが、それでどうこうなるような傷ではない。暴れるゴルゴマスにスプラウトとピンスが絶え間なく呪詛を放って注意を引き、周囲を飛び回り巨人ゴルゴマスの視界を奪う極彩色の鳥の群れは、眼球を抉りにかかっている。

「つくづく頑丈なやつだ………!」

ダームストラングの男子生徒は唸る。しかしすかさずマホウトコロの女子生徒は、そのゴルゴマスの首に僅かにできた傷口に刀を刺し込んだ。

「かっっっっったいなぁホンマに………!!何喰うたらこないなんねん」

ダームストラングの男子生徒も手を伸ばして身を乗り出してその刀に手をかけ、2人がかりで深く押し込む。その血を全身に浴びながらダームストラングの男子生徒は巨人ゴルゴマスの首の傷口に自分の杖も突っ込み、再び2人同時に叫んだ。

「「ディフィンド!!!」」

銀色に輝くゴブリン製の兜を被った乱暴な巨人の長の頭は、斬り落とされた。

モリー・ウィーズリーに押しのけられたその女生徒は、周囲で続くいくつかの戦いに注意を払いつつも、まだ名前を思い出せない凶悪そうな死喰い人の女と単なる主婦との決闘を見守っていた。

ケンタウルス達によってヴォルデモートと死喰い人が暴れる主戦場から隔離するように誘導され、集団を切り分けるように蹴散らされていた気が遠くなるほどの数の亡者の群れは、大勢の魔法使い達の尽力によってついに掃討された。

エヴァン・ロジエールはチャーリー・ウィーズリーとビクトール・クラムによって叩きのめされ、オーガスタ・ロングボトムによって頭部を巨大なタコの足に変えられた大柄な死喰い人は手探りでなお戦おうとしたところをフレッドとジョージに左右から足を引っ掛けられて転倒し、フラー・デラクールとポーバトンの女子生徒に失神呪文を浴びせられて沈黙する。

足を引きずるアリシア・スピネットに杖を向けている死喰い人を見たハリーは、そこに失神呪文を放って昏倒させた。

アルバート・ランコーンはオリンペ・マクシームの「妨害呪文」によってその動きを著しく鈍らされたところにクリーチャーと複数人の屋敷しもべ妖精が放った魔法によってその身を吹き飛ばされて倒れ、動かなくなった。

「しゃしゃり出て来といてそんなもんかい?お前さんが目の前で死んだらそこのおチビちゃんはどういう気分だろうね?」

矢継ぎ早に呪詛を放っていたベラトリックス・レストレンジは、その悪意に満ちた表情のまま唐突に動きを止める。

防戦一方の中で僅かな隙を突いて「全身金縛り」を命中させたモリー・ウィーズリーは、さらに力強く杖を振るいベラトリックスを文字通り粉砕してみせた。

さっきまでベラトリックス・レストレンジだった塵の山が風に飛ばされて散っていくのを見下ろしてニッコリと笑ったモリーを、見守っていたハーマイオニーとジニーとパチル姉妹を始めとした周囲の人々の歓声が包む。

最も強力な副官の死を目撃したヴォルデモートは怒りに任せて杖を振るい、自分にまとわりついていた10人ほどの有象無象共を纏めて弾き飛ばした。

「アバダ・ケダブラ!!」

「「「ステューピファイ!!」」」

モリー・ウィーズリーを狙ったその死の呪いに失神呪文で対抗したのはアバーフォース・ダンブルドアと、ドラコとルシウス・マルフォイ父子だった。

「これはこれは。理由くらいは聞かせてくれるのだろうなルシウス?」

死の呪いを引き上げて失神呪文を払い除けたヴォルデモートはマルフォイ父子に語りかける。

「お話ししても、決してご理解いただけないと心得ております。我が君」

ルシウス・マルフォイが息子と並んで闇の帝王に杖を向ける後ろにはノット、クラッブ、ゴイル氏などの現役のスリザリン生を子に持つ死喰い人達が並んでいる。最初から消極的な戦いぶりを見せていた彼らは、ホグワーツ側に付く事を選んだのだ。

「貴様らの忠誠心がうわべだけのものであることなぞ見抜いておったわ!」

ヴォルデモートはルシウスに「磔」をかけようとするがアバーフォースとノット氏に阻止される。

「だが、お前はどうしたというのだドラコ?俺様はお前に期待していたのだぞ?」

ドラコ・マルフォイは震えながらもヴォルデモートに杖を向けている。ドラコはヴォルデモート自体よりもむしろ、ヴォルデモートと相対している事による己の中の恐怖と戦っていた。

「あなたは誰よりも強い。誰も比肩しうる者など居ないほどに。………けれど、だからなんだ?そんな、そんなものに…………価値があるか?純血魔法族のみの世界を作って、それで、どうするのです?穢れた血を虐げて支配してそれでどうするのです?それは結局はゴーントのように先細る未来に向かう道では………?ああなりたいと、そう、仰るのですか…………?惨めに枯れ果てたいと?」

絞り出すようにそう言いながらドラコはヴォルデモートの目を見る。

「あなたの隣で生きるくらいなら、口うるさいマクゴナガルやあの不愉快なポッターと共にここでくたばるほうがずっとマシだ、ヴォルデモート。父上と母上を侮辱したお前に、誰がついていくものか」

気づけばホグワーツ側と未だ戦っているのはヴォルデモートだけになっていた。

怒り狂うヴォルデモートが放った死の呪いがドラコに到達しようとする刹那、ノット氏がドラコに側面から突進して突き飛ばした。

「息子を頼む」

ノット氏が緑の閃光に撃たれる寸前にそう言ったのを、ドラコは確かに聞いた。

「プライオア・インカンタート!!」

走り寄ってきた若い闇祓いの魔女が放った「直前呪文」は煩わしげに払い除けられ、呪詛を撃ち返そうとしたヴォルデモートの視界を飛来した極彩色の鳥たちが覆う。

「ステューピファイ!」

その鳥たちの内の1羽がワガドゥーの講師の姿に戻って失神呪文を放ち、それを防いだヴォルデモートを頭上から銃弾と落雷が襲う。

「俺様に勝てるつもりか!!!」

吹き飛ばされたワガドゥーの講師は、朦朧とする意識の中で己に鞭打って再び極彩色の鳥の姿となり、羽ばたいて勢いを殺す。

「「エクスペリアームス!!」」

スラグホーンと若い闇祓いの魔女が同時に唱えるが、それも片手で払い除けられる。

「「ペスティス・インセンディウム!!」」

ヴォルデモートと同時にその「悪霊の火」を唱えて対抗したのは、遥か向こうで半死半生のMACUSAの闇祓いを救命していた古びたスリザリンの制服姿の女生徒だった。

燃え盛る大蛇とドラゴンがせめぎ合い、それまでヴォルデモートと戦っていた面々と女生徒の周囲の複数人は急いで避難を開始する。たった1人を除いて。

「インセンディオ!!!」

アバーフォース・ダンブルドアの杖の先から悪霊の火にも勝るほどの猛火が噴出し、側面からヴォルデモートに迫った。

「俺様に、勝てる者など、居るものか!!!」

ヴォルデモートは力任せに杖を振るってその城ごと焼き尽くせそうなほどの炎をまとめてかき消し、そのまま女生徒とアバーフォースをも吹き飛ばした。

「アバダ―」

「ステューピファイ!!」

ヴォルデモートの前に立ちはだかったのは、グリフィンドールの剣と杖を両手にそれぞれ握ってふらつく足で必死に近寄ってきたネビル・ロングボトムだった。

「クルーシ―」

「プロテゴ・マキシマ!!」

ヴォルデモートが放とうとした呪いを防いだのは、ネビルではなかった。

自分のすぐ隣の空中から杖を持った手が突き出ているのを見たネビルは声を上げる。

「ハリー!!」

額に傷のある丸メガネの小僧が透明マントを脱ぎ去ると、ヴォルデモート卿は一層の怒りを露わにする。

ヴォルデモートに近寄ろうとしながらも戦塵の向こうに目撃した友人達を可能な限り守ろうとして戦場中を駆けずり回っていたハリー・ポッターも、ラバスタン・レストレンジの磔の呪いのダメージがまだ残っているネビルも、そして有象無象のゴミ共に纏わりつかれ続けたヴォルデモートも、肩で息をしていた。

アバーフォースを助け起こした古いスリザリンの制服を着た女生徒も、マホウトコロや各国の魔法学校から来た生徒や職員たちも、MACUSAの面々も、ホグワーツ城の皆も、全員がその光景を見つめる。

ヴォルデモートがネビルとハリーを嘲笑い、ネビルが言い返し、ハリーが冷静に説明する。しかし「ニワトコの杖」の所有権も、スネイプの心の底も、結局はこの決闘の結果が全てだった。

「アバダ・ケダブラ!!」

ヴォルデモートがハリーに放った死の呪いを急降下してきた不死鳥がその身で防ぐ。

「アバダ・ケダブラ!!!!」

「エクスペリアームス!!」

再び死の呪いを放ったヴォルデモートと武装解除術を唱えたハリーの叫びが重なる。そして、ヴォルデモートの手から杖が吹き飛ばされた。

17年前と同じように自分で放った呪いを跳ね返されたヴォルデモートは、苦悶と驚愕に満ちた表情のまま、塵のように全身が崩れて滅びた。

そしてヴォルデモートの手から弾け飛んだニワトコの杖は、ハリーの手に収まる。

地面が割れるほどの大歓声が響き渡った。


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