SS改稿
※某スレでのスピンオフクロスオーバー概念
※ワンピース学園の服部ヒョウ太in原作時空
※展開の都合上、演技によるキャラ崩壊強め
眩しい太陽が水平線の向こうに姿を消し、色鮮やかな街の賑わいが極彩色の夜で満たされる頃。
水の都ウォーターセブンから海列車に揺られることおよそ数刻。観光名所と名高いカーニバルの町『サン・ファルド』の片隅では、とある商人によって開かれた小規模な立食パーティが幕を上げていた。
会場となるのは主催である商人の別荘も兼ねた海辺の古屋敷。街外れにひっそりと佇むその屋敷の門を潜れば、小綺麗な見目の使用人たちが招待客を出迎える。エントランスに足を踏み入れ、案内に従いたどり着いたホールでは幾人もの男女がめいめいに着飾り話に花を咲かせていた。毛足の長い絨毯が足音を吸い、飛び交う密やかな会話を豪奢なシャンデリアが見下ろしている。
そんな中、挨拶回りを済ませたばかりの青年が一人、疲労の色を装いながら壁に背を預けた。
小さく息を吐き、向けられる視線にまるで気付いていないフリをしながら目を伏せる。傍から見ればその姿は、さも人付き合いに慣れていない人間のように映るだろう。
「兄様!」
不意に覚えのある声が耳に届く。
ゆるりと顔を上げると、青年よりいくらか背の低い人物が人の輪を離れてこちらへ駆け寄ってくるところだった。両手に携えたグラスの中で弾けるような薄金色が照明を受けて華やかにきらめく。
「スタッフの方からシャンパンを頂いたんです。兄様にも是非って」
そう言って人懐っこい表情を浮かべる彼に、青年は眉を顰めたい気持ちを押し殺して笑顔を形作った。
「わざわざ、すまないな」
「兄様のためですもの。これくらいどうってこと──」
煮詰めたマーマレードジャムのような甘ったるい声色が不快で、思わず遮り手を伸ばす。口をつぐんだ彼の首元で少しばかり形の崩れたタイをさっと整えた。
「すみません兄様。夢中で、つい」
「……身だしなみには常に気を払っておけ」
「ふふ、ありがとうございます」
ミッドナイトブルーのブラック・タイに身を包みセミロングの髪をハーフアップにまとめた彼は、見知った顔に見慣れない笑顔を貼り付けて笑う。常とは異なる黒色のマスクが普段の少年らしさをすっかり覆い隠し、レンズの奥の瞳はそれに似つかわしい大人びた色を湛えている。
受け取ったグラスに反射する揃いのホワイト・タイは皮肉にも自身によく似合っていて。青年は、くつりと喉奥で自嘲を零した。
ふと互いの視線が交わる。一拍ののち、まるで示し合わせたようにぴったり同じ仕草で手の中のグラスを軽く交わした。
チン、と涼やかな音が微かに響いてどちらからともなく口元を綻ばせる。整った顔立ちの二人がおもむろに浮かべた柔らかな笑みに、遠巻きに見ていた女性客たちがうっすらと頬を染めた。
「……良い香りだ」
「ホントだ、飲みやすい!」
微笑みに潜む催促の視線を受け、青年はグラスを目線の高さまで持ち上げくるりとシャンパンゴールドを踊らせる。濁りの見られないそれを一口含み、舌の上を転がしたドゥミ・セックに異常の無いことを暗に告げた。毒味役をさせられたことへの不満はおくびにも出さない。
西の海のとある加盟国を治める政治高官の息子兄弟──それが、今ここに立つ二人に与えられた肩書きだった。
✣✣✣
数日前。
「へェ〜〜"兄弟"……」
感情の読み取れない声音で呟いた少年──ヒョウ太は、手にした依頼書をしげしげと眺めながら得心のいった様子で頷いた。
「なるほどォ、それでわざわざぼくを呼び出したってワケ」
ぱ、と手放された紙片は音も無く天板の上に着地する。常からドジが絶えないクセに、内容だけは整然とまとめられた書類が今ばかりは恨めしい。脳裏をよぎった憎たらしい上司の顔を蹴り出し、青年──ルッチは最下部に添えられた几帳面なサインを半ば八つ当たりのように睨みつけた。
ここは、ウォーターセブンに店を構えるブルーノの酒場。その二階にある窓の存在しない一室だ。
普段は居住スペースとして使用され他人が踏み込むことは滅多に無いそこに、仕事終わりのヒョウ太をルッチが半ば拉致する形で連れてきた、というのが事の次第であった。
「まァ確かに、君と兄弟ごっこできるのなんて他にいなそうだもんねェ」
「……そういうことだ」
不本意極まりないといった態度を隠しもせず首肯を返せば、何がおかしいのかヒョウ太は愉快げに口角を吊り上げる。
「それで?」
「何が、」
「任務なんでしょ。詳しいこと聞かせてよ、──オニーチャン」
反射的に眉間にシワを刻んだのは、不可抗力というやつだろう。
「うっは〜〜超イヤそう!!」
『ポッポー……』
肩口の相棒にまで呆れたような声色を零され、多少なりと大人げない自覚を持ち合わせていたルッチは軽い咳払いをして気を取り直した。
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いかがでしたでしょう? 改稿前と比べて多少は読みやすくなっていれば良いのですが。頂いたご意見を元に、修飾表現をより平易な言い回しに置き換えることと視覚的な読みやすさを意識することに重点を置いて改稿してみました。
主な変更としましては、
・一文が長めな文章の前後や構成を入れ替えたこと
・日常的に使用しないいくつかの漢字を開いたこと
・抽象的な修飾・比喩表現に具体性を追加したこと
・動作における主語及び動作における目的の明確化
などになります。
個人的にこの物語ではモチーフとなる世界観を大切にしたいため、敢えてそのままにした単語や比喩表現も多くあります。『意味を知らないなら逐一調べて読め!』をモットーに生きている読書オタクなためここに関してはご容赦ください。調べてほーんニヤニヤする楽しみを大切にしたいし、語彙の拡張にも役立つと思うし、何より書き手がこの文章気に入ってるんだ許せ……。
ともあれ、ひとまずこれにて一旦改稿終了とします。相談スレのSS師各位におきましては多くのご意見ご指摘、そしてご提案をありがとうございました!
ぶっちゃけほんとに自信が無かったというか、自分の書いた文章自体はめちゃくちゃ大好きなんだけど人に褒められるようなものではないと常々思ってたので綺麗とか読みやすいとか思いもしなかった評価を頂いてはちゃめちゃに驚いたし動揺したしすごい嬉しかったありがとうスレのみんな愛してるぜ!!
ここまでお目通しくださった方へのお礼に、この先の物語を一部抜き出してお送りしたいと思います。まだまだ改善の余地ありな文章のため完成版とは異なる点も多々出てくるかとは思いますが、少しでもお楽しみいただければ幸い。
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これがただの暗殺任務や殲滅任務であったならどれほど楽なことか。
あいにく世界というのはそうそう殺戮兵器に都合の良いように回ってはおらず、中でも今回指令の下ったそれは殊更に──限りなく部外者であるヒョウ太に協力を仰ぐだなんて選択肢が出るほどには──面倒な任務であった。
「西の海に、王族とマフィアが手を組むことによって統治されている加盟国がある」
「ウ〜ンいきなり物騒」
「黙って聞け。その国で圧政を不満に思う民衆がここ最近になって反乱を画策しつつあることが判明した。それだけなら大した脅威じゃねェが……面倒なことに、つい先日革命軍の介入が確認された」
「うわァ」
✣
ルッチとて本音を言うなら心底気が進まないが、政府の諜報員という名の駒に任務の選り好みが許されているはずも無く。不満を垂れるヒョウ太をちらと一瞥し、貴族家と現当主である高官についての大まかな概要を説明していった。
一に、貴族家は長年王家に仕え当主は代々要職を任されていること。
二に、先代高官の頃からマフィアと癒着し私腹を肥やしてきたこと。
三に、兄弟は当代の高官に可愛がられ育った世間知らずであること。
「そして折悪しく数日後に控えている年に一度のパーティには、今年から高官に代わって兄弟が出席することが半年以上前から決まっているそうだ」
「ここまで火種役にうってつけなことある?」
✣
ぶつぶつと零される傍白じみた呟きに垣間見えるその聡明さを、普段の言動にも少しは反映させられないものか。そうすれば日々繰り広げられる間の抜けた演技に事あるごとに苛立ちを覚えなくて済むのだが……。
などと考えるルッチの脳内では、常からの己の振る舞いというのはどうやらすっかり棚の上に追いやられているらしい。
ともあれ、ヒョウ太の口にした見解は正に指令を下した上層部──引いては世界政府の意図するところそのものであり、とどのつまりそれが示すのは、おそらくは適当に言いくるめて利用しろとのつもりで用意されたのであろう粗雑な内容の依頼書など目の前の子供相手にはなんら意味を成さなかったということだ。
✣
「勘が良いな」
「わは〜〜〜〜マジで言ってる?」
疑問符を伴いつつも確信を込めて問いかければ、ヒョウ太は躊躇い混じりに答えを口にする。自信の無さに因るところでないそれが、できることなら信じたくないという思いから来ていることは容易に想像がついた。
残念ながら現実は非情だった訳だが。
「……ねェちょっと相談なんだけどさァ、」
「任務の拒否は認められん」
「手口が詐欺のソレ!!」
✣
傍目には金持ちの道楽としか聞こえないであろうそれに、隣の男の視線が小馬鹿にするような色を含む。
向かいの女が素敵なお考えだなどと見え透いた世辞を吐き、"世間知らずの箱入り息子"は上機嫌そうに目を細めた。イタズラげな瞳がかちりとこちらを捉え、やがて紡がれる符丁に鷹揚な笑みを浮かべながらもしっかと耳を傾ける。
「アゲートでしょう? モリオンでしょう? スフェーンにスピネル、あとそれからターコイズも」
歌うような調子で羅列されるのはまるで統一性の無い宝石の名前。記憶の中のパーティ参加者リストと照らし合わせ、想定よりいくらか多いそれに少々億劫さを覚えた。
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これでほんとにおしまい。ここまでお付き合いありがとうございました!
完成後は元概念の現行スレに投稿予定です。もし多少なりとご興味を持っていただけましたら、下記リンクからチラッとでも覗いてみてくれたら嬉しいです。そしてあわよくば脳を焼かれてくれ。天才SSの宝庫なんだ……服部ヒョウ太はいいぞ!!!!