Shark&Watermelon
カワキのスレ主『……と、いうようなことがあって』
『今はホテル・ヴェーヌスブルグに滞在してるよ』
「なるほど、そんなことが……。ですが、ホテル・ヴェーヌスブルグと言えば、このリゾートきっての高級ホテル……さすがは先輩です!」
『マシュもこっちのホテルに移らない?』
『ホテルの1フロアを貸切にしてもらってるから』
「ぜひ! このマシュ・キリエライト、今夏も先輩と共に、敏腕アシスタントとして同人誌を完成させるお手伝いをさせていただきます!」
『頼りにしてるよ』
『一緒に頑張ろう』
「はい! さっそく荷物をまとめて来ますね。先輩はどうされますか?」
『エドガーさんに連絡してからビーチに行ってくる』
『陛下のことやガイドブックの件をカワキさんに伝えないと』
「わかりました。ではその間に、私はホテルを移動して、これまでの経緯をカルデアに報告しておきますね」
『ありがとう』
『行ってきます!』
◇◇◇
「ドーモ、イラッシャイ。ご注文をどうぞ」
「かき氷一つ。……その格好は?」
「日焼け対策でござる。シロップは?」
「ウイスキーで」
「アイエエ……そこになければないです。イヤホントニナイ!」
「……なら、氷だけで構わないよ。自前のボトルがあるから」
「飲酒した状態での遊泳はやめた方が良いでござるよ……」
「お代だ」
「アッハイ、毎度あり」
「……ん? ああ、カルデアのマスター。今日はビーチに来たんだね。他のエリアの様子はどうだった?」
『リゾート感満載で楽しかったです!』
『たまに変な生き物が歩いてたけど』
「ああ、妙な生き物ならビーチにも出るよ。気をつけて。……それで、私が頼んだ件の収穫は?」
『カワキさんのお父さんを見つけた』
『本を作るのに許可をもらいたくて——』
◇◇◇
「君には名乗っていなかったと思うのだけれど……私の名は陛下から聞いたのか。……事情はわかった。仲間と合流できて良かったね。それで、被写体の件だけれど……あの方が夏を楽しむためだ、了承しよう。ところで……ご本人はどこに?」
『それが……』
『自然な姿を写真に収めたいらしくて』
「自然な姿……? つまり、潜伏しているということかな? まあ、別に構わないけれど」
『ビーチエリアについて教えて欲しい』
『ライフセーバーってどんな仕事?』
「ああ、君は各エリアの顧客満足度の向上に努めなければいけないんだったね」
「ビーチエリアは名前の通り、海岸地区を指す言葉だ。陸地には砂浜や海の家があり、海では海水浴の他にマリンスポーツや釣りが楽しめる。沖合に出ると危険な魚もいるから、君には、浅瀬で遊ぶか、インストラクター付きの体験をオススメするよ」
「ここでのライフセーバーの仕事は一般的な人命救助の他に、そんな海から来る危険……敵性存在の討伐も含まれている。害獣討伐の一環ではあるけれど……これは、君に頼むには難しいかな。沖合からやって来るサメや、スイカの……」
「キャアアアアア!」
『悲鳴!? いったい何が!?』
『海から……スイカが生えてる!?』
「説明の途中だけれど、虚だ。ちょうど良い、君には雑魚の相手と避難誘導をお願いしようかな。大物の討伐は私が行おう」
『了解!』
『今助けます!』
◇◇◇
「スイカ頭の虚だ!」
「キャアアアアア!? 助けて!!」
「蔦に掴まれたら引き摺り込まれる! 逃げろ!!」
「さて。行こうか」
「……はっ! あのハルバード……ライフセーバーだ! ライフセーバーが来たぞ!」
「斬る」
「グギャアアア……ッ!」
『あっという間に……』
『スイカ頭の怪物が……くし形切りにカットされた……!』
「討伐完了」
「きゃー! 殿下カッコよかったよぉ!」
「来てあげたわよ、殿下!」
「……! ジゼル、バンビエッタ」
『殿下? って誰のこと?』
『時代劇みたいな呼び方だ』
「あれが本物のスイカだったら、もっと良かったんだけどな」
「リルトット。君たちもビーチに来ていたのか」
「ああ。セントラルでの食べ歩きにも飽きてきたところだからな。腹ごなしに泳ぎに来た」
「お……お疲れ……」
「殿下のお仕事の冷やかしも兼ねてますぅ」
「君たちも一緒だったんだね、キャンディス、ミニーニャ」
『知り合いですか?』
『この人たちは……』
「あたしたちはバンビーズ! いずれは殿下の親衛隊になるチームよ!」
「聞き流して構わない」
「で? 誰なんだよ、ソイツ。殿下の新しい舎弟か?」
「マグダレーナ様が最近雇った従業員だよ。主に現地調査や、この特異点で問題が起きた時の対処を担当している」
「いい感じの言い方してるけど、要するに雑用係ってことでしょー?」
「手広くやってんな……」
「また事業拡大を考えているんじゃないかと思うの」
「さあ? リゾート経営のことはわからないけれど……新しい従業員は丁重に扱うように。……私にとって必要な人員だ」
「なんですって……?」
「ふぅん……ボクらにはそんな風に言ってくれたことないのに。ずるいなぁ……」
「……珍しいな、殿下がそこまで言うなんて。てめえ、ほんとに何者だよ?」
『く、空気が重い……!』
『藤丸立香です! よろしくお願いします!』
「さて。私たちにはまだ仕事がある。君たちに構っている暇は……ああ、今日は随分と来場者が多い日だ」
「なんだ? 今度はなんの騒ぎ?」
「あれを見ろ! 虚の次はサメだ!」
「あいつら空飛ぶぞ! 建物の中に入らないと!」
「こっちでござる! さあ、早く!」
『今度はサメ……!?』
『そんな映画みたいなサメいるわけ……いる!?』
「いるんでござるなー、これが」
「今なんか通り過ぎなかったか?」
「気のせいだと思うの」
「ど〜〜しても! って言うなら、あたしたちが手伝ってやってもいいわよ」
「いや……バンビエッタの能力だと、かえって要救助者が増える。とは言え……沖に出て追いかけるのも面倒だな。……カルデアのマスター、そばへ。そう、もっと近く……」
「キャッ! 殿下ってば大胆!」
「えっ!? お前ら、そういう関係……!?」
『カワキさん!?』
『ちょっとくっつきすぎじゃ……』
「グオオオオオ! カップル死スベシ!」
「かかった。サメの弱点は鼻先、だったね」
「ギャアッ!!」
「これでおしまいだ」
◇◇◇
「……さて。討伐は完了した。君の仕事の方も……まあ、良いんじゃないかな」
「ビ、ビックリさせんなよな……!」
「殿下に限ってあるわけないじゃん、バンビちゃんやキャンディちゃんじゃないんだから」
「あァ!? どういう意味だそれ!」
「この前、観に行ったB級映画みたいでシュールでしたぁ」
「はあ!? ちょっと! あたし、誘われてないわよ!」
「ま、エンタメとしちゃ悪くなかったぜ。……蒼都の野郎がいたら騒ぐところだろうがな」
『星5評価お願いします!』
「…………。しばらく珍生物は出て来ないだろうから、あとは君の好きに過ごして構わないよ、カルデアのマスター」
「じゃあ、ボクらと遊ぼうよ!」
「いいわね! あたしたちが見定めてあげる!」
「安心しな。殿下の言い付けだ、悪いようにはしねえよ」
「う……まあ、アンタだけなら別に良いけどさ」
「もしかして……狙ってますぅ?」
「狙ってねえよ!」
◇◇◇
「じゃあね〜」
「俺らは明日からまた街をブラブラするから、殿下も気が向いたら来いよ」
「しっかり殿下の役に立つのよ! 藤丸!」
「お仕事頑張ってくださいねぇ」
「……じゃあな」
『満喫した……』
『ちょっと休憩』
「……ビーチのアクティビティはどうだった?」
『最高に楽しかったです!』
『遊び過ぎたくらい!』
「そうか、それは良かった。……陛下も、楽しんでくれたのなら良いのだけれど」
『……そうだと良いね』
『きっと……楽しんでると思う!』
「うん。それじゃあ、私は仕事に戻るよ。君は先にホテルへ戻っておいで。じゃあね」