scene 4

scene 4


 俺自身に貫かれ、有馬は苦悶の表情を浮かべ、浅く息をしていた。

 苦痛に耐え、顔をしかめ、目を瞑り、彼女は必死に耐えていた。

 俺は、そんな彼女をただ見下ろす。

 小柄な有馬をそのようにしていることに、なにかの背徳感のようなものすら感じる。

 接触したからだから感じる彼女の体温。

 強引に侵入した彼女のなかは、とても、あたたかく。

 まだ殆ど踏み荒らされたことのなかったそこは、とても狭く感じられた。

 傷も開かれてしまったのかもしれない。

 それどころか、俺の再度の強引な侵入に、彼女の内奥は、さらに傷つけられてしまったのかもしれない。

 ただ、その苦痛と痛みに反応する有馬の体が、俺自身を包むその感覚に。

 その刺激に。

 熱に。

 俺自身もまた、刺激される。

 汗の匂い。

 有馬が、とても小さく、声を漏らした。

「くふぁっ……」

 それは、ただの、苦痛の呻き。

 行為に伴う快楽とは無縁の、ただの呻き。

「どうだ」

 俺は声をかける。

「……どうも……こうも、ないわよ」

 有馬は、涙目でこちらを見ながらそう言う。

「そうかよ」

 その言葉と共に、俺は体重をかけ、さらに彼女の中に己自身を埋没させた。

「ーーーーーー!」

 有馬が声にならない悲鳴を上げた。

 白い喉をのけぞらせる。

 俺はそれにも構わず。

 小柄な有馬の体にのしかかり。

 体重をかけ、彼女のなかを、強引に押し開く。

 彼女の体が軋むのを感じた。

「あ、ああ、やぁっ……」

 彼女が小さく悲鳴を上げた。

 苦痛の声。

 彼女の体内が、痛みと苦しみで反応しているのを感じる。

 俺自身が、強く締め付けられる。

 滑った粘膜で、搾り上げられる。

 伝わる感触。熱。

「どうだ」

 もう一度聞く。

「………」

 有馬はただ苦痛に必死に耐え、ぎゅっ、と目を瞑っている。

 俺はそのまま、有馬に唇を合わせた。

 有馬が目を開き、こちらをうるんだ目で見る。

 舌を割り入れると、先ほどより、スムーズにそれを受け入れる。

 俺は彼女の柔らかな舌を嫌らしく弄ぶ。

 混ざる唾液。

 有馬は、彼女自身に侵入されたことへの苦痛を耐えつつ、それでも必死にこちらの行動に応じている。

 唇を離した。

「まったく……」

 あくまで強気に、どこか馬鹿にしたかのように、笑う。その口の端からは、唾液がこぼれて居るのが、痛々しくもあった。

 その強気な姿勢に、俺はまた悦ぶ。

 そして、いきなり、彼女の中で、動く。

 強引に。

「……っ」

 たちまち、彼女の顔が苦痛に満ちる。

「苦しいか」

 あえて確認する。

 有馬は答えない。

 ただ、こちらを見上げる。

 不敵に。

 笑顔で。

 うるんだ目で。

 そうじゃないとな。

 その反応に満足しつつ、俺はまた強引に侵入する。

 俺自身を彼女の奥深くに。何度も。

 彼女の体が、軋むのを感じる。

 有馬の顔がまた、歪む。

「辛いなら辛いって言って良いぞ」

「……言ってやらない」

「そうかよ」

 俺はただ、彼女を貪り、踏み荒らす行為を再開する。

「ふあ……」

 彼女がまた、悲鳴を上げる。


 有馬は、苦痛に喘ぎながらも。

 必死に耐えているのが俺にも分かった。

 有馬は、ただ、苦痛を受け入れようとしていた。

 俺の猛りを受け入れようとしていた。

 しかも、矜持を保ったままで。

 だからこそ、俺はまた夢中になる。

 そんな彼女を突き崩そうと。



 俺は。

 俺の中のその部分は。

 ただ、有馬を貪る行動に夢中になっていた。

 ただ、有馬を、犯す。

 ただ、犯す。

 彼女の状況を顧みることなく。

 彼女の苦しみを顧みることなく。

 むしろ、必死に苦痛に耐え、声をあげることすら堪えようとする彼女に興奮する。

 そもそも、まだ行為すら二回目という彼女の反応はどこまでも初々しく。

 その初々しい痛々しさ、それでいて必死に耐えて見せようとするその姿勢がなおさら俺を興奮させて。

 最悪だった。

 そして、さらに最悪だったのは。

 そのような有馬だったからこそ。

 なおさら、俺は有馬に心を奪われ。

 彼女を犯すことに、さらに、夢中になっていたことだった。

 どこまでも、彼女を征服して。

 どこまでも、彼女を苦しませて。

 それで、俺自身の価値を、感じようとしていたことだった。


 有馬の息が、荒くなっていた。

 汗の匂い。

 上気した肌。

 俺に攻め立てられ、揺れる彼女の体。

 彼女の美しい胸もまた、揺れる。

 俺はそこに目を奪われ、両手で強引につかむ。

「……ッ」

 その温かな膨らみの、弾力が両手に返ってくる。

 俺は、そのままそれを揉みしだき、その感触を楽しむ。

「何、よっ……」

 有馬の声を無視して、その膨らみを、強く絞る。

「……ふあっ」

 有馬が震えて、背中を逸らせる。彼女に包まれていた俺自身も、また、反応を感じる。

「いい眺めだ」

 あえて彼女の羞恥を煽ろうと、声をかける。

「流石に、そろそろ辛くなってきたろ」

 そう言いつつ、また、彼女に突き入れた。

 ひぅ、と有馬が声を漏らした。

 俺自身が感じる、ぬめり。

 体液で潤いつつあるそこは、ある意味彼女の苦痛を低減させていたかもしれないが、それは、より容易に踏み荒らしやすくなった、ということでもあった。

 より深く。より乱暴に。

 強引に粘膜をこすり合わせて。

 より、有馬の中の温かさを感じて。

 彼女は小さく喘いだ。

「そろそろ、限界なんじゃないのか」

「……言ってなさい」

 有馬は、その姿勢は崩さない。

 その健気さにこそ、俺は歪んだ愛おしさを感じる。

 俺は右手で、有馬の頬を撫でた。その美しい、ボブカットに髪を指でくしぐ。

「有馬は、可愛いな」

 彼女の体がびくりと震える。俺自身が、搾り上げられる。その突如の快感に、意識が一瞬持って行かれそうになる。

 意外にもその言葉だけで、有馬の体が反応していた。

 俺自身が強く締め付けられる。

「照れるのか、今更」

「……照れるわよ……いつだって、ね」

 有馬は、少しだけ寂しそうに言う。

 それは、その言葉はもっと適切なタイミングで言えと、こちらを責めているにも聞こえた。

「そうか」

 俺は、突如、強引に、今まで一番力を込めて、彼女に体を沈めた。

「ああ……あ……あああああ!」

 はじめての、強い悲鳴。

 悲痛な、叫び。

 彼女の、そのただ耐えようとする姿勢に、綻びが見えていた。

「なんだ、やっぱり辛そうじゃないか。痛いか」

「……」

 黙って、こちらを見上げる。

 俺は、激しく動き始めた。

 強引に、彼女に突き入れ、打ち付ける。

 湿った音が、響く。

「あ……あ……」

 有馬が、声を上げる。

 喉をのけぞらせ。

 涙を流しながら。

 彼女は喘ぐ。

 それは、嬌声というよりも、ただの、苦しみの声。

 綻びが、拡大していく。

「辛いだろ」

 俺は有馬に言った。

「痛いか」

 重ねて聞く。

 ただ、彼女を痛めつけながら、声をかける。

「………ッ」

 有馬は、必死に首を振る。

 どちらでもない、彼女自身はどちらでもないのだ、と必死にアピールするように。

「そうかよ」

 俺はもう一度、彼女に侵入する。

「ふあ……く……ああああああああ」

 有馬の悲鳴が続く。

 苦痛が、彼女の限界を、越えていた。

「舌、出してみろよ」

「……」

 俺に命じられて、有馬は、ゆっくりと舌を伸ばす。

 俺は、それを、舐める。

 舌と舌を、絡み合わせる。

 柔らかな、温かなな、有馬の舌を、なぶる。

 有馬を攻め立てながら、その舌を、なぶる。

 ぴちゃ、ぴちゃ、という粘質の音が、響く。

 絡み合う。

 それから俺は彼女の舌を吸い上げた。

 そして、やっと、開放する。

「こういうのも、興奮するんじゃないか」

 有馬は、荒い息のまま、頬を赤らめながら、こちらをにらみつける。

「変態……」

「そうかよ」

 俺はまた深く彼女に突き入れた。

「や……あっ……」

 また、彼女は悲鳴を上げた。

 俺は激しく彼女に突き入れ。

 その肉の軋みを味わう。

 熱を味わう。

 匂いを、味わう。

 悲鳴を、味わう。

 それは俺自身が望んでいた瞬間でもあった。

 俺は見たかったのだ。

 ただ、有馬が苦しむのを。

 俺が、有馬を苦しめるような、酷い人間であると、確認する為に。

 有馬を苦しめて、そこに快感を覚える人間であることを、確認する為に。

「う……あ……いや……」

 有馬は首を振って、涙を流す。

 その声を無視して、俺は彼女を攻め立てる。

「あ……痛……ああ……いやぁ………………」

 快感がただ高まる。

 必死に耐えてきた限界を崩され、有馬は、もはやこちらの攻めのままに、苦悶の声を漏らす。

「痛……や………う……いや………ああ…………」

 こちらが突き入れる度に。有馬は悲鳴を上げる。

 首を振る。有馬の、切りそろえられた、美しい髪が、揺れる。

 俺自身が感じる、彼女の体の反応もまた、昂ったものとなっていた。

 彼女の体もまた、悲鳴を上げていたのだ。

 俺自身に伝わるその感触に、俺は刺激される。

「あ……あ……」

 それこそが、俺が、見たいものだったのだ。

 俺は、そんな有馬の姿を見て、ちょっとした遊びを思いつく。

 俺は、動きながら、声をかける。

「……おい」

「……何……よ」

「辛いんなら、『もうやめて』って言っていいんだぞ」

「……」

 彼女をいたぶりながら、俺はさらに言葉を重ねる。

「やめてって哀願してみせろよ。辛いんだろ。痛いんだろ。だったら言ってみろよ」

 仮に言われても、やめるつもりなど、さらさらない。

 俺は、どこまで彼女を味わうつもりだった。

 ただ、彼女に拒否の言葉を吐かせて。

 拒絶の言葉を吐かせて。

 それを無視する快感を味わいたかったのだ。

 そんな罪深い人間でありたかったのだ。

 俺は、そのような罪深い人間だから。

 だから、確認する作業が必要だったのだ。

 だが、有馬は。

「……言ってやらない」

 苦痛に顔を歪めながら、それでも、そう言った。

 生意気だな。

 俺はまた彼女に打ち付けた。

 彼女は悲鳴を上げる。

 それでも、有馬は言葉を繋げる。

「……言ってやらない。絶対に言ってやらない。これは私の望んだかたちではないけれど、でも、こうなることを望んだのは私。アンタを誘ったのも私」

 俺は、もう一度彼女に突き入れる。

 湿った音。

 悲鳴。

 それでも、彼女の言葉は続く。

「言ってやらない。絶対に、アンタを……悪人には、してやらないんだから」

 そう言って、彼女は笑って。

 両手を広げると、俺の背中に手を回す。

 むしろ、俺を引き寄せるように。



 その姿に。

 何故か、俺は。

 あの、『今日あま』撮影の時の。

 あの時の有馬を、思い出す。

 手を広げて。

 笑顔で。

 そして、彼女は言ったのだ。

 

 一緒にもがいていた奴が居たんだって分かって。

 それだけで十分。

 

 そう、有馬は笑って。



 俺が。

 俺が、犯しているのは。

 あの有馬だった。

 あの日の有馬だった。

 俺が見た光を。

 俺が恋焦がれた存在を。

 俺はただ押し倒し、犯しているのだった。

 俺は、あの有馬に。

 あの日の有馬に心を奪われたからこそ。

 だからこそ、有馬をこのように押し倒して。

 このように、犯している。

 俺は、今更、それを認識する。

 そのことに快感を覚えていることを、認識する。



 俺は、気づく。

 そうか、俺は、悪人になりたくて。

 俺は、俺自身は、この行為を、本気で楽しんでいるから。

 だから、悪人になりたくて。

 ただ、有馬に。俺は悪人だと否定して貰いたくて。

 罰して貰いたくて。



 ただ、その気づきとは別に。

 俺はただ、彼女の言葉に、それはそれで何処か悦び。


「そうかよ」

 俺はそう言って、彼女を攻め立てる動きを、再開する。

「ああ……!」

 有馬の悲痛な呻き。肉の感触。己自身に伝わる快感。




 何故か、幻影が思い浮かぶ。

 俺と、有馬は、二人だけであの倉庫、撮影現場に居て。

 そして、有馬はそこで笑顔で手を広げ。

 俺は、その場で、彼女を押し倒し、そのまま犯すのだ。

 あの、ストーカーに扮した俺が、あのヒロインとしての有馬を、そのまま犯すのだ。

 美しい有馬を、そのまま、あの汚れた床に押し倒して。

 あの制服をはだけさせ。

 スカートの下の下着を剥ぎ。

 そのまま犯すのだ。

 あの、『前も後ろも真っ暗な世界』で。

 二人だけの世界で。

 俺は、有馬をそのように犯すのだ。

 酷い筋書きもあったものだ。

 俺は、そのように、有馬をただ穢していた。

 何故か今、そのようにしているような幻影に、囚われた。

 それは、同時に、とても甘美な幻影だった。

 

 そして、俺が有馬を犯しているのは、幻影ではなく、現実だった。

 俺は、幻影と、現実、そのどちらでも、ただ、有馬を犯していた。

 結局俺は、有馬に囚われ、有馬を犯していた。

 

 

 有馬に体を密着させ、ただ、動く。

「あ……あ……」

 有馬もまた。涙を流しながら。

 俺を抱きしめ。

 また、その苦痛の声は、どこか潤んでいて。

 

 快感が高まる。

 俺のどこかは、思う。

 このまま有馬の中で達すれば、それは、当然何かの可能性を彼女に与えることになる。

 もちろん、医学的に言えば、すでにリスクは犯しているのだけれども。

 それでも、そのようにすることは、間違いなくリスクを一層高めること。

 だが。

 

 俺は、むしろ、そのような可能性を与えることにすら。有馬をそのようにしてしまうことすら、快感に感じていて。

 どこまでも有馬を支配しようとして。

 だから、有馬に、望まぬ妊娠の可能性を与えることにすら、言いようのない悦びを覚えていて。

 無理矢理命を植え付けることに、悦びを感じていて。

 俺自身の穢れで、彼女をそのようにすることに、悦びを感じていて。


 ただ、俺は、気づいていた。

 いま、有馬に夢中になっている俺は。

 決して、俺の衝動的な部分、それのみではなく。

 そもそも、何処かで俺の行動を遠くから眺めていた、俺そのものもまた、有馬に夢中になっていた。

 ただ、有馬への行いに。

 そして、有馬が応じるその姿に。

 ただ、穢される彼女の姿に。

 俺が、彼女を汚す行為に。


 こんなに、光を見せてくれている、有馬を。

 

 もう、動きは止まらなかった。

 ただ、俺は彼女を責め立て。

 肉の感触を感じて。

 有馬もまた、ただ俺を受け入れようとして。

 応じようとして。

 有馬は、しっかりと、俺の背中を、抱きしめて。

 そして、俺は、出来るだけ彼女の奥底に入り込んで。

 思い切り彼女に打ち付けた。

 有馬が、大きな悲鳴をあげた。

 俺自身に伝わる彼女の反応が、彼女もまた昂りを迎えつつあることを伝えていた。

 こんなにも、俺に、酷いことをされているというのに。

 それでも、有馬は、ただ、俺を迎え入れようとしていて。

 そして、彼女の熱をただ俺は感じて。

 彼女の内奥に、俺自身がきつく締めあげられ。

 俺自身伝わる彼女の反応に、俺は持って行きようのない快感で、どうにもならなくなる。

 俺は、彼女の名前を呼んだ。

「有馬……」

 そこで、俺は、達する。

 ただ、彼女を支配する、彼女を汚す、その快感に震えながら。

 無遠慮に、彼女に、無理矢理に可能性を与える快楽を味わいながら。

 その中でも、俺は、俺自身で、彼女の体もまた、その高まりを迎えたことを感じ取っていた。

 俺の耳に、彼女の、どこか悦びと、悲しみの混じった声が聞こえていた。

 有馬が、あのあだ名呼びで、俺の名前を呼んでいた。

 あーくん、と俺を呼んでいた。

 それを聞きながら、俺は、有馬の奥深くに、ただ、俺の汚れを、放つ。

 快楽の中で、何度も、放つ。

 俺達は、同時に達していた。



(続く)


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