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矢印全部ぶっこんだつもりだけど話の都合上比重がだいぶ偏ってるので注意

ペパー視点

なんでも許せる人向け





「ペパー。私、好きな人ができた」

アオイがそんなことを言ってきて、ペパーの目の前は真っ暗になった。

「私のこと大切だって言ってくれたり、いろいろアプローチかけてくれて。そんなことされたの初めてですごくドキドキしてるの。ね、これって恋だよね?」

ペパーにそんなことをした覚えはない。実は相手が自分でしたなんて甘いオチはないらしい。

一番の親友であり、想いを寄せている相手が頬を染めている。他の誰かのことを想って。

「誰のことだよ」

なんでそんなことをわざわざ自分に伝えてくるのかと八つ当たりじみた思いを抱えつつ、ペパーは不機嫌を取り繕うこともできずに尋ねた。

「スグリだよ」

「……!そっか。教えてくれてサンキュな」

あっさりと聞き出した想い人に内心穏やかならぬものを感じながら、ペパーはくるりと踵を返した。

「悪い、オレちょっと用事あるからまた後でな」

「あ、うん」

まずはどういうつもりなのか本人に聞き出さねばなるまい。ペパーは部室へと走り出した。


─・─


慌ただしく去っていく広い背中を見送って、アオイは物憂げに目を伏せる。

「……スグリはぐいぐい来てくれた。私のこといつだって親友親友って言うどこかの誰かさんとは大違い」

こんな相談をしても話もそこそこにどこかへ行ってしまうなんて、やっぱり。

「親友、なんだよね。……ペパーのばか」

拗ねたようなその呟きが、遠ざかる本人の背中に届くことはなかった。


─・─


部室に向かう道すがら、スグリが壁のところで何か怪しい立ち方をしているところに行き合う。

見つけた、と声をかけようとしたペパーはその様子に戸惑い、様子を見ることにした。

「タロ先輩!その……あの……!」

「なあにー?」

「……な、なんでもない……」

「もう、早く言ってくれないと気になっちゃうよー」

もはや部活内では公然の秘密と化し始めている幾度目かの告白失敗。スグリはそれをなんとも言えない顔で見つめているのだった。

「俺だってアカマツと一緒がいいのに……!」

その独り言にペパーは耳を疑った。アカマツって言ったか?

「スグリ!」

「!お、ペパー。すっごい顔してるけどどしたんだ?」

声をかけると驚く様子を見せたが、ペパーを見たスグリはにぱっと笑う。その平和な表情に毒気を抜かれそうになったペパーはグッと歯を食いしばり、正面から本題を叩きつけた。

「オマエ。アオイのこと好きか?」

「へ?なんで……」

「いいから答えてくれ。大事なことなんだ」

重ねて言うと、当惑した様子だったスグリがキッと表情を引き締めた。

「……ああ。好きだ。あの横顔に俺は惚れたんだ」

「……そうか」

これで完全な両片想い。両想いになるのも時間の問題と言えるかもしれない。

数秒前までのペパーであればそう絶望していた。

しかし今のペパーは一周して冷静になっている。

「アカマツのことは?」

「わぎゃ!?もしかしてさっきの聞こえてたんか!?」

「悪い、盗み聞きちゃんする気はなかったんだけどよ」

「は、恥ずかしいな……。そうだよ、俺、アカマツのこと好きだ。真剣に告白しようとするときのあの様子がたまんねえんだ」

「……」

ペパーは腕組みをした。嘘をついている様子ではないが、なんだこれは。

「他に好きなやついるか?」

「え?え?なんでそんなこと聞くんじゃ……?」

「いいから。例えばオレはどうだ?」

「ペパーは友達だな!」

「そりゃありがとな。オレももちろんオマエのことダチだと思ってるぜ」

「にへへ。そうだなー……他の人には言わんでな?……今言ったアオイだろ、アカマツだろ、ネリネ、カキツバタ、鬼さま、あとねーちゃん」

ペパーの頭の中が宇宙に染まる。

スグリがスマホロトムをお持ちでないことを聞いたとき以来の衝撃、いやそれを何百倍にもしたものと言ってよかった。

「オマエ……いや、ちょっと場所移して話そうぜ」

「わかった」

廊下から部室へ向かった二人は端のほうでこそこそと話し始めた。

「一応確認だけどよ、オマエの好きなやつらは友達として好きとかってわけじゃないんだよな?」

「この燃えるような気持ち……これは恋に違いないべ」

自信満々に語るスグリに、ペパーは頭を抱えた。完全に恋敵がどうこう以前の問題だった。

何より、その人物たちは。

「ハルトとダダ被りちゃんだ……!」

「え、ハルト?ハルトがどうかしたか?」

困惑するスグリをよそに、恋に悩む親友の声を思い出す。

──ペパー!僕、好きな人ができた!林間学校で仲良くなった人なんだけど……。

──交換留学で運命の人を見つけちゃったかもしれない。この前デートにも誘われたんだ。でも僕はゼイユのことも諦められないんだ、どうしよう……!

──カキツバタ、もしかしたらボタンのこと……。ううん、弱気になっちゃ駄目だ!ペパー、なんかドラゴンに関するいい話題とかない!?

ペパーは二人の間で揺れるハルトがきちんと自分なりに決着をつけられればいいと思っている。その視点からしても、スグリの恋多き様子は大問題だった。

ちなみにペパーの仲の良い友人のうち二人ほどはそのハルトに留学よりも昔からアプローチを続けていたりするのだが、ペパーはそこには全く気付いていなかった。

「オレもそんなに詳しいわけじゃねえけど……恋ってせいぜい二人とかならともかく……そんなに何人にもするものじゃなくないか?」

「そうか?ペパーは言ったよな、みんな一番でもいいって」

にへーと笑うスグリからは一切の邪気が感じられない。本気でそう思っているのだと理解して、ペパーは己の一言が何かしらの怪物を生み出してしまったらしいことを直感した。

「ゼイユのこともそういう好きってことか……?」

「様子のおかしいねーちゃんの面倒を見てるうちにドキドキするようになっちまった……」

「そっか……」

まずは何から突っ込んで話したものか。ペパーはあまりのことに立ち尽くすほかなかったのだった。



「なんだか楽しそうだねぃ」

言うまでもなくここは部室である。わいわいと話しているように見えるペパーとスグリに、机に突っ伏すカキツバタがねっとりとした視線を向けていることには、直立不動の姿勢のまま眼鏡を曇らせている者を除いて、誰も気付くことはなかった。



この後。ある人物が意中の相手に思いの丈をぶつけることになるのだが……その結果についてはここで語るべきものではないだろう。


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