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「シド、お前は変わらねェな」
小さな飴の雨粒が空からパラパラと降る昼下がり、適度な量の食事を終え腹八分となったカタクリとシドの二人は何もせず椅子に腰掛けまどろんでいた。メリエンダはまだまだ先、空いた時間を夫夫二人でゆっくりと過ごしていた時だった。
ふと長椅子の横に座るシドを見てカタクリがそう呟いた事に特に深い意味はなかった。本当にそのまま、結婚して何年経とうとも老化の歩みが見えない瑞々しく若々しい姿を見てそう発しただけ。
「なっ……そ、そんな事はないゾ!?」
だが言われたシド本人はそうは捉えなかった。
「渋みや威厳が増していないか!? ゾーラ族の王となるのだし、それにキミと共に鍛えたのだから昔より体は仕上がっている筈だゾ、ほら見てくれ!」
カタクリの言葉を全く成長がないと捉え、食事の給仕の際パティシエに会う事もある為に着ていた上半身の服をまくり上げるシド。
確かに体つきは以前に比べ筋肉量が増えている、それも泳ぐ為だけでなく武力を増すように鍛えぬかれた体はまるで彫刻のように美しいラインを描き、見る者の目線を奪いを魅了するような力があった。
それに加えてカタクリとの長年仲良く愛し合った成果としてか、はち切れそうな程柔らかく大きく実った胸部を今現在カタクリにこれでもかと見せ付けているのだから。
「どうだ!?」
「……いや……まァ、それはそうなんだが……」
シドの言う通り筋肉は増えて引き締まり、より艶かしくなった体を眺め頷くカタクリ。
だが彼が言いたかった事はそれではなく、更にその慌ただしい振る舞いには愛らしさは見えても彼の言うような渋みや威厳などは感じられなかった。それがまた確かに好ましい所ではあるのだが。
その思考が返事の声色に出てしまっていたのだろ。煮え切らないようなカタクリの返事にシドも何か察するものがあったのか捲っていた上衣はそのままにカタクリの手を取り、自らの割れた腹筋へと導き押し当てる。
「……!」
「触れば違いがわかる筈だゾ!さあ!遠慮なく触ってくれ!!」
突然の行動に驚くカタクリだったが、当の本人であるシドは気にも止めずに自分の体にカタクリの大きな手を這わせていく。
割れた腹筋、ボコボコに浮き出た腹斜筋、そして胸元からエラの形をゆっくりと指先でなぞらせている間何か反応するようにビクッと跳ねる肩ヒレ。そしてそれに伴い徐々に吐かれる冷たくも熱い吐息。
「っ、……ふふっ……」
「……シド、お前…」
カタクリの手の感触を楽しんでいるように目を閉じて頬を染めながら、甘い声を出すシドに苦虫を噛み潰したような顔で見るカタクリ。
目を開けその顔を見付けたシドは一瞬目を見開き、そして声を上げて笑った。
「すまない、くすぐったくてだな……んっ」
「ったく、ンなつもりあるのかねェのかどっちだ。食後の甘いデザートなら喜んでもらうぞ」
自らの体を探るかのように導いていたシドの手を止め、もう片方の手を重ねるカタクリ。
力では到底勝てないそれに抵抗はせず大人しく重ねられ、手の甲を撫でられるシド。なぜだか今は何もないそこには美しく輝く勾玉がある……そんな気が二人はしていた。
だがそれを深く考えるのは今ではない。
「こうして触らなくとも……お前の変化は散々触ってるからわかっている。お前の素晴らしさを一番知るのはおれだからな」
「むぅ……以前とどこが違うのか本当にわかってるか?」
行動の否定をするかのようなその言葉に、拗ねたように唇を突き出し頬を膨らませるシド。そのあまりに愛らしい行動をするゾーラの反応にカタクリは口の端を歪ませ笑う。
「……ならキミがわかってる事を……証明して、教えて欲しいゾ」
そう言いながらカタクリの首へと腕を伸ばし、抱き締めながら問い掛けるシド。
そしてカタクリは今度は自発的に腕を動かし始めた。言葉で伝えるのも悪くはないが今はただ、行動で示すために。