Stray RABBIT (sideサキ)

Stray RABBIT (sideサキ)


アビドス砂祭り事件…アポピス及びアポピスの生み出した『薬』の中毒となった生徒たちとの最終決戦。

その決戦において、当時の私たちは愚かにも『薬』の中毒者となってFOXの先輩と戦って敗北したらしい。

らしいというのは当時の記憶が一切ないからだ。

アポピス消滅時、中毒になっていた生徒は皆、一斉に意識を失ったそうなのだ。

そして意識が回復した時には、中毒症状のほとんどが消えていたらしい。

残っていても軽度なもので、そのほとんども回復したという。

おそらく、元凶であったアポピスがいなくなったことによるものだろう。

だが、中毒症状が消えたとはいえ問題はたくさん残っていた。

一番の問題は後遺症である。

中毒症状の代わりと言わんばかりに、後遺症に苦しむ生徒が多数存在していた。

私もそのうちの一人で、中毒中とその前後、他にもいくつかの記憶が全く残っていなかったのだ。

とはいえ、日常生活に支障はないのは不幸中の幸いだった。

モエもミユも同じ後遺症だったらしく、3人で話してみてもほとんど何も思い出せなかった。

一方で、同じRABBIT小隊のミヤコは違う後遺症だったようで、私たちとは入院部屋を分けられていた。

たまたま再開した時、私たちの記憶が無いことを話したら

「そう…ですか…」

そう言って、安堵したような何か言いたげなような、そんな表情を浮かべていた。

しかし、記憶が無いとはいえ行った行為は無くならない。

私たちはリハビリ等と並行して何度も事情聴取を受けた。

事情聴取の中で私たちの意識が回復するまでに2か月以上経過していたことも

私たちアビドスにいた元中毒者は、一部を除いて『執行猶予』扱いになっているということも聞いた。

そして、その過程で狂った自分の映像も見せられた。

配慮のためか、自分しか映ってない映像が選ばれていたが、

それでも、自分のイカれた態度を見て腹が立った。

アレではSRTではなく、まるでただのチンピラじゃないか。

そう思っていても、映像として残っている以上事実なのだろう。

私はそれを受け入れていた。

その後、1か月以上の入院生活も終わり、私たちは退院し、子ウサギ公園に戻ってくることができた。

もちろん、『観察』も兼ねた定期的な通院は必要だが、

ホームグラウンドに戻ったことで私たちは安堵していた。ただ一人…

「……」

ミヤコを除いて。

ミヤコはなんとなく緊張した面持ちで、公園を見まわしていた。

「ねぇミヤコ?どうかしたの?」

緊張が伝わったのか後ろからモエがミヤコに声をかけた。

「!?…い、いえ!何でもありません!」

?後ろから声をかけたとはいえ、あんなに慌てるのだろうか?

「も、もしかして……ミヤコちゃん…泥棒を警戒してるんじゃないかな…」

ミユがミヤコの緊張の理由に対して、そう答えた。

なるほど、確かに長い間留守にしていたのだ。泥棒に入られてもおかしくない。

そうでなくても、長期間放置していた影響でダメになった物もあるだろう。

「よし、それじゃあ盗まれた物が無いかの確認も兼ねて、荷物を整理しよう。ミヤコもそれでいいよな?」

私がミヤコに尋ねると

「え、えぇ。構いません。それではRABBIT小隊、片付け作戦を開始します」

そう言ってミヤコは、荷物の整理を始めた。

数十分後…結果だけを見れば、盗まれたものはあった。

公園の映像記録と、日誌などの類がいくつか盗まれていた。

また、食べ物や弾薬などの日用品の一部が無くなってたり、古くなっていたりなど様々な変化があった。

一番目立つ変化は、公園の一部に血の跡が残っていたことだ。

それを最初に見つけたミユは、かなりの動揺を見せていた。

私たちも血の跡を見たが、明らかに普通じゃなかった。

だが、一番普通ではない反応を見せたのはミヤコだった。

「……」

呆然と立ち尽くしており、手が震えていた。

「ミヤコ!?どうかしたのか!?」

思わず私が声をかけたが反応が全くない。

「おい、ミヤコ!?」

そしてミヤコに触れた瞬間…

「触らないでください!!!」

急に大声を張り上げて、一瞬こちらを睨みつけた。

「!?……ど、どうしたのミヤコちゃん……」

「びっくりしたぁ。急に大声を出すなんてなんというかミヤコらしくないじゃん」

大声に驚いた二人がミヤコに話しかけた。

「あっ、いえ…すみません…」

そう言って、ミヤコは再び黙り込んでしまった。

…やっぱり、ミヤコの様子がおかしい。

もしかして、後遺症によるものだろうか?

それに…何かを忘れている気がする。


それから私たちは以前と同じように公園での野宿生活が始まった。

やはり体力がかなり落ちており、元通りになるには時間がかかりそうだ。

それよりも問題はミヤコだった。

血の跡も出来る限り綺麗にしたが、それでもミヤコの様子はおかしくなるばかりだった。

不眠やそれによる精神の不安定、めまい、食欲不振、震えが如実に表れるようになり、

病院に行く頻度も私たちより多かった。

その日も丁度、ミヤコは病院に行っており、私たち3人が留守をしていた頃…彼女が訪問してきた。

「ミヤコいる?」

彼女は確か…アビドスの砂狼シロコ…今のアビドスの生徒会長代理がどうしてここに?

ペット用のキャリーケースを持っているようだが…

「ミヤコは留守だぞ。要件があるなら私たちが聞くが」

私がそう言った後、

ガタッガタッ

キャリーケースが少し揺れたような気がした。

「ん、ぴょんこ、落ち着いて」

彼女はキャリーケースの蓋を少し開けて中にいる何かを落ち着けていた。

ぴょん…こ…?

「グッ!?」

名前を聞いた瞬間、一瞬頭痛がした。

他の2人もそうだったらしく、少しだが顔をゆがめていた。

ぴょんこ…ひょっとして、なくなった記憶と関係しているのだろうか。

すると、ケースの中の何かを落ち着けていた彼女が彼女が私たち3人を見まわして

「…そっか…3人が」ボソッ

そう呟いた。

「ん、ミヤコに直接返したいんだけど、ミヤコがどこに行ったか知らない?」

「み、ミヤコちゃんは……○○病院に行ってると思います……」

ミユが正直にミヤコの情報を話した。

「おい、ミユ!知ってる相手とはいえ、隊員の情報を簡単に言うな!」

「ご、ごめん……」

まったく…。

「いいよ。気にしないから」

そう砂狼シロコは言った。

いや、気にする気にしないはこっちの問題なんだが…

「場所、教えてくれてありがとう。…じゃあね」

そう言って、彼女は公園から去っていった。

「…ミヤコに何の用事だったんだ?」


その日の夜…


「…遅い」

もうすぐ日が変わりそうだというのにミヤコが帰ってこない。

本来だったらミヤコの当番だというのにじゃんけんに負けた私が駆り出されてしまった。

それにしてもミヤコは何をしているんだ!病院との往復でどうしてこんな時間になる!?

考えられるのは昼間の砂狼シロコだが、話し込むにしてもこんな夜中になるなんてありえない。

そう思っていると…

「……」ブツブツ

ミヤコが何かつぶやきながらゆっくりと公園に戻ってきた。よく見たら、砂狼シロコが持っていたキャリーケースがその手にあった。

「遅いぞRABBIT1!こんな時間まで何やってたんだ!」

私は遅れて帰ってきたミヤコを𠮟りつけた。

「……」ブツブツ

しかし声をかけてもミヤコはこちらを見向きもしなかった。

その態度に、私は腹が立った。

「おい、ミヤコ!聞いてるのか!少しは反応しろ!」

「反…応…」ビクッ

どうやら声は聞こえていたらしい。

「ったく…。もういい!戻ってきたなら私は寝るからな!」

私はヘルメットを外しながら後ろのテントの方を向いた。

そして戻る前にキャリーケースについて尋ねた。

「ところでミヤコ…キャリーケースの中身の…」

「!?」

ガタガタッ

ミヤコが震えているのかキャリーケースの中にいる何かが震えたのか、

キャリーケースが揺れたような音がした。

しかし、それを気にすることもなく私はあの名前を出した。

「ぴょんこって…」

ドドド!

『一体なんだ』そう続けようとした瞬間…後頭部に強い衝撃が走り、私はそのまま意識を失った。


「…ちゃん…サキちゃん!」

ミユに起こされて目を覚ますとテントの中だった。

「私は…確か…」

夜の見張りをして…ミヤコが戻ってきて…そこから…

「そうだミヤコ!」

思い出した。ぴょんこについて尋ねようと思ったら、頭に衝撃が来たんだった。

「ミヤコは!?」

私はモエにミヤコの様子を尋ねた。

「そ、それが……」

「?」

「ど、どこにも……いなかった……」

「…は?」

ミヤコが…いない?

詳しくミユから話を聞こうと思ったら、モエがテントに入ってきた。

「……これ」

そして、何かを投げ渡してきた。これは…

「ミヤコの通信機と…スマートフォン…」


この日からミヤコは…公園に戻ってこなくなった。



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(SSまとめ)

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