SS
※ SSです。ペルとちょっと大きくなった娘ちゃんのお話です。
ある晴れた日の昼下がり……
ペルは『小さな姫君』のお散歩のお供をしていた。
人気のない丘に来ると休憩するため並んで腰を下ろす。
すると姫君はいつも肌身離さず連れている、ぬいぐるみの頭を優しく撫で始めた。
その様子を見たペルは前々から疑問に思っていたことを尋ねてみることにした。
「あなたはどうしてそんなにワニがお好きなのですか?」
そう、姫君が抱いて離さないのはバナナワニを模したぬいぐるみだった。
姫君は『相棒』を抱きしめながら、
「かわいいから……」
舌足らずな話し方で答える。
「でも・・・他にも可愛い動物のぬいぐるみはいっぱいあるではありませんか」
「ワニさんが、いちばんかわいい・・・」
ペルが言っても姫君は頑なだった。
「ペルは・・・ワニさんがきらいなの?」
「い、いえ・・・そういうわけではありませんが・・・」
曖昧に濁したはしたが、ペルの脳裏には苦く痛々しい記憶が刻まれていた。
元々動物としての鰐に対しても『恐ろしい』というイメージを持っていたが、それ以上に・・・・・・
「じゃあ、どうしてワニさんにひどいこというの?」
「い、いや・・・!その・・・犬や猫、鳥に比べると鰐は見た目が少し怖いではありませんか」
「ペルもおじいちゃんとおなじこというのね」
「国王様もそう言われたのですか?」
「うん。『怖いワニよりもわんちゃんやにゃんこちゃんの方がずっと可愛いぞ。おじいちゃんがぬいぐるみを買ってあげようか?』って・・・」
祖父と孫娘の遣り取りを想像してペルは微笑む。
「だけど、あたしはワニさんがいちばんかわいいとおもう。ママもそういってるわ・・・」
「え!?ビビ様も・・・!?」
突然降りかかった意外な一言にペルは反射的に声を荒げてしまう。
そのせいで姫君がビクッと小さな体を震わせたので、我に返り慌てて謝罪する。
「す、すみません・・・!ただ・・・とても意外だったので・・・」
「ママもペルとおなじこときいてきた・・・『どうしてそんなにワニさんが好きなの?』って・・・」
「『可愛いから』・・・あなたはそう答えたのですね」
「うん。するとね、ママは『ママもワニさん好きよ。ちょっと怖いところがあるけれど、力強くてかっこいいと思う』っていったの・・・」
「・・・・・・そうですか」
ペルは力なく返事をする。
長年傍で仕えてきた王女にそのような趣味があったのは知らなかった。
確かにその辺に生息している動物としての鰐は恐ろしい反面、力強さと威厳がある。
だから王女が言ったのはそちらの鰐なのだろう。
「・・・ねえ、ペル・・・あたし、おうちにかえりたい」
「そうですね。そろそろ夕暮れも近くなってきましたし・・・帰りましょう」
そう告げると小さな姫君はバナナワニのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめ、にっこりと微笑む。無邪気な笑顔が王女の小さい頃にそっくりだったので、ペルもつられて口元を緩めたのだった。