Stray RABBIT (sideミヤコ)

Stray RABBIT (sideミヤコ)


アビドス砂祭り事件…アポピス及びアポピスの生み出した『薬』の中毒となった生徒たちとの最終決戦。

その決戦において、私、月雪ミヤコは当初アビドス側としてFOX小隊のユキノ先輩と戦って敗北した。

そして、対策委員会の監禁場所を伝え、アポピスが顕現した際に負傷して意識を失った。

その後目を覚ました時、アポピスは既に討伐されて、私はベッドの上だった。

幸いにも負傷は大したものではなく、私はすぐに回復した。

しかし、元凶であったアポピスが消えても問題はたくさん残っていた。

一番の問題は中毒者たちの処遇であった。

これに関しては、様々な意見が上がった。

そして2ヶ月にわたる議論の末に下された裁定は

上層部など一部を除き、『執行猶予』とするものだった。

『薬』を摂取せず、アビドスに協力していた私は、先輩達の工作によって中毒者ということになっていた。

私が『薬』を摂取しなかった事を知っているのはFOX小隊とごく一部の人達だけである。

他の人よりも意識が回復するのが早かった(ということになっている)私は日夜、取り調べを受けた。

そんな中で、久々にRABBIT小隊のみんなと偶然にも再会した。

そしてみんなは、中毒中を含めた一部の記憶がないとの事だった。

目を覚ました元中毒者の中には、後遺症が残った生徒も多数いたということは聞いていた。

しかし、RABBIT小隊のみんなもそうだったとは知らなかった。

記憶がないという話を聞いた時、私はどう答えればいいかわからず

「そう…ですか…」

それだけ言ってその場は解散となった。

正直に言えば、安心した。もうあんな辛い目に合わなくて済む。

それに、元凶であったアポピスはもういないし、忘れたのならきっとやり直すことができるはずだ。

しかし、ホッとしているはずなのに…胸の奥からこみ上げてくるこのモヤモヤは一体なんだろう。


みんなの記憶がないと知った日の夜…

『ケーキ……ケーキ……ケーキ!』

『くひひ…』

『アッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ』

『ダァン!』

「!?」

ガバッ

「…あの日の夢…ですか…」

私はぴょんこが撃たれたあの日の悪夢を見て、真夜中に目を覚ました。

あの悪夢を見るのは、アビドスから戻って以来だった。

理由はなんとなくわかっている。みんなと久しぶりに会ったからだ。

思えば2か月以上も会っていなかったのだ。印象に残っても仕方ない。

おまけに記憶がないと言われたことで、かえって意識してしまったのだろう。

ぴょんこに関しては、生きていることを先輩たちから聞いた。

今はシロコさんのところにいるそうだ。

ぴょんこが生きていてくれたこと…シロコさんが約束を守ってくれたこと…

それがとても嬉しかったことを覚えている。

そうだ、嬉しかった時のことを考えよう。そうすれば次はぐっすりと眠れるはずだ。

そうして私は再び眠りについた。きっと今回だけだろうと…そう考えて…

しかしこの日から…私はあの辛い日々の夢をまた見るようになった。

本来なら誰かに相談するべきなのだろうが、私の秘密に関する事でもあったため、

誰にも相談することも出来ず、ただ胸の奥にしまい続けた。

…悪夢を見るたびに、自分達の罪の重さを改めて自覚するようになった。

取り調べの際、中毒者はみんな狂った自分だけが映った映像を見せられる。

それはつまり、自分以外を虐げている映像は見せられないということだ。

ただでさえ何も覚えていない小隊のみんなに、これ以上、罪を背負わせるわけにはいかなかった。

耐えることなら砂漠の日々で慣れている。

小隊の誰にも言わずに私だけで罪を背負う、それが私への罰であり、隊長としての私が負うべき責任だ。

そう思って、悪夢を甘んじて受け入れていた。

……胸の中で燻り続けているものを無視して。


その後、1か月以上の取り調べも終わり、私たちは、子ウサギ公園に戻ってきた。

もちろん、『観察』も兼ねた定期的な通院は必要だが、

ホームグラウンドに戻ってこれたことで、他の小隊のみんなは安堵の表情を浮かべていた。

一方の私は…安心できずにいた。

本来なら、サキ達の反応の方が正しいはずだった。

しかし、私にとってこの公園は、ぴょんこが撃たれた場所…

最近見続ける悪夢の影響もあったため素直に喜ぶことが出来なかった。

いい思い出もたくさんあったはずなのに…痛みが…恐怖が…怒りが塗りつぶして、何も思い出せなくなっていた。

「ねぇミヤコ?どうかしたの?」

モエが私に話しかけてきた。

「!?…い、いえ!何でもありません!」

後ろから話しかけられただけで取り乱してしまった。

どうやら思っていた以上に神経質になっていたらしい。

「も、もしかして……ミヤコちゃん…泥棒を警戒してるんじゃないかな…」

「よし、それじゃあ盗まれた物が無いかの確認も兼ねて、荷物を整理しよう。ミヤコもそれでいいよな?」

ミユとサキの会話で荷物の整理をすることになった。

「え、えぇ。構いません。それではRABBIT小隊、片付け作戦を開始します」

そうして、RABBIT小隊の復帰後、初めての作戦が始まった。

数十分の内に確認できたものとして、

公園の映像記録や日誌の一部が盗まれていたが、おそらく犯人は先輩達だろう。

あの映像記録や日誌は私が『薬』を摂取していない証拠になりえる。

裏工作の一つとして盗んでいった可能性は高い。

他にも、アビドスに移る際に持ち出した弾薬などの消耗品、素面だった私が食べるための食料、

単純に古くなっていた物もあった。

そんな中で

「ひゃああああああ!?」

「どうかしたのかミユ!?」

「あ…あ、あっ…あれ…」

「何か見つかっ…あれって…」

「!?」


ミユが血の跡を発見した。


あの血は…あれは…血…血…

『アッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ』

ぴょんこの血…あの時の血…ミユが撃ってみんなが笑った血…

『くひひひひひひひひひひひひひひ…』

みんなが撃って…笑って…痛めつけて…(撃っておいて…)

『当たった!……ケーキ!……ケーキ!』

やめて…やめて…やめて…(その態度はやめて…)

「………!?…………たのか!?」

撃たないで…殴らないで…笑わないで…(人の気も知らないで…)

ゆるせない…ゆるせない…ゆるせない…

「おい、ミヤコ!?」

!!!

「触らないでください!!!」

……あっ…今…私…

「!?……ど、どうしたのミヤコちゃん……」

「びっくりしたぁ。急に大声を出すなんてなんというかミヤコらしくないじゃん」

…しまった。思わず大声を張り上げてしまった。

「あっ、いえ…すみません…」

私は謝罪して、そのまま片づけに戻った。

その後、誰一人喋ることなく、片付け作戦は終了した。

そして…胸の奥に燻っていた感情が『怒り』であることを私は改めて理解した。



それから私たちは以前と同じように公園での野宿生活を開始した。

血の跡もみんなで掃除して、前のように戻れる。そう思っていた。しかし…

『アッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!』

『くひひ…クヒャヒャヒャヒャヒャ!』

『ケーキ…ケーキ…ケーキャハハハハハハ!』

ガバッ

「ハァ…ハァ……また……」

私は、悪夢をほぼ毎日見るようになった。

砂漠にいた頃でも悪夢を見る頻度はここまで多くはなかった。

休めるときにしっかりと休む必要があるというのに、寝ても悪夢ばかりで…

次第に私は眠れなくなっていった。

それでも悪夢は…眠れなくなっても…私を蝕んでいった。

「ミヤコ大丈夫か?ペンが震えているぞ」

……たまに手が震えるようになった。

「ちょっとミヤコ大丈夫?ふらついてるけど…」

……めまいが増えた。

「だ、大丈夫?ミヤコちゃん……一口しか食べてないけど……」

……食べ物をあまり受け付けなくなっていた。

そして何より……

「……ハァ」

……些細なことでイライラするようになった。

私はテントの中で、昼間の記録を見ていた。

全員の体力を測定したが、『薬』を飲む前より落ちていた。

基礎体力を伸ばすことを中心とした訓練をしても、以前のようにならないことに私は腹が立っていた。

腹立たしい…腹立たしい…腹立たしい!

ダン!

腹立ち紛れに、私はテーブルを思いっきり叩きつけた。

大きな音がしたが、幸いなことにみんなには聞こえなかったらしく、誰も来なかった。

「…いけません。一旦、薬を飲みましょう」

流石に活動に支障が出ると考えた私は、悪夢の内容は伏せて、

不眠症であることとそれによってイライラすることが増えたことを医者に相談した。

相談したところ睡眠薬と精神安定剤を処方してもらい、それを服用して何とか精神の安定を保っていた。

その結果…元々取り調べのために、多かった病院に行く頻度も増えた。

今回も精神安定剤を飲もうとしたが…

「……チッ」

薬が切れていた。明日病院に取りにいかないと…

薬がないとイライラする…むしゃくしゃする…腹が立つ…これではまるで…

「……」

私はその考えを振り払い、テントの外に出て、遠くにいた小隊のみんなを見た。

焚火を囲んでいるようで、何か話をしていた。

笑いあっていて…ホッと(イラっと)した…

穏やかな様子で…嬉し(恨めし)かった…

幸せそうで…私は安堵(憤怒)した…

みんなの様子を確認した私はテントの中に戻った。

『アッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!』

…最近は起きていても…悪夢の幻聴まで聞こえてくるようになった。

辛い現実から逃げるように…(辛い悪夢から逃げられないのに…)

早め薬を飲んで寝ようとしたが…

「こっちもですか…」

睡眠薬も切れていた。


翌日

案の定、睡眠薬がなくて眠れなかった私は

身体をふらつかせながら、○○病院へ向かっていた。

正直に言えば、我慢の限界だった…

夢のみんなは、怒ったら痛めつけてくる…

現実のみんなは、痛めつけないけど怒れない…

怒りを収めるしかないけど…その事実自体に怒りが沸いてくる…

正直にみんなに言いたいのに…みんなに言えなくて…

嬉しいのも…怒りが沸いてくるのも本当で…

色んな感情がごちゃ混ぜになって…

気が狂いそうなくらいに…私は追い詰められていた…

そのようなことを考えていると、いつの間にか病院についていた。

担当医の人は留守だったらしく、薬だけを貰って帰ることになった。

そして丁度、病院から出た時に、

「ん、ミヤコ、久しぶり」

シロコさんに出会った。

「シロコ…さん…」

よく見たら、シロコさんの手には動物用のキャリーケースが握られていた。もしかして…

「ぴょんこ…ですか?」

「…うん」

ぴょんこ…ぴょんこ、ぴょんこ!

ぴょんこに久々に会える!

私はとても嬉しかった。久しぶりに心の底から笑うことができた。

「…ごめん。こっちも忙しくて、会う時間が取れなかった」

シロコさんが少し悲しそうな顔をしていた。当然だろう。今の彼女はアビドスの生徒会長だ。

むしろ、私に会うために時間を作ってくれたことに感謝したい。

「い、いえ…こちらも会いに行けずにすみません。わざわざ来ていただいて、本当にありがとうございます」

私はシロコさんからキャリーケースを受け取った。

「そういえば…どうして私が○○病院にいるってわかったんですか?」

私は気になっていたことをシロコさんに尋ねた。

「ん、実はミヤコのところに来る前に子ウサギ公園に寄って…」

子ウサギ…公園…

「そこでミヤコのいる場所を、小隊のみんなから教えてもらった」

小隊の…みんな…

「そう……だったんですね……」

複雑な気持ちを抱きつつ…私はキャリーケースを開けた。


そこにいたのは、包帯を巻き、何かに怯えていたぴょんこだった。


「…包帯はあと一か月は必要だって、獣医の人は言ってた」

…そちらの方は別にいい。生きているだけで嬉しいからだ。でも…

…ぴょんこが怯えていることの方が私は気になっていた。

「なんで…怯えてるんですか…」

そのことをシロコさんに尋ねた…

「……」

シロコさんは何も言わなかった…

まさか…

「小隊のみんな…ですか…」

私の問いに対して

「…でも、みんな落ち着いてたし、多分一緒にいたら慣れると思う」

シロコさんはそう答えた。

間違いない…ぴょんこは…みんなに怯えてたんだ…

…………待って…

「一…緒…?」

一緒…ってことは…置いていくんですか…?ぴょんこを…?

「…ごめん、時間ギリギリだからアビドスに帰るね。また会ったら、ぴょんこの様子を聞かせて。じゃあね」

……………待って…

置いていかないで…

ぴょんこを…置いていかないで…

私を…置いていかないで…

お願いだから…私を…


あの砂漠に連れて行って…


何も言うことが出来ず…

私は、ただ悲しそうな顔をして去っていく、シロコさんを眺めていた…

そして私は…(帰りたくない)…帰路へとついていた…

「ぴょんこを…みんな…一緒…帰る…怯えて…包帯…血…撃たれて…

忘れて…ぴょんこ…覚えて…ゆるして…ゆるせない…」

そのような言葉をつぶやきながら…私は公園に着いた…

辺りは既に…夜になっていた…

「おい、ミヤコ!聞いてるのか!少しは反応しろ!」

『おい!少しは反応しろよ!』

「反…応…」ビクッ

また…悪夢の…幻聴…

「ところでミヤコ…キャリーケースの中身の…」

「!?」

ガタガタッ

嫌だ…ぴょんこ…気づかれた…ぴょんこ…怖がって…

…ダメ…ダメ!ダメ!!ダメ!!!

「ぴょんこって…」


ドドド!


……………あっ

私……今……何を……

…目の前には


銃で撃たれて、気絶しているサキがいた。


「あ、あぁ、あ…!?」

嘘、嘘嘘嘘!?そんなつもりじゃ…サキを撃つつもりじゃ!?

なんで…なんでなんでなんで!?

なんで…現実のサキが…

なんで…悪夢のサキじゃなくて…

なんで…私…


喜んでいるの?


『アッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!』

何も知らないサキを撃って…

『クヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!』

それで…こんな気持ちになるなんて…

『キャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!』

これじゃ…まるで…

「…あっ」

不意に……腑に落ちた。

そっか…私…

「あ…は…」


あの日から壊(イカ)れてたんだ


「あっはは…アッハハハ」

自然と笑い声を発していた。

どうして忘れてたんだろう…私は砂漠に行ったあの日から、

悪夢のみんなと同じ、狂った側だったんだ。

『ミヤコちゃんさ~、さっき自分と下のみんなは違うように言ってたけど…同じだよ、同じ獣』

ホシノさんから言われたことを思い出した。

そうだった…私は『最低』な獣だった…

加害者なのに…みんなみたいにゆるされたから…

ゆるされたと思い込んだ…馬鹿な獣…いや…獣以下だ…

そんな事を忘れて…みんなみたいにやり直せるなんて…

もう一度…規律ある正義を目指せるなんて…

そんなありえないことを考えていた自分がおかしくて…

腹の底から笑い声が止まらなかった…

「ヒヒッ…アッハハ…」

笑いすぎて涙まで出てきた…

当たり前のことだった…

狂った私が幸せそうなみんなに怒りを覚えるのは当然だった…

私がこんなに苦しんでいるのに…みんなが幸せそうにしているのがゆるせなかった…

そんなものは絶対に…正義(SRT)じゃなかった…

「もう…ここには…いられない…ヒヒッ…」

この公園は正義(SRT)を目指すみんなの居場所だ…

正義を語る資格も…目指す資格もない…

狂った私に…ここにいる資格はない…

私は…通信機とスマートフォン…

銃以外のSRTの武装を全て置いて…公園から出て行った…

「…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい」

涙を流しながら…謝罪を繰り返した…

何に謝ってるのか…よくわからなかった…

私の都合でキャリーケースに入れたまま、連れて行ってるぴょんこに対してなのか…

銃で撃ってそのまま放置したサキに対してなのか…

銃だけを持ち出したことなのか…

隊長としての責任を放棄して去っていくRABBIT小隊に対してなのか…

自分が何もわからないまま…私は…夜の闇に消えていった…


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SSまとめ

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