Title-unknown
暗い部屋の中心へ、少女はまた一つ歩みを進める。
「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。
降り立つ壁には風を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」
セミロングの黒髪とそっくりな漆黒のドレスのフリルが、彼女の呼吸とともに揺れる。
芯の通った声は、小さな体から発されているとは到底思えない程の凄みを孕んでいた。
「閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する。
―――――Anfang(セット)
―――――告げる
―――告げる
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。
誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」
足元の魔法陣から放たれた淡い光が、少女の姿を照らし出す。
「汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
突如光が部屋中に満ちて、少女は思わず目を閉じる。
パチパチという音と仄かな暖かさに再び目を開いた先にいたのは、紅く、背の高い女性だった。
「───サーヴァント、アルターエゴ。
我こそ、第六天を統べし魔王───織田信長である」
はっと浅い息をして、少女は尻餅をつく。
「召喚、できたっ......!」
完全な召喚、望み通りの英霊、これ以上無いほどの成功だ。
安堵のため息を溢した少女に相対し、信長は内心眉をひそめていた。
気配で、何より魂で解る。眼前の童は我が血を引きし子孫であると。しかし。
聖杯戦争とはその名の通り戦争。英霊、サーヴァントを使役するマスターとはそれ則ち武器を持って戦場に立つことに等しい。
全く、畜生道の餓鬼にも劣るものがいたものよ。斯様な幼子に戦地に出ろと?
スッと目を細めた信長に、少女の消えかけていた恐怖心が煽られる。
相手は第六天魔王とまで呼ばれた言わずと知れた戦国武将。臆病者の私では釣り合わないことなんて端から分かっていたはずだ。
うん、そう。だからせめて協力してもらえるように、と彼女は口を開く。
「えぇっと……アルターエゴ。
私は織田旭。簡単に言えば、貴方の子孫にあたる魔術師で、今は政府の機密機関でお抱えの魔術師をやっていて、今回の聖杯戦争の参加者として選ばれたから、貴方を世間一般のイメージ……魔王信長として召喚したわけだけど……」
信長、否、アルターエゴが眉を動かす。それは己に対する魔術師らしくない評価と国が守るべき童女に武器を握らせたという事実に対する驚愕であったが、十一の少女にそんな些細な変化は見破ることが出来なかった。
「やっぱりけっこくておそぎゃあ……。
ど、どうか今後ともよろしく………」
思わず本音が出ていたことにも気付かずに、旭は頭を下げる。
明らかに我の存在だけではない何かに怯えながらも自身の使命を全うしようとするその姿に、信長は心を決めた。
幼子……否、旭だったか。
国が我が子孫(マスター)に戦火の恐怖を刻み付けようとしているのならば、我は衆生の破壊者として、何もかもを壊し尽くさなければなるまいよ……。
ふっと息の抜ける音に、旭は顔を上げる。
幼子の見開かれた丸い瞳に、魔王の微笑みが映った。
「───我に任せよ、マスター。
立ちはだかる矮小十端、尽く焼き尽くしてくれよう」