Struggles of the snakes

Struggles of the snakes

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青年は「必要の部屋」の扉の前を行ったり来たりしていた。―彼らがさっきまで居た場所が必要だ―

「悪い予感が外れるってのは、いいね」

そして扉をくぐるとそこには広い広い部屋に山脈のように連なった、恐らくはホグワーツ開校以来の歴代の生徒たちの「やましいもの」が保管されていた。

「何もかも焼けちゃってるような気がしたんだけど………、あ。あった」

火事どころか煤汚れのひとつも見当たらないガラクタの山の中を進む青年は、古そうなティアラが何らかの牙で破壊されて床に転がっているのを発見した。

「バジリスクの牙かこれ…………ああ、『スリザリンの怪物』。なるほどね。まあ取り越し苦労ならそれでいいか。燃えてないに越したことないし。それに、あの子達も良い方に決心してくれたって事だもんね?」

そして青年はクルリと振り返って「必要の部屋」を後にした。

「ステューピファイ!!くっそ!ステューピファイ!」

6年生のコリン・クリービーは城の1階廊下でよりにもよってベラトリックス・レストレンジと鉢合わせし、為す術も無く遊ばれていた。

「おやおや僕ちゃん、けっこうやるじゃないか。えぇ?」

ベラトリックスはハッフルパフ生の死体を跨ぎ、倒れている闇祓いの男性を踏み越え前進しながら、コリンが放つ呪文を心底楽しそうに防ぐ。

「杖の振り方が正確だね!ご両親は誇りに思うだろうよ!」

そしてとうとうコリンは両親と弟の顔を思い起こす。

「「「クルーシオ!」」」

呪文を唱えようとしたベラトリックスを背後から複数の「磔の呪い」が襲った。

「クリービー、お前17歳未満だろう、何やってる!」

スリザリンの7年生、セオドール・ノットが叫ぶ。

「こんなのに勝てるわけあるかバカ!さっさと逃げるぞ!」

同じく7年生のミリセント・ブルストロードが、背後からの不意打ちによって床でのたうち回っているベラトリックスに「磔」を追加してからコリンの手を引いてその場を急いで離れようとする。

「そこら中に殺されかけてる子がいくらでもいるんだから、助けなきゃ」

そう言った7年生のダフネ・グリーングラスも友人2人と共にコリンを急かして走る。ベラトリックスが復活する前に一刻も早くできるだけ遠くへ、味方の多い方へ移動する必要があった。

「クソ、ルーピン!目を閉じるなルーピン!」「血が止まらねえ、何だこの傷」

フレッドとジョージは助けられなかったレイブンクローの7年生の遺体の傍で血の海に横たわるリーマス・ルーピンをなんとか救命しようとしているが、全身の重篤な切り傷からはどんどん血が流れ続けていた。

「とりあえずコレどうにか喰ってくれルーピン、しばらく血がすげー増えるから」

ジョージが口に押し込んだ真っ赤なガムらしき何かをルーピンは弱々しく噛む。それはどうやら彼ら双子の「イタズラ専門店」の開発中の新商品らしい。

「くそ『エピスキー』もハナハッカも効かねえ、『ハラキリガム』じゃ時間稼ぎにしかならねえぞ」

フレッドが知る限りの治療法を試すが、ルーピンは尚も血を流し続けている。向こうではパーシーは「服従」させられているらしい魔法省の同僚を「失神」させ、その横で死喰い人オーガスタス・ルックウッドと戦う中年の魔女の援護に加わっていく。

「フレッド、ジョージ!ソイツを死なせたくないなら退け!!」

双子が何を言う隙も無く2人の間に割り込んだのはスリザリンの7年生、ブレーズ・ザビニだった。

「「てめえ何しに来た!」」

押しのけられたフレッドとジョージはザビニに左右から杖を向けるが、ザビニは冷静だった。

「頼む、頼む。……………信じてくれ」

双子は少し迷ってから、杖を下ろす。

「ありがとう」と短く言ったザビニは杖を取り出し、ルーピンの傷口に向ける。

「ヴァルネラ・サネントゥール…………………よし、よし………」

止血されたのを見たフレッドとジョージはそこでやっとザビニを信用し「その呪文のやり方教えてくれ」と言って共にルーピンの全身に刻まれた傷を止血していく。

「とりあえず死にはしないが、お前はリタイアだリーマス・ルーピン。後は任せろ」

止血しきったザビニにそう告げられ、ルーピンは頷いた。

一方5階の廊下で死喰い人3人と戦っていたハッフルパフの7年生ハンナ・アボットと2人の友人は、杖を弾き飛ばされた1人を2人でかばおうとしていたが、ジリジリと追い詰められていた。

「アバダ―」

「デパルソ!!!」

杖を振り上げた死喰い人の横っ面に呪文が直撃し、迫撃砲の如く射出されたその死喰い人は廊下の端まで吹っ飛んでいき、そして壁に激突したらしい轟音が響いた。

ハンナと友人達も、死喰い人も呪文が飛んできた方を見る。そこに居たのは7年生達が噂でだけよく知っている人物だった。姿を見るのは初めてなのにも関わらず、それが誰なのかハンナにはすぐわかった―聞いていた通りの服装だったから。

「ネビルのおばあちゃん…………」

「あたしがやるから下がってな」

ピンと背筋が伸びたオーガスタ・ロングボトムは、死喰い人ふたりを相手取っているにも関わらず至って落ち着いていた。

「クルーシ―」

「オスコーシ!」

呪詛を放とうとした死喰い人よりオーガスタのほうが早かった。口を消されたその死喰い人はモゴモゴと呻いているが、自分の顔に杖を向けて口を復活させようとしたところに横からハンナの友人の「失神呪文」を食らって倒れる。

「アバダ―」

そのハンナの友人に杖を向けようとしたもうひとりの死喰い人をまたもオーガスタの呪詛が襲った。

「エバネスコ!」

杖を「消失」させられた死喰い人が慌てたその一瞬を、オーガスタ・ロングボトムは見逃さない。

「ブラキアビンド!」

オーガスタの呪文で両腕が体に張り付いたその死喰い人を、ハンナが床に引き倒す。そしてそこにさらにオーガスタが容赦なく追い打ちをかける。

「アグアメンティ!」

ハッフルパフの女子3人に抑え込まれながら起き上がろうともがく死喰い人の口にオーガスタが杖を突っ込み、ものすごい量の水を流し込む。

「アグアメンティ!アグアメンティ!アグアメンティ!!!!!」

「おばあちゃんもうそのへんで……………」

死喰い人が動かなくなってもやめないオーガスタを、ハンナは恐る恐る止めた。

城のすぐそばの屋外の戦いの只中に居るニンファドーラ・トンクスは頭上を掠めた巨人の棍棒を辛くも躱し、グリフィンドール生と戦っていた死喰い人に横から呪詛を叩き込んだ。しかしそこに「磔の呪文」を浴びる。

「やあニンファドーラ。元気?クルーシオ!」

虫の居所が悪いベラトリックス・レストレンジはトンクスが地面で縮こまって動かなくなっても尚、磔の呪文を初めとした様々な呪詛を執拗に浴びせる。

「クルーシオ!!息子が生まれたらしいじゃないかあんた。おめでとさん!クルーシオ!!セクタムセンプラ!クルーシオ!ミューカス・エノージアム!フラグレート!クルーシオ!!!ステューピファイ!クルーシオ!!」

しかし邪悪な笑みに満ちたベラトリックスは「アバダ・ケダブラ」だけは唱えない。

「ステューピファイ!!…………生きてますかトンクス先輩!!」

後ろから飛んできた失神呪文を、さっきの今で警戒していたベラトリックスは軽々と防ぐ。そしてそれを放った若い闇祓いの魔女と向かい合う。

「……………ベラトリックス・レストレンジ」

若い闇祓いの魔女は一瞬怯むが、次々と呪詛を放ちベラトリックスに立ち向かう。

「あんた見たことある気がするね?どっかで金持ち相手に娼婦でもやってたかい?」

飛んでくる呪文を尽く防ぎながら、ベラトリックスは若い魔女を嘲笑う。

「その服どこでもらったんだい?嬢ちゃんが闇祓いなわけないよねぇ?こんな鈍臭い闇祓いが居るわけないもんね?アバダ―」

ベラトリックスがその若い闇祓いの魔女を片付けようとした瞬間、目の前が炎上して不死鳥が現れる。

「なんだ、ダンブルドアのペットの鳥か?なんで今更こ」

不死鳥はベラトリックスの肩に鉤爪を食い込ませてすぐ炎に包まれ、ベラトリックスもろとも「姿くらまし」する。

「なんだおま」

ベラトリックスが現在地を把握するより早く不死鳥はベラトリックスを放し、遥か下の地上へと戻っていく。そこに追い打ちをかけようとしたベラトリックスは杖を不死鳥に持っていかれた事を察し、その不愉快な鳥を目で追った事で、やっと気づいた。

自分が雲より高い遥か上空に居る事に。

「アクシオ!!!!!」

渾身の集中力で片手を振るい、不死鳥から杖を「呼び寄せ」て取り戻したベラトリックスはしかし、その一瞬で不死鳥に追撃する時間を失った。鳥を追っかけている暇があるなら、地上に叩きつけられる前にさっさと自分の身を守らなければいけない。

「先輩、やだ!!!トンクス先輩!息してください先輩!!!」

若い魔女は泣きながらも雇い主の青年が持たせてくれた赤い巾着袋を取り出し、その中からひとつの小瓶を取り出し開栓する。

「お願い………」

その中身全てをトンクスの口の中に流し込んだ若い魔女の元に、雲の上から不死鳥が戻ってくる。

「お願いします!トンクス先輩をマダム・ポンフリーのところに!!」

不死鳥はかろうじて脈拍と弱々しい呼吸だけは戻ったトンクスを掴んで飛び上がり、また炎に包まれてトンクス諸共「姿くらまし」した。

若い闇祓いの魔女はなおも流れ続ける涙を袖で拭い、立ち上がった。戦いはまだ続いており、そこら中を呪詛が飛び交い四方八方から轟音が響いていた。




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