The Accomplice③
「知らなかったのか。あの人はユーグラム・ハッシュヴァルトといって、マグダレーナ様の夫であり、私の剣術の師匠にあたる者だよ」
座り込んであわあわ言っているマグダレーナを横目につかつかと歩み寄る男を見据えつつ、カワキがなんでもないことのようにその言葉を発した。
「…そ、そうなのですか!?なんだか、思っていたよりも、その、だいぶ…しっかりとしておられるような!」
ティアマト類だったかぁ…
ライコゥ属だったかぁ…
「よくわかりませんが風評被害の匂いがするため厳重抗議させていただきます!!!」
慌てて体勢を立て直し高速後退りをしながら抗議の声を上げるマグダレーナ。全く器用なものである。
そんな無駄吠えポメラニアンの姿を二、三回ものすごく何か言いたげな顔で見据えた後、ハッシュヴァルトは結局特に何かいうこともなくカワキの方を見据え片手を前に出す。
「出せ」
「……何を?」
「先ほど後ろ手に隠した物以外にあると思うか?
…あとは懐と––––」
「見たところ鞄の内ポケットにもあってよ」
「ありがとうございます。
…だそうだな。出せ」
「………………マグダレーナ様。」
「あ゛」
漫才を思わせるやり取りではあるが、漂う空気感は身内同士のそれとは思えないほどの緊張を感じさせる。
「(後ろ手って…)」
飲み物の瓶があるようにしか見えないような
ヒソヒソと語る藤丸たちをよそに、やりとりは進行していった。
「私が私に与えられた自己裁量による使用が許可された給金で、正規の手段を用いて入手したものを取り上げる権利は誰にもない。雇用主からの許可も得ている」
「…限度というものがあるだろう」
「職務遂行上の問題は発生していない」
「…………………」
「え、あ、まあこんな時ですし多少は––––––––」
「…………………!」
「ピ、え、えっと、確かに限度というものはあるかもしれませんが–––––––」
「マグダレーナ様。」
「二人して人の話を遮ってんじゃねえよ!!!!」
話の主題とは些か違うところでキレ出した責任者を見てこれはだめだと思ったのか、相対する二者は相手を見据えながら静かに体勢を整える。
一方はどこから取り出したのかシンプルな長剣を構え。
翻ってもう一方は片手に拳銃を構えもう片方の手に––––––マグダレーナを装備していた。
「体勢を立て直しましょう」
「えっ、私別に––––––––––––ミ゜」
傍にいた藤丸たちに「ついてこい」という風に首を軽く振ると同時に、カワキが粉塵を巻き上げるようにして地面に弾を打ち込む。
そのまま爆風に紛れるようにしてその影が遠ざかるとともに、片手で引っ張られた(いつの間にやらぐるぐる巻きにされていた)マグダレーナがあげたのだろう「ぐえ」という潰れた蟾蜍のような声が高速で遠ざかっていった。
土埃が収まった頃、その場に残る影はただ一つ。
「……ッ、フ––––––––…」
感情を抑えるかのように、男が大きく深呼吸をする。
「…後程、道路の修繕を頼んでおく必要がありそうだな」
落ち着かせた中に未だ「お前何考えとんねん人いないとはいえ大通りやぞここ」の色を滲ませた声を溢すと、瞬きの間にその影は掻き消えた。
* * *
––––––––どれほどの時間が経過したのやら。
カルデア側でバックアップ体制の整えられた状態のレイシフトであれば一言尋ねれば済む事であったが、あいにく今回はそのような類の状況ではない。
遠方に響く音と光から推察するに、花火大会が開始する程度の時間は経ったということだろう。
「カワキさん!…わたしたちは、その、どちらへ向かっているのでしょうか!」
「……………万事計画通りだよ」
「その謎の沈黙は一体!?」
カルデア一行(二人)の現在といえば、ちょうど人通りから離れた方へ離れた方へと(あうあう鳴く叔母を引っ張りながら)登っていくカワキに追走しているところだった。
迷いのない動きから見ても言葉に嘘があるとは考えられないが、狙いを掴みかねるところはある。そんな意図を持って投げかけられた言葉は、「集中した方がいいと思うけどな」という声にはたき落とされた。
……事実、集中を切らしているべき時ではない。
「確かにこのままではまた……先輩、お辛いかもしれませんがペースアップです!」
理不尽ー!
せめて夜は三分の一に戻るとかであれー!
すぐ背後を見やれば、追跡者はそこにいるのであった。
せめて待てーなどと声を荒げてくれれば良いものを、息一つ切らさず、表情ひとつ変えず、ひたすらに徒歩で追走してくる。…いや、実際のところいわゆる歩法というものの一種を使用しているのだという解説はあったのだが、そのあたりの体系について教わっていない二人にはよくわからないことであった。そもそも歩法がなんだ。強化魔術か?
追いつかれなどした時は本当に大変である。そもそも有効打が通らない。
先導者に何がどうなっているのかと尋ねてみれば–––––
「ああ、彼は未来が見えるんだ」
–––––である。
であれば見えたところで問題ない動きをすればよいとシャドウサーヴァントの配置をやや工夫する。
“よくわからないこと”が起きる。
先導者に何がどうなっているのかと尋ねてみれば–––––
「無闇な攻撃は推奨しない」
–––––である。今度は巻き込まれたせいか些か不機嫌目の回答であった。先に言え。
「へん!ハナタレどもの浅知恵で攻略できるようなヌルい育て方はしてねーよ!
諦めて降伏しちゃえ降伏…へぶっ」
山賊に攫われる村娘のポーズで揺れながらそんな風に調子に乗っていたマグダレーナが、木の枝に思い切り顔をぶつけていた。
あなたは本当にどっちの味方なんですか?
あなたこそ働く気はないんですか?
「マグダレーナ様は実力で言えば騎士団の精鋭と比較しても最上位にあたる筈だけど、戦闘では基本ポンコツだからね。……そして、どうやら今日はいつにもまして役に立たない。花火の音がダメだったかな」
「ひどぉい…」そう涙ぐんだマグダレーナがすん、と鼻を鳴らした後、不思議なほど落ち着いた声音で言葉を紡ぐ。「ま、それを理解できないうちはいつまで経っても……………………でしょうけど」
カワキは無反応であった。雑音と判断したのだろう。
目の前を少し見上げるようにして見据え、「着いた」とだけ溢す。
…崖であった。
そこそこミームに明るい現代の若者としては、「火サスで犯人と話すところ」というような表現もできるかもしれない。
「これは…い、行き止まり…では!」
作戦があったのでは?!
「それについては問題ない。すでに勝算は整っている」
「ぽえ?」
カワキはなんでもないように語ると、これまたなんでもないような顔つきで片手に抱えた簀巻きの叔母を持ち上げ–––––––崖下の海へ向かって放り投げた。