The U-Files

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episode"Horse girls"

《次のニュースは日本国について。先月から日本国全域で唐突に現れるようになった馬の耳と尻尾を持った若い女性達について、日本国から『目下調査中であるが原因は不明である』との回答があったとホワイトハウスより発表がありました。このHorse girlは人間離れしたパワーとサラブレッドに匹敵する走行能力を備えており、これについて『日本国が何らかの形で人間の生物兵器化を実用化したのではないか』と意見を表明する市民団体も発生しており、同国との国際関係に影響が出ることが懸念され……》


 付けっぱなしのTVから聴こえてきたニュースに顔をしかめ、僕はチャンネルを探してTVを切る。内容は英国人のジョークよりナンセンスな話だが、映像の中のHorse girlsの耳や尻尾がコスチュームやSFXの類でないことは確認が取れている事実なのだ。

 日本国で彼女らが確認されたとき、国内は軽いパニックになった。何と言っても派手で新しいことが大好きな国民だ、帰国者や在日米国大使館から証言も取れているし、何なら旅行者には直接見かけてナンパをしてみたという奴まで居た。

 それで聞き取れた情報が《Horse girlsは口を揃えて「目の前に出てきた変なスイッチ押したらなっちゃった」と言っている》なんて馬鹿馬鹿しいにも程があるものだから困る。しかも元は男性であったものも、女性であったものも居る、というのだから人権団体に女性団体、陰謀論者…碌でも無い連中が喧々諤々と騒いでいるのだ。

 …何が最悪といえば、だ。件のスイッチがこの僕の前にある、ということなんだ。


 申し遅れたが僕の名前はアレックス、れっきとしたFBIの捜査官だ。そして超常現象捜査官という閑職の友人に付き合わされて、コイツの調査をしているというわけだ。

「何度見てもナンセンスでチープなスイッチだ…ついでに解体の結果も気に入らない」

「そう言うなアレックス、俺の調査は何時だってこんなもんさ。だが真実は必ずあるんだ、それを突き止めなければならない」

「おいフォックス。そもそも僕の捜査は失踪事件だったんだぞ、それがなんだってこうなるんだ」

 そう、元々は謎の失踪者の捜索だったのだ。その失踪者が部屋中にHentaiポスターを貼り付けたナードだったのはまあいい、問題はソイツのPCの前に置き去りにされたこのスイッチ。それを慎重に解体してみたところ、中身はAAバッテリー一本にボタンを光らせるだけの回路しかなかったのだが。

「…日本の失踪者の自宅から、こういったものが出た形跡はないし、そもそもHorse girlになったという人間の、元住んでいた所には元々誰も居ないか、当人曰く同一人物が居るって話だ。やっぱりイタズラなんじゃないか?」

「ああ。しかし姿形を変えてワープする、という証言を事実とするなら、現実を改変してソイツが居た形跡をまるごと無くしてしまえるかもしれない」

「しかしアメリカ合衆国でHorse girlは確認されていない」

「跳んだ先が日本なのかもな。そしてソイツが陰謀論を信じるやつなら、アメリカ大使館に来ることはないだろうさ」

 頭の痛くなる話だが、確かにそうだ。もしこのスイッチを押してHorse girlになった奴が日本に行ったのなら、祖国の研究施設で解体される可能性を考えて潜伏することは…まあ、ボタン一つで別人に変身するのと同程度にはあり得る話だ。

「分解して回路に直接電気を流してみた結果、ボタンが光ったときには叩き壊してやろうかと思ったんだがな」

「おいおい、いつから紅茶党に鞍替えしたんだい?そりゃあ大事な証拠品だろうが」

「こんなクソッタレのスイッチより三枚舌のジョークのほうがマシだろう?何にしたってこれじゃ手詰まりだ、いっその事無期懲役刑者に恩赦を与えて押させてみるか?」

「それで本物だったら、SUPERMANみてえなPowerの犯罪者が全然違う姿で解き放たれるってか?そりゃないぜ」

「そんぐらいの軽口を言ってないとやってら……achoo!!」

 僕は前兆もなくくしゃみをすると、手に持っていたスイッチをうっかり押してしまった。すると目の前が真っ白になり、全身が熱くなる感覚と共にだんだんと僕の意識は遠退いて……


「yawn……おっと、俺としたことが大事な証拠品を落っことしちまった。しかし真実はここにあるはずだ、突き止めてみせるぞ」
 俺は地面からスイッチを拾い上げてデスクの上に置き、集めた資料をもう一度精査する。何か忘れているような気がする…そんな自分の感覚を埋めるために。

────────────────

「『嘘乙』『寝言は寝て言え』『お前…頭が……』『以下タフスレ』『お前変なクスリでもやってるのか』そういうスレだよなあ、開いて損したわ」

 露骨な釣りスレにホイホイされた俺はため息を付きつつ、掲示板に書き込みをする。

「『こりゃひでえや、今たしかに噂になってるけどまん民があんな美少女ゲットできるわけねえだろ…ぐふっ』」

「『ブーメランで自決してる奴居て芝』『やめろカカシ、その術は俺に効く』『つかう→ブーメラン→セルフ』『ざんねん!このスレはここでおわってしまった!』『唐突な老人会やめーや』いやなんでそこでシャドウゲイト…?」

 最近巷に現れだした…と言っても圧倒的に東京での目撃例が多いのだが…ウマ娘について何かネタが転がってないかと思ったのだが、以外にもこんなネタスレはあってもガチ情報は見当たらない。

 ウマ娘。それは競走馬の名前と魂を受け継いで(中略)という、空想上の存在である。ついひと月前まではそうだったし、そういう設定のゲームでしかなかったのだが…それがいま現実を練り歩いているのである。Cygamesは召喚魔法でも開発したのだろうか。それならドラフを召喚するほうが先か?あんまりかわらねえな、マーベラス的に考えて。

「『いや違うんだ聞いてくれ、インタビューで言ってただろ?ウマ娘になったとき他人の家に飛ばされたって。俺んとこにも来たんだってマジで』『え、マジで言ってる?』『あのインタビューの娘と同棲してんのお前』」

 流れ変わったな?確かにテレビに映ってた娘はそんなことを言っていた。そう考えると家に来ることもあり得んのか…等と意識を飛ばしてるうちに釣り宣言が出て『氏ね』の合唱が始まっていた。だよなぁ、俺も書いとくか。

「あー……俺にもウマ娘降って来ねえかな、ブルー・マリーみたいなアメリカンな娘がいい…なあっ!?」

 釣りに引っ掛かった悔しさを紛らわそうとそんな独り言を言ったとき、眩い光が俺の目を焼いた。


 しばらくして光が収まるとそこには一人の女性…ウマ娘が居た。赤毛に切れ長の目が印象的な長身の美女、バストも豊満だ。

「where is this…? Who are you, what have you done to me!」

 うん、めっちゃ警戒してるな。しかも外国人らしい。部屋の隅を陣取るようにして構えを取り、キッとこちらを睨んでいる。

 その眼光の鋭さにビビりつつも、とりあえず手を上げて無害アピールをする。相手はウマ娘だ、殴られればマジでミンチになりかねない。クソッ!英語の勉強もっと真面目にやっとけばよかった!!

「Japanese? Is this Japan? Hey, who are you and where am I? Answer me quickly!」

「あー、あー……アイドントスピークイングリッシュ……ユーズドトランスレイトツール?」

「What? …Come to think of it, were the Japanese bad at English? phew……」

 俺が困ったときの魔法の言葉を唱えると、彼女は怪訝な顔をしたあとため息をついて構えを解いた。とりあえず死ななくて済みそうだ。

「Ah-…アー、少しなら、日本語話せる。聞き取りは問題ない、日本語でゆっくり話せ」

「話せと言われても…ここは日本で俺は一般人だよ、こっちからしたら急にそっちが現れたとしか…」

「Pardon? What's with the skinny hands?
A woman's body? I don't understand. んん…もしかしてワタシ、ウマガールなってますか?」

「ウマガール…ウマ娘?なってるけど…」

 俺がそう答えると「Jesus…!」と叫んで蹲ってしまった。


 ショックから立ち直った彼女(やはり元男らしい)と翻訳ツールを駆使しながら話したところ、なんとFBIの捜査官だったという。

 どうやらボタンを押してウマ娘になったアメリカまん民の住居にボタンが残されていたらしく、その調査中にうっかり押してしまった結果がこれであるらしい。

『あにまん民というのは掲示板の住人を示していたのか…道理でわからないわけだ。それにしてもなんなのだあのふざけた文章は…』

「こっちのアダルトコミックじや良くあるやつなんだよ、前置きを省略して濡れ場に移るのに手っ取り早い設定って感じ」

『Hentaiか…調査中の被害者の部屋もHentaiポスターで一杯だったが、そこで繋がるのか…』

「ところでこれからどうすんの?アメリカ大使館行く?」

『…いや、捜査中の状況から推測すると僕の個人データはこの世から消え去っているだろう。国籍無しで祖国に帰っても仕方がないし、陰謀論気味ではあるが解剖される可能性が無いこともないからな…』

「それはなんというか…その。…ところでボタンに書いてあったことについては」

『…セックスか?抵抗感はあるが…受け入れるしかないだろう。身体に慣れるためにも必要な事だ…エチケットは守れよ?』

「えー、あー、エチケットの具体的な内容を教えていただけると…」

『はぁー、情けない奴だな。貴様の前にある板は何だ?まあいい。僕にシャワーの使い方を教えてくれ、熱湯や冷水を浴びたくないからな。その間に調べておけばいいだろう?』

 彼女はそんな文章を打ち込んだあと、冷ややかな目でこちらを見ていた…。

──────────

「Don't look at me...」

 両手で顔を覆い、丸まったまま彼女はそう呟く。言葉は分からないが態度で伝わるとはこういうことだろう。

 あの後、コンビニで購入してきたゴムを使い切るまで彼女を抱いたのだが…最高でした。アメリカ人ホントにYesYesって喘ぐのな。

「…I never knew doggy sex could feel so good...…
What the hell is wrong with me…?」

 英語で何事か呟きながら股を擦り合わせる。そんな姿を見てたら興奮するのは仕方ないよね。

「ねぇ、無くなっちゃったけど…いい?エチケット違反だけど、そっちもまだ物足りないよね?」

 俺は彼女の眼前にいきり立つピルサドスキーを見せつけ、空になったゴムの箱を逆さにして振りながら問う。多分これで伝わるよな?

「…Are you going to fuck me raw? reality?……………All right, come on.」

 いくらか逡巡したあと彼女は真っ赤な顔で同意を示すように腕を開く。俺はすぐに我慢をやめて彼女を抱き締め、唇を奪い、熱く滾る自身を突き立てて隅々まで穢した。

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