The Accomplice⑤

The Accomplice⑤


どうやら出ていく気の友人の腕を引っ掴みつつにこやかにデバガメ続行を続けてくるエドガーのことなどつゆ知らず、監視対象の方はアリバイ確保とばかりに手際良く飲み物を購入し、戻っていく。

未だへちょりとした顔で呆けていたマグダレーナに水を渡し、飲んだのを確認した後、しばらくの沈黙を挟みようやく会話が再開された。


「……そろそろご説明いただけますか」

「……………………」

「こちらとしては、口を開くまでこのまま待つという事でも一向に構いませんが」

終始腕組み仁王立ちで見下ろしてくる夫の言葉にたじろいでか、マグダレーナはウロウロと視線を左右に彷徨わせる。

やがて、観念したように息を吐いたかと思えば、ボソリと呟くように言葉をこぼした。

「正直、リゾートという概念に喜びを感じられないのよね」

「……人を散々休みだ人間磨きだと連れ回した方の言葉とは思えませんね」

「理論上余暇を楽しむことは人間性の獲得に際し重要であることは理解していますし、生物学上の休息の必要性にしてもまた然りです。

実際、満足度の獲得的には一般的にはこれが適した物であるという知見も得てはいます。ですが、どうしても……」

「…………はぁ」

「お前も、今からでも遅くないから連むならもっと真っ当な人間探せば––––––ぎゃあっ」

俯き話を続ける隙をつかれ、大きくため息をついた夫に持ち上げられたマグダレーナが些か優美さに欠けた悲鳴をあげる。

「ちょっとやめなさいよ!レディを勝手に持ち運ぶのは無礼なんですからね!どいつもこいつも!

 ……こーらー!」



「……あの様子だと行くのは海沿いかな。先回りしようか」

「やはり私が出ていって–––––」

「駄目だよ」

「……わ、わたし達も行きましょう!」

そうだね
連行されるエイリアン、二体目だなぁ



「……はなび」

「はい」

現代社会に馴染んだ藤丸の視座で述べれば、「ちょうどホームセンターで買えそうなもの」と言えばわかりやすいか。サイズと包装からは、その中でもグレードとしては些か豪勢なものである、ということが伺えた。

「まずこれをやります」

「でも、いきなり素人が火薬を扱っては危ないのではないかしら。私、いつもは基本的に霊子による武装を扱っているから詳しくはなくて……」

「この世の大抵のことは説明書をちゃんと読めばなんとかなります。まずはバケツに水を汲んできてください」

「いいけど……」

人気のない海岸に連れてこられたかと思えば突然バケツを手渡され、マグダレーナは明らかに困惑しているようであった。とはいえ、逆らってどうなるという問題でもないことは理解しているのか、大人しく手足洗い場の蛇口をひねり水を調達する。


「こちらの準備も整いました。どうぞ」

「何の意味があって……」

「どうぞ」

「………わかったわよ」



「先ほど聞こえてきた話では娯楽を楽しめない、というお話でしたが、大丈夫なのでしょうか……」

茂みの陰から様子を伺うマシュが不安の声を上げる。

その疑問の答えをもっとも正確に推し量れるのは実の兄であろうと視線を向ければ–––––呆れたような顔で首を振っているところだった。


**

「わあ!何やら火花がしゅわしゅわと!……これ、このままじっとしていないといけないのかしら!」

「人に向けるなとありますが、動かすこと自体は禁止されていない様子なので問題ないかと」

**

「わーーー!ぐるぐるしてる!なにこれ!」

「近寄らない!燃え移りますよ!」

**

「……なんだったの、今の」

「…………説明書きには蛇花火、とありましたが」

「蛇っていうか、これ、犬のフ」

「やめましょう」

**


「……あの、すみません、見間違いではないと思うのですが、なんというか……」

めちゃくちゃ楽しんでませんかあれ
心ナイナイ詐欺です?

「あれは先天的に内面的自己認識を司る機能に問題があるだけだ。

 感情の起伏自体は非常に激しい。…………本当に、激しい」

「半分ぐらい君が原因だけどね」

「私は何も間違ったことなどしておらん。レーナが話を聞かぬのだ」

そう言うなり、この場一番の有識者は顔を背けカメラの設定を確認するそぶりを見せ出す。

さて、一方の監視対象側はといえば、いよいよ手持ちの種類も尽き始め線香花火に手を出すところのようであった。


「この先っぽに火をつけるの?」

「そのようです。……これに関しては、玉が落ちてしまう可能性があるため動くことは推奨されないとあります」

「ふーん。私動かないでいるの苦手だし、オマエが持てよな」

「元よりそのつもりです」


不慣れゆえか一本目の寿命は短かったが、それでコツを掴んだのか二本目以降はささやかながら安定を増していく。

遠巻きに見ている一行には聞こえないほどの、ぱちぱちという小さな音だけが場を支配していた。


「……先程までの話の続きですが」

「はい」

「私って、何やらいい人みたいに言われることもあるけど、全然そんなことないじゃない?行き当たりばったりに、やりたいことやってるだけだし。

 結局場当たり的に目についた気に食わないものに突っかかってるだけで、根本的な解決も予防も全然できていないのよ」

「そういった見方も可能かもしれません」

「よくないとは思ってるんだけど、いつも我慢しきれずにおかしな事しちゃうし、そういう生き物だってだけなのに感謝されたり大事な人みたいに扱われるのって不公平よね。

 何しても怒られない立場に生まれてきただけの生き物が上から目線で周りのことを判断するって、正直サイアクでしょ。現場にいるしかない立場からしたら、嫌いになるのも仕方ないってカンジ」

「………………」

「だからね、皆がお休みをたくさん取れて楽しいなら、無理するぐらい全然大変なことじゃなくって……なんとか頑張ろうと思ってたんだけど、結局上手くいかないみたいで……

 ええっと、つまり、結局いつもの通り無責任な奴が好き勝手にやって勝手に弱ってるってだけだし、お前たちは何も気にする必要なんてないの」

膨れきって火花も出なくなった玉が、ぽとりと落ちる。

蝋燭の灯りが揺れ、穏やかな波音が音のなさをきわ立てるように響いていた。

「……恵まれた環境の生き物が憎悪を買う、という意見については、理解できます。

 私自身、生まれながらに何を犠牲にせずとも周囲からの愛を受け、自らの必然性を疑わず、願って歩めば全てが叶うと信じきっているような生物を見て、苦々しい感情が湧き上がってこないとは言えません。

私は本質的にそういう人間ですし、最早この先変わるようなものではない」

「………そう、よね」

「……ですが。私のお慕い申し上げる方は、二者択一に悩んでいれば自分の分を削ってでも諦めずに済むよう心を砕いてくださる方で……

 取りこぼしてしまったものに思いを馳せていれば「一緒に取りに行こう」と笑ってくださる方なのです。

 貴女がお節介を「今自分が勝手にやっているだけの、やりたい事」に定義するのであれば、私はそういう方と道を共にすることをそれに定義しようと思います」

「……ええっと、でも、私、父があれだし、お母様の一族があれだし、兄もあれだし、そんな、綺麗な感じにくくってもらえるような者では……」

「私は元暗殺者志望で以降は大量虐殺に自らの意思で積極的に加担しました。必要とあらば今からでも責任を取りますが」

「う゛、え、それは」

「……もし、どうしてもご自分が幸福であるということが許せないのであれば、心配はご無用です。

 ––––––重くて面倒臭くて後ろ暗くて、ほんの少しの優しさの為だけに人だって殺せる。そんな者に一生付き纏われてしまうのですから、これ以上の不幸はないでしょう」

「………………………

 ……………………………!!

 ……あは!は、ははは!怒りにくるのが随分遅いと思ってたんだけど、もしかして、こうなったときに言うこと考えてたの?!」

「はい。……一応複数の書籍を参考にさせていただいたのですが、不足でしたか」

「いや、うん。……ええと、これからも定期的にやってほしいような、心臓に悪いのであくまで定期的にであってほしいような、そのような感じで」


沈黙。


「……ねえ。

 その参考にした書籍とやらには、異性に小粋な文句を贈呈した後、そのまま放っておいていいと書いてありましたか?」

「………………それは」


「先輩!この流れはもしや!」

もしかするかも!
おおお…!

「ノリいいね?君たち」


「……しかし、その、場所というものも」

「今日は島の反対側で花火があったからか、めっきり人気がないわねえ」

「ご令嬢に対しそのような」

「生娘でもあるまいし畏まることないでしょ」

「……………………………………………

 ––––––承知、しました……!」

月光が落ちる海岸で、にわかに生暖かい空気を醸し出し始める一組の男女。

一方の動きが錆びついたブリキ細工よりもぎこちないことにさえ目を瞑れば、いっぱしの恋愛メロドラマのクライマックスシーンのようでさえあった。

…否、ぎこちなさも含め演出とすれば、事実それは一種のクライマックスであったといえよう。


––––––全てはフラッシュとシャッター音に邪魔をされなければ、の話であったが。


「く、曲者ーーーーーーッ!!」

完全に受け入れ体勢を整えていたマグダレーナであったが、慌てて飛び退くと音がした茂みの方へと弾を飛ばす。


「あーあ。バレちゃった」

何してんですか貴方

「……ふむ。あの二人の写真はまだ撮っていなかったからな。丁度良いと思ったのだが」

「いい訳ないでしょー!!!!」

「聞こえてらっしゃいます……

 マグダレーナさん、凄まじい地獄耳です!これは大人しく捕まって沙汰を受けるしかないかと!」


見物客たちがわやわやと騒ぐ間、静かに歩み寄ってきていたハッシュヴァルトが茂みの梢に手をかける。

怒りの滲むようなメキ、という音と共に、いつもよりかかる影の量が気持ち多めな顔が首を覗かせた。

「……陛下。お元気そうで、非常に何よりです」

字幕をつければ「何してくれやがってんだこのボケ親父」になる声音と顔であったが、少なくとも文面上はとてもとても慇懃な挨拶である。

声を掛けられた盗撮犯はといえば、そんな副音声は意にも解さぬ様子でカメラを確認していた。

「うむ。構図が悪いな。もう一度だ」

「嫌です」

「サイテー!サイテーサイテー!そんなんだからモテないんですよ!ばか!…ばか!!」

「何を言う妹よ。私は、あれだ。本気を出したら、すごくすごいぞ」

「じゃあ出しなさい!現実に観測されない仮想スペックなど論ずるに値しません!」

顔は沸騰した薬缶の如く湯気が出るほど赤く、手足はバネじかけのようにガックンガックン暴れさせたマグダレーナが勢い任せに吠え散らかす。

一通り無駄な大暴れをした後、流石に気疲れしたのか、そのままぐるりとそっぽを向き中心部の方へと足を向けた。

「……もう!なんか萎えた!私、ホテルに帰ります!」

マグダレーナはそのまま数メートルほど走った後、素早くきびすを返し夫の腕を握る。

「……何ボーッと突っ立ってんだ。言っとくけど、すっごく忙しいんですからね。後でやっぱり嫌とか言っても聞かないから」

「…………!…そう、ですね」


そのまま歩み去る二人の背中を見つめ、ようやく見えなくなったところで、マシュは気が抜けたように大きくため息をついた。

「一件落着、でいいのでしょうか」

「いいんじゃないかな。いやーよかったよかった」

「……写真を撮り損ねたのだが」

後にしてください
あなたは反省してください

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