SS なーんか > 「えらいね」
M「あ、あはっ、ははは……」
今、何を考えた?
もういっそ―――その続きを思い返すだけでも、喉の奥が不快なもので満たされる。
いや、その感覚ともすっかり長い付き合いになっていた。
「今日は調子がいい」と思ったのがそもそもの間違いだった。
目が覚めたとき(朝なのかもおぼろげだけど)何か気力に満たされてるのを感じた。
(あれ? いける?)
ガバっとベッドから起き上がれたのは今思えば奇跡だった。
体を洗って、身だしなみを整えよう!
久しぶりに外へ出よう!
その足で地球寮へ直行よ!
皆の驚く顔が楽しみ!
容姿端麗、成績優秀なミオリネ・レンブランは復活する!
なんて世界は素晴らしいのかしら!
それから、せめて一言でいいからあの子に言おう、「ごめんなさい」と。
声を出すのが難しいなら、せめてメッセージでもいいから。
あの子ならきっとそれでも許してくれる。
沸き立つ気持ちのままに端末を手に取る。
だってあのスレッタよ? あの底抜けのお人好しで、私の婚約者で、友達で、それから―――
『不在着信:85件』
あー
やっぱ
むり
「………ハッ」
声にもならない空気の音が部屋に漏れるのを聞いて、横になった。端末は放り投げた。
それが楽だからではないし、そうしないと辛いからでもない。
ただただ単純に、ひたすらに、めんどくさい。
ずっと暗いままの天井を見る。
思えばこの部屋は今の私そのものだ。
自己完結していて、雑然としていて、大事なものさえ放ったらかしにして、
「奪ってやった」と言ったところで、結局見捨てられてるだけじゃない。
縋るものが欲しくてパジャマの裾を掴む。
初めてこの部屋に他人を入れた日の夜、あの子が着ていたパジャマ。
これだけは最後まで袖を通さないようにしていたけど、そんなちっぽけな矜持もどこかへ行ってしまった。
人のために頑張るのだと、控えめに、でもどこか誇らしげに語ってくれたあの子。
―――「えらいね、あんた」
じゃあ私は何?
頬が濡れるのを感じた。
悲しくて泣くのはいつぶりだろう。
むしろ情けない? 悔しい? いや違う
めんどくさい
なら
もういっそ―――