SS(CP注意)
読者しか引っ掛けられないタイプの叙述トリック(ネタバレ)
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CP要素が含まれ、ムゲン団を把握していないとおそらく意味が伝わらないのでご注意ください
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大歓声の響くスタジアムで、チャンピオンのマントを纏った女性とジムチャレンジ用の制服に身を包んだ男の子が対峙する。
男の子は近年頭角を表してきたホップ博士に生き写しといってもいい出で立ちをしていた。
「……そっくり、だね」
まず言葉を発したのはチャンピオンの方だった。どろりとした瞳からはまともに感情が伺えない。
「あの頃は、本当に……楽しかった」
もう戻らない昔日を追憶するように、チャンピオンはすぅと目を細める。そしてゆっくりとかぶりを振り、チャレンジャーに向き直った。
「きみならわたしを倒せるかもしれない。……このチャンピオンの座から、引きずり下ろせるかもしれない」
まるで守り続けた座には興味がないというかのように悲鳴じみた言葉を淡々と吐きながら、チャンピオンは一歩、また一歩とチャレンジャーに近付いていく。
「目……その目、だけはホップと違うんだね」
チャレンジャーの目の前で立ち止まった彼女から、いっそ寒々しいまでに優しい声が響く。
対するチャレンジャーからの答えは簡潔だった。
「パパはよく褒めてくれるよ」
ひくり、と初めてチャンピオンの口が歪に歪む。
「……そっか」
そして僅かな間を置き、一切の表情が消えた。
「……いい。もう、いい。始めよう」
チャレンジャーの答えを待つことなく、チャンピオンは踵を返して所定の位置へと戻る。
スタジアムの喧騒は収まり、相対する二人を一瞬でも見逃すまいと視線だけが注がれる。
チャンピオンはボールを取り出し、ガタガタと鳴り続けるそれを勢いよく放り投げた。
「ムゲンダイナアアアアアァァァァァ!!!!!!」
チャンピオンの叫びは高く。
それに呼応したムゲンダイナの咆哮もまた、世界を食い破らんと響く。
ガラルの頂点をかけた戦いが今、始まろうとしていた。
答え合わせ
響く大歓声に背中を押されて、胸踊る舞台へと進み出る。
向こう側から緊張気味に歩いてきた男の子の姿に、私は感慨を込めて呟いた。
「……そっくり、だね」
家から送り出したあの日から月日としてはそれほど経っていないはずなのに。
まだまだひよっこだと思っていたうちの子はジムチャレンジを通してすごく立派になったみたい。
髪型は少し違うけど、立ち姿も、凛々しい眉も。制服のせいか、その姿があの頃の大好きなホップと重なる。
何年も前、わたしにとっては始まりとなったあの頃、この場で繰り広げられた数々の最高の戦いが思い出された。
今は今の楽しさがあるけど、まだ若いライバルたちと切磋琢磨したあの時間だって最高だった!
「あの頃は、本当に……楽しかった」
……いけない、柄でもなく感傷的になってしまった。
チャンピオンとしての威厳ってやつを見せなければ。
できるだけ余裕たっぷりに見えるように、ゆっくりとあの子に近付いていく。
「きみならわたしを倒せるかもしれない。……このチャンピオンの座から、引きずり下ろせるかもしれない」
もちろん負けてやる気なんてさらさらないけれど、あえてそこで言葉を止めてみる。できるものならやってみなさい!なんて言ったらちょっと弱そうだし。
それに、気を抜けば本当に負けてしまうかもしれないそのセンスはわたしが誰より知っている。なんせイチから育てたからね!
「目……その目、だけはホップと違うんだね」
近づくごとに闘志を強める瞳。ホップがいつも好きだと言ってくれる、わたしのものと同じいろ。
バッチリ受け継がれているのは少しむず痒くもあり、すごく嬉しくもある。
「パパはよく褒めてくれるよ」
照れくさそうな返答に顔がニヤけた。
きみもパパとママが仲良しなの嬉しいってよく言ってくれるもんね!
いや、いけないいけないちょっと待って、一旦落ち着かせて……。
「……そっか」
なんとかぎゅうと表情を引き締め直す。チャンピオンたるもの、あんまりデレデレしてられないよね!
「……いい。もう、いい。始めよう」
お喋りはここまでだ。頭を戦闘モードに切り替える。
昂ぶった心を全て闘争心に変換する。
身内だからとあまり贔屓目で見ないようにはしていたけれど、今年のチャレンジャーたちは別格だったというのは皆が口を揃えて言うことだ。
あの子もまた良いライバルに、そして友人に恵まれたんだろう。
そしてそれらを下して、今彼はここに立っている。
──きっと素晴らしい勝負になる。早く、戦りたい。全力をぶつけ合いたい!
逸る気持ちを抑えて所定の位置に戻ると、ボールがガタガタと揺れる。
ムゲちゃんもはりきってるみたい!チャレンジャーがあまり強くなさそうなときは6タテ回避のために最後の一匹にしないといけないこともあるけど、今日は期待を込めて先発!それじゃ気合い入れていってみよう!せーの……。
「ムゲンダイナアアアアアァァァァァ!!!!!!」
あまりに上がったテンションに声帯が限界を迎えたけどそんなの気にならない。
とにかく、勝つ!完膚なきまでに勝って、勝利のカレーを味わおうじゃないか!
「ユウリ、やる気ありすぎだぞ!アイツ勝てるかなー?」
「ムゲンダイナも久々の強敵にノリノリだな!これはいい勝負が見られそうだ」
「あはは、これで盛り上がる観客も慣れすぎだけどね……。どっちもがんばれー!」