SS7-3?
「ふぁ、ああぁぁ」
(眠い…というか前に寝たのは何日前だろうか)
万魔殿の書類と風紀委員会の書類を上手い事擦り合わせながらヒナ委員長の休みの差し込みタイミングの調整やら
突発的なアクシデントのフォローに駆り出されてたらいつの間にか寝落ちしていた。
それが昨日だけではなく何日か続けば流石に頑丈なキヴォトス人でもまぁ限界が来るのだろうか最近では目の下に隈やらいつの間にか舟を漕いでいた何て事も増えてきた。
(とはいえヒナ委員長の休みの件も書類の山もある程度のめどもついてきたし、明日はもうチョイ寝る時間増やすか)
だから油断をしていたし周囲への警戒どころか目の前にいるあの女に気づくのにも遅れたのは仕方のない事だった。
ポスッポヨン
「グェ」「あら?」
正面衝突ではあったがクッションのあるものと無いもの、健康的な生活を送れてるものとそうではないものがぶつければ結果は当然のものだった。
軍配は前者に上がりその立ち姿は変わらず後者は敗れ天を仰ぎ見る羽目となった。
「ごめんなさい。大丈夫かしら?」
「いえ、こちらこそ前を見ておらず失礼しましたアコ行政官」
(最悪だ)
百歩譲って誰かとぶつかるのはまだいい、それでもこの女にぶつかりたくはなかった。
何せ正面からぶつかってこっちが倒れた。そして普通の人間は自分がぶつかって他人を倒したとなれば当然
「ほら、捕まってください。」
あの女に手を差し出される羽目になったし捕まって引き上げられたならば必然
「ありがとうございます。」
言いたくもない礼を言う羽目になった。
倒れた人間を立ってる人間が引き上げて立ち直らせる、極々普通のこと。
そんな普通のほほえましい出来事
ただ例外だったのは引き上げられる人間が思いのほか減量した状態であったこと
引き上げる人間が割と思い切り良く引き上げた結果
「は?」「え?」
引き上げられた人間が引き上げた人間の胸元に勢いよく飛び込んで押し倒す羽目になった。
「ぶも」「あいたたた」
(柔らかい、そして温かい。そして立派な・・・っと)
あまりの衝撃と今、目の前の巨峰の衝撃で理性が飛んでいたらしい。
「ご、ごめんなさい思ったよりも強く引きすぎましたわ」
そして、日頃自分にクーデターがどうとかいうこの女もこちらが予想外に飛んだものだからいささか理性が飛んでいたようだ
「いえ、それよりも退きます」
「えぇ、そうね」
二人とも今度は手をつかむことなく立ち上がり身だしなみを整えていた。が
「あっ行政官殿。その…」「あら?どうかしたの?というかあなた…」
「胸に自分の化粧が移って…」「この匂い…クン、健康ドリンク?」
「ん?どうかなされましたか」「それに目の下の隈…あなた最近寝れてますか?」
「は、最近は6時間ほどですが睡眠時間は取れております」「毎日6時間も寝てるのに隈ができてる?」
「いえ、今週の累計であります。」「え?今週の…今なんと?」
「?今週は累計で6時間ほど睡眠をとっております。と申しまし」「か、かかか確保ぉ」
「はっ、ちょ…何を…」「委員長ぉぉぉ」
どうやら自分は睡眠不足からなる失言をしたようだ
「それで私のところに来たの?」「はい、この女最近休んでないし。PCの使用時間を確認したらおそらくまともに寝ていませんし休ませましょう。」
「ちょ、ちょっと待ってください。私は大丈夫ですか」「休んでない人間の大丈夫は信用なりません。それで委員長。例の保養施設に行かせるのはどうでしょうか」
「ええそうね、最近教育も落ち着いてきたそうだしついでに見てきてもらいましょう。それとアコあなた胸のところの化粧、後で落としてきなさい」「待ってください委員長。もう少しで」
「ダメよ。これ以上無茶を言うなら謹慎扱いで送り込むわよ」
「そんな」「行くと言っても数日よ。それに今後落ち着けば他の人も利用する事になるし一度見てきなさい。これは命令よ」
「解りました」
「暇だ」
自分の睡眠時間が原因で引き起こした保養地での休み
予想以上に豪華な昼食と他に客もいないせいか貸切状態の温泉で心身ともに充実して先程まで畳の上で爆睡までしていた。
だが元々ショートスリーパーの仕事の虫。
呼吸のために泳ぎ続けるマグロの様に、蜜を吸うため羽ばたき続けるハチドリの様に立ち止まる事は性に合わないが仕事も取り上げられたので時間を持て余していた。
そんな人間が温泉でやることと言えば結局のところ惰眠を貪るか
「散歩でもするか」
観光である
「あれ、お出掛けですか?」
「あぁ、暇なのであちこち見物でもしようかと」
「でしたら丁度良いところがありますのでご案内致しましょうか?」
「良いところ?」
「ええ、人気のない人気スポットです。」
ここまでは良かったはずだ。ごくごく普通のやり取りだったはずだ。
なのに……どうして?
「おいコラ新入りぃ、何べん言わすんだ?だからガッと突っ込んでお客の前で姿勢取ってぶっこめって言ってんだろ!あぁ?」
「ウィース」
「そんで弾ブッ込んでまだ立ってんならもっとガッと弾ぶち込んで」
「あの女将さん?」
「?女将さん?あぁ、今はそういうことで、はいどうされましたか?」
「あのこれ一体」
「うちの営業の訓練です。もっと厳しくする方が良かったですか?腹マイトとか?」
「いえ、あのそうではなく営業?」
「えぇ、飛び込み営業の訓練ですよ。……一応」
「いえあのどう見たって鉄砲だ…」
「挨拶の練習ですよ」
「挨拶!あれのどこが!」
「アポが取れない客先に突っ込む練習……とか。まぁ問題ない様ですので次にいきましょう」
「次って?」
「給仕です」
「A2地区に傷病者2意識無し、回収車1台要請」
「C1地区、配送車2台到着。提供を開始します」
「B3地区から緊急。応援要請です」
「あの……これは………」
「最近、当旅館でデリバリーを始めたのでその一巻です」
「……何をデリバリーしてるんです?」
「料理ですよ?」
「そうですよね、気のせいですよ」
「現地で食材を調理してるだけですよ」
「……現地調達でもしてるんですか」
「現地でないと獲物がとれませんので。次へ行きましょうか」
「あの、そろそろ帰っても?」
「まぁまぁ、せっかく女将さんが視察に来られたのですからもうちょっとだけ」
帰れなかった…女将さん?
「オーラーイオーラーイ、良し流せ」
「生コンの配分ですが…あと鉄筋を……誰か次の強襲先の見取り図持ってる?」
「……旅館の教育ですよね?」
「ええ、うちでは補修何かも自前でやってますと」
「何か?」
「営業の練習用に施設を作ったり提供の際に手間取らない様ドア空けの実験にも少々」
「少々…あと強襲と聞こえたのですが」
「教習ですよホホホ」
「……帰りたい」
「では次にいきましょう」
帰りたい
「来週来る客だが身元のデータの最終更新時期がおかしい。身元洗って、多分ここで泊まる予定の客の関係者か何かだと思うからそっちからのが速いかも」
「先日宿泊されたお客様が交換してたデータ、ロックようやく解けたから料理長に送ってます」
「諜報部?」
「フロントですよ?」
旅館のフロントがお客さんの身元を洗ったりデータを盗んだりするのだろうか?
「料理長。諜報部から送られたデータの検証とオンセン2号の改造ですが」
「先日襲撃した施設から強奪したデータと合わせれば出力の安定も」
「追加装備のプランだけど」
「とりあえず起動して調整するぞ」
「武器工廠ですか?そろそろ通報して帰っても?」
「まさかまさか、キッチンですから色々調理器具がいるだけでロボットなんてほら給仕用のこの子とかパワードスーツがあるだけですよ」
「給仕でパワードスーツ要ります?」
ガガッガガッガガ
「料理長。何か2号機動いてません?」
「あれ?安全対策で女将の顔入れただけなのに何でだろ」
ウィーガシャ
「あの女将さん何かこっちにちかづッ」
「危ない女将さんッ」
すっ飛んでくるロボットに跳ねられて吹っ飛ばされたし意識も吹っ飛ばされた。
(…女将さん?)
「ぐぇ」
目覚めの第一声が轢き殺されたカエルのようだったのは肺が圧迫されてたからかもしれないが女子力皆無だった
「あぁ、起きられましたかお客様」
(旅館の中?それに私の部屋?)
畳敷きの部屋にきれいに敷かれた布団。隅に転がる自分の荷物
(夢…だった?)
「あの私は…?」
「お疲れでしたようで景色を眺めてらしてたらいつのまにか寝てらしたので運ばせていただきました」
「そうですか。ありがとうございます。重くはありませんでしたか?」
(夢だったらしいし疲れが思ったよりもひどいせいで悪夢でも見たのだろうか)
「いえいえ、こんなこともあろうかとパワードスーツもありますし運搬用のロボットもありますので大丈夫ですよ。」
「へーそんなものがあるんですね」
「えぇ、また今度お見せしますよ。…『女将』さん」