Thanks,Brother.

Thanks,Brother.



「ごめん兄ちゃん、俺多分、今から酷いこと言うよ」

 聞き覚えのある声に、潔世一は足を止めた。

 日本、悲願のW杯初優勝…快挙の祝賀会はだいぶ盃を重ね、酔いを醒まそうとバルコニーへ向かいかけていたのだが先客がいたようだった。

「俺やっぱり、ストライカーの兄ちゃんのプレー好き」


「けど、世界一のミッドフィルダーになった兄ちゃんのゲームメイクもパスも滅茶苦茶好きで凄いと思ってるし、あのパス全部俺に寄越せって、俺が全部決めるって思ってる」

「…凛」


「正直俺にとって、ストライカーとかミッドフィルダーとかどうでもいいんだと思う」

 聞きようによっては酷いことを堂々と言ってのける凛の声音は、けれどどこまでも愛しさに満ちていた。

「ポジションなんてラベル知ったことじゃねえ、兄ちゃんの…糸師冴のサッカーが好きなんだ」


「兄ちゃん。世界一カッコイイ、サッカーっていう世界を俺に教えてくれてありがとう…!」


 最後決勝点を決めたのは自分ではなかった苦味を帯びつつも。潔世一にとってもその夜の祝杯は、過去最高の美酒だった。

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