THE FIRST WAVE
稲生・紅衣・メメ・虎屋のスレ主─中央監視室─
ここには様々な瀞霊廷の場所の監視装置の映像が管理監督されている場所だ
普段はここには監視の係の者のみしかいないのだが"今日"は違う
『作戦決行初日』であるからだ
「フライドポテトかポップコーンは無いのか⁉せっかくならワガハイは欲しいぞ!」
「騒々シヰヨ ソコニ無ケレバ 無ヰ」
特にやることが無い者や戦闘に興味がある者はわざわざこちらまで訪れてふんぞり返っている
陛下はいらっしゃらないがハッシュヴァルト様や殿下、ヨルダ様やリリー様もいる
「今日は虎屋家はどういった作戦を取るといった情報(ダーテン)は無いのか?」
ハッシュヴァルト様がわざわざ俺に聞いてきたが...ヨルダ様やリリー様なら未来視できるしそっちに聞けばいいんじゃないかとも言えず答えた
「とりあえず滅却師を誘拐してそうな十二番隊を探す それでも見つからなければ妹様は虱潰しに探す 邪魔する奴はぶん殴る...そんな感じらしいです
昨日既に虎屋家単体で宣戦布告して死神達も分散して警戒態勢を維持しています」
「シンプルイズベストと言うべきなのか それとも考えなしと言うべきなのか」
ヨルダ様も苦言を呈しているが俺に言われても困る
「虎屋家側の戦力はどの程度の物なのかな?滅却師としての力は持っていないと聞いているけれど死神に対する対策は?」
殿下はいつも通り戦闘関係のことしか俺に質問してこないので割と答えやすくて助かる...失言したら殺されそうだけど
「完現術...彼らは知らず『我流滅却師』とか名乗ってますけどそれが4名 後は『第六感』といった状況把握に長けた能力を持ったものが複数...そしてギリギリ霊視できるぐらいの普通の人間ですね」
そう話しているとバンビエッタ様から横やりが飛んでくる
「はぁ!?明らかに戦力が足りなさすぎるでしょ!バルバに言われてちょっと前の戦闘記録を見たけど十二番隊に喧嘩売って逃げることが出来たのは奪って逃げてたからでしょう?死にに行くだけじゃない!」
「随分と白けた戦いになりそうだな つまらなかったら俺はさっさと帰るぜヨルダ」
ついでにモヒカン様も横やりを入れてきて槍まみれの俺を差し置いて現場に動きがあった
─十二番隊隊舎カメラ─
「こちら十二番隊!敵襲です!」
「監視用の虫が潰されたと思ったらすぐに来やがったか」
映像にはよぼよぼの爺さんが一人青い光を携えた杖を持って佇んでいた
少しの間十二番隊の隊士との睨み合いが続いたが、その沈黙を涅マユリが入室し破った
「これはこれは...初代我流滅却師だネ 九十年ほど振りと言ったところだネ」
「ここに『超自分勝手でスゲェ腕前の滅却師』の妹を閉じ込めてはおらんか?」
爺さんが問うと涅マユリは不可解そうにしつつ質問に答えた
「質問をするときは内容を明確にしてするべきだヨ 答えるのなら『今現在生きているサンプルは男のみ』だろうネ」
「そうか」
問答が終わり静寂が訪れたがそれは直ぐに隊士の苦痛にもがく声によって霧散した
「『幻覚と幻痛による攪乱と自傷の誘発』...厄介な能力だネ まぁ麻酔を打てば問題はないのだが...麻酔を打った状態で相手をするには君は面倒極まりないヨ
その能力に名前はないのかネ?サンプルにした際に記述してあげても構わないヨ」
「儂が現世で生きて戦ったのは虚のみ 人の言葉を解さぬ虚に対して使うモノにわざわざ名等つけておらん」
─中央監視室─
「単身で潜入する際の参考になるかもしれないね」
「そもそも単身で潜入するような状況になるな カワキ」
殿下の言葉にハッシュヴァルト様がツッコミを入れたのを横目に見つつ装置を操作する
「遮魂膜付近は...これだな ぞろぞろと入って来てるな」
「そういえば遮魂膜をどうやって通っているのでしょう?」
切り替わる映像を見ていたリリー様が質問を投げかけてきた
「今現在 現世で亡くなった虎屋家と志島家分家は流魂街の外れに拠点を作り独自の生活圏を築いているため情報が少ないのですが 死神の資料を漁った結果恐らく二代目我流滅却師の能力によるものかと」
「どういった能力なのか...場合によっては見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)にも影響が出かねないが」
ヨルダ様の疑問ももっともであるが恐らくその危険は無いだろう
「二代目の能力は『無機物に犬のような人格を与え 犬のように動くことを可能にする』といった能力で長年かけて遮魂膜の一部を飼いならして今遮魂膜を散歩させている可能性が高いです」
そのおかげで人一人が通れるほどの小さな穴を開けて出入りを可能にしているらしい
「そうか...そうか?」
「遮魂膜を使った兵器か...こちらの監視しているところまで散歩しに来てくれないかな」
ヨルダ様は納得いったようないかないような微妙な顔して、殿下は目を輝かせ...てるのか?いつも通り無表情なまま映像を見ていた
─十一番隊舎 近辺─
「サラリーマン舐めてんじゃねェぞコラァ‼」
「テメェも死神舐めてんじゃねぇぞコラァ‼」
若干小太りのスーツを着たオッサンが十一番隊の隊士に素手での戦いを決行していた
その周りにはランドセルを背負った子供やエコバックを片手にした妙齢の女性までいる
「お父さんも頑張ってるし私も!これでもお母さん昔ソフトボール部だったから!」
アンダースローで先ほどの隊士...ではなく屋根に潜み縛道を準備していた十三番隊の隊士にランドセルから取り出した黒色のカラーボールを投げつけた
「迂闊な人ね 私にはお見通しです!すみませ~ん四代目~!」
妙齢の女性の視線の先には高齢といっても60代程度の女性が高所に待機しており、銛でコンと小気味の良い音を出して床を叩くとカラーボールによって十三番隊の隊士に付着した墨のようなものから蛸の触手が生え斬魄刀を捻じり取り更には口を塞いでしまった
そしてその斬魄刀をエコバックに入れて今度は十一番隊の隊士へカラーボールを...そんな状況が続いていた
─中央監視室─
「怖ヰ物知ラズダネ 幾ラ程度ノ低イ死神デモ単独ナラ勝チ目ノ無ヰ相手ダ」
エス・ノト様が眉間に皺を寄せつつ苦言を呈し
「なぁおい 十二番隊にチャンネル戻してくれよ 弱い奴同士の戦いを見てもつまらねぇよ」
モヒカン様が更に重ねて装置のチャンネルの主導権を握ろうとする始末である
「恐らく強い隊士に当たらないのは先ほどから道を決めている妙齢の女性による第六感』による物だろう 先ほどから急行しようとしている席官等に遭遇しないのは彼女によるぼんやりした指示によって得られた結果だ」
「未来視...というにはあまりに指示を行っている人物はフワフワした言動をしていますし 少なくとも未来視ではなさそうですね」
ヨルダ様とリリー様が一度画面から目を離しスナック菓子を片手に考察を述べた
戦闘が始まってから数刻し日が暮れ始めた頃に一斉に虎屋家の軍勢は帰りだしていく
席官達は蛸の足に縛られている味方の介護と幾ら走っても追いつけず霊圧を辿ろうにもかなり小さな反応で追うことが出来ずじまいだった
「初日は恐らくこれで終わりですね」
エコバックやランドセルに斬魄刀を詰めて仲良く帰る家族を眺めつつ皆様方に終わりを告げた
「ワガハイとしてはもっと派手な戦いが良かったのだが‼」
「『第六感』か後天的に得る方法はないのかな...」
マスキュリン様が喧しい声で感想を述べ、殿下は手を顎に当てて呟いていた
死神達がどう動くのか...今度は隊首会でも覗いて記録取らないといけないなと軽食などのゴミを片付けつつ考えていた