SS
※ SS、ビビとミス・オールサンデーの会話です。
事が終わってミス・ウェンズデーこと王女ビビは部屋を出た。情事の熱を帯びた余韻が残る、発育途上の若い肉体を引きずりながら・・・
その時だった。
「・・・ミス・ウェンズデー・・・」
突然後ろから声を掛けられてビビはビクッとなる。
視線を移すとBWの副社長がそこに立っていた。
「ミス・オールサンデー・・・」
この謎めいた副社長は相変わらずの無表情で何を考えているのか読めない。
社長から全幅の信頼を寄せられ、いつも彼の傍で仕事をソツなくこなしている彼女にビビは密かに嫉妬心を抱いていた。
「あなた・・・また社長と『致した』のね」
「・・・ええ。でもあなたには関係ないわ」
感情を悟られないように淡々と話す。
これでもBWのフロンティアエージェントとして活動している身だ。
「・・・私、少し心配なのよ」
ミス・オールサンデーはそう言いながらゆっくりと歩み寄ってくる。
ビビは反射的に逃げようとしたが、疲労の溜まった体は思うように動かず僅かに後退ることしか出来なかった。
「な、なに・・・?」
尋問を受けるのではないかと恐怖心を覚えてしまうが、それはすぐ戸惑いに変わる。
副社長の、日頃は何の情緒も映じていない目に、どこか母性を含んだ心配の色が浮かんでいたからだ。
ビビは自分の気のせいではないかと錯覚したが・・・
「その・・・子供ができてしまわないか・・・ってね」
声音は意外にも温かかった。
彼女の述べた懸念よりもそちらに気が向いてしまうほどに・・・
「望まなくともできてしまう時にはできてしまう・・・子供とはそういうものよ」
彼女は念を押すように言ってくる。
しかし、ビビにはまだその可能性がどこか絵空事みたいに思えていた。
「・・・・・・そんなことあるわけないわ」
頭ではわかっていても実感として伴ったことがないのだ。
少女の答えに副社長は聞こえるか聞こえないかぐらいの溜息をつき、
「本当にそうかしら?あなたはまだ大人ではないけれど・・・肉体的には充分に『女』なのよ」
ミス・オールサンデーの声と言葉は、私的な感情を挟まない副社長としてのものではなく、一人の大人の女としてのものだった。
何故社長の側近である彼女が自分の身をここまで案じてくれるのか・・・何か裏があるに違いないと思った。反面、この無情な会社の中で久々に感じられた人間らしい温もりに安堵を覚えずにはいられない。
「・・・どうして、私の心配なんてしてくれるの?あなたには何も関係ないのに・・・それに・・・・・・」
ビビはそこで一旦口を噤む。そして・・・
「・・・私と『彼』はあくまでも社員と社長・・・そうならない運命だって決まっているから・・・・・」
そう返すと副社長は何か考え込むように目を伏せた。しかし・・・
「そうね・・・そうだったわね」
すぐさまいつもの副社長としての顔を取り戻し答えた。
「ごめんなさい。あなたのプライベートに口を挟んでしまって・・・」
そしてくるりと背を向け・・・
「でも気を付けることね・・・『できて』しまってからでは遅いのよ」
それだけを忠告として残すと優雅に去って行った。
副社長のスマートな後ろ姿を茫然と見つめ、ビビは一人暗然と思いに耽る。
(赤ちゃんなんて、できるわけがない・・・『彼』とはそうならない運命なのだから・・・)
己の運命に浸りながら、その華奢な手をそっと腹部に宛がう。
未だ『彼』の放った熱が蠢いているのを強く感じた。
※ あとがき ※
初めて二人の会話を書きました。ビビはまだ少女なので、営みについては知識でわかっていても実感が伴っていない・・・という設定です。彼女には王女として全うしたい使命もあるので、そっちが疎かになってしまったんですね。でも、副社長は行為さえすれば、運命論なんか関係なく子供ができてしまうというのはちゃんとわかっている。そのギャップを書きたくて・・・