The Great Panjandrum
N. K.「やあウィンストン、元気?」
「お前か……元気なわけがないだろう、アフリカからはどうにか追い払ったとはいえ、ナチ共はいまだヨーロッパの大半を我が物顔で歩き回っとる。酒でも飲まなきゃやってられんし、ほれ、こんなに太ってしまった」
「酒飲むのも太ってるのもいつものことじゃないか……というのはさておき、今日は面白いものを持ってきたよ」
文字通りどこからともなく現れた、第61代英国首相ウィンストン・チャーチルの『友人』は、そう言って持っていたトランクから大きな物体を取り出した。
「ほら、ドーヴァー海峡の要塞が固くて困ってるんだろ?私ならコンフリンゴなり爆弾ぶつけるなりでどうにでもできるんだろうけど、さすがに直接それをやっちゃマズい。というわけで、どうにかそれをマグルの技術で実現できないかと思っていろいろ考えてたのさ」
「それで……これか?大きなボビンにしか見えんがな」
その『ボビン』が明らかにトランクより大きいことは無視してウィンストンが聞く。
「まあコレ自体は魔法で作ったんだけど、たぶんこれならマグルの技術で再現できると思う。要するにでっかい爆弾に車輪をつけただけなんだけど、自爆させるのにエンジンなんか積んだらもったいないし、何より爆薬の量が減ってしまうだろう?だから、こうする」
『友人』がポケット――しかもご丁寧にマグルの白衣――から杖を取り出してひと振りすると、ボビンの両側の円盤から円周方向に勢い良く炎が吹き出し、ボビンがゆっくりと回り始めた。
「これならこの炎の部分を君たちのいう『ロケット』にすれば同じものが作れるんじゃない?」
「なるほど、面白そうだな。うちの諸兵器開発部にネビルという男がいる。ちょっと見せてみるか」
「いやさすがに見せるのはだめだよ!?」
「冗談だ、アイデアだけもらおう。使えるかはわからんが、今はどんなアイデアでもほしいからな。ありがとう、お礼と言っては何だがマティーニでもどうだ?」
そう言いながらチャーチルは棚からベルモットとジンを取り出し、ベルモットの瓶は脇に置いて2つのグラスにジンを注いだ。だがグラスを持って振り返ると、そこにはボビンも、トランクも、そして『友人』の姿もなく、ただ執務室の机が見えるのみであった。
なお、このときボビンには製作者が半ば無意識に施した「まっすぐ進む魔法」がかかっており、魔法なしで作ったマグルの再現物はまともにまっすぐ走ることすらなく、結局は英国を代表する珍兵器とまで呼ばれてしまうのであるが、そんなことは今の二人には知る由もないことであった。