S-スネークと海賊女帝
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「蛇姫様…♡蛇姫様…♡」
年端もいかぬ少女の脚に縋り付き、ぬるめく舌を這わせる国民達。
「くださいませ♡あぁ、どうか……」
女達の背に足を組んで座る少女はまるで幼少期の自分に生き写し。
自分ではなく、その少女を主君と仰ぐ忠実なる護国の戦士たちの中に妹達も混ざっていることに、ハンコックは血の気が引いた。
一体どんな魔法を使えば、見た目が似ているとはいえ忠誠を他の人間に移せるのか。
「姉様、姉様♡」
レイリーのお陰で黒ひげも海軍も去った筈なのに。
海軍に連れられて来た少女はまだ残っていた。
自分を捕縛する為に来たのだろう。
幼い頃の自分が、今の自分と同じように、高い所から睥睨し、冷たく見下している。
「臣民が、大切ならばわかるじゃろう」
自分の我儘以外で国が滅ぶなどあってはならない事態である。
幼い声色が、かつての自分が今の自分に脅しをかける。
「……国民を元に戻す代わりに……大人しく、海軍に捕まって縛り首になれと申すか」
毅然と、動揺を悟られないように静かに告げる。
少女は笑う。
「莫迦な。一度茹でた卵が元に戻るか?」
ギリ、と奥歯を噛み締める。国民が元に戻らず、国を失えばどうなることか。
ただ黙って縛り首になる他ないのか。
「……そなたは、きっと優秀な宿主になる……」
宿主という聞きなれない単語を処理する傍から、トン、と女達の背中から降りた少女はこちらに近寄る。
意外にも背が高く、指先で顎に触れてくる。
「無礼者……石になりたいか……」
「わらわが虜にした国民を屠るのと、どちらが早いか試してみるか?海賊“女帝”」
まぁ、例え石にした所で、女たちが群がる次の対象は決まっておるが。
と、少女は呟いた。
普段は思慕と憧憬に覆われた劣情を顕にした女達の視線がじっとりと蛇のように身体に絡みつくのを感じた。
(品がない……)
「番うならば、命は助けよう……そなたも、臣民も。亡国の皇帝が辿る道は険しいぞ?その身一つで、どう成り上がるか楽しみじゃの」
「……」
ぶるり、と背が震える。
どちらにしろ選択肢など無かった。
この娘の言うことを聞かなければ国民は鏖殺され、自分は処刑。
自分が殺されなくとも国民は少女のモノ。
国は終わり、自分はまた忌まわしい誰かの所有物となる未来が見える。
そもそも自分が従った所で虜となった国民は帰ってこない。国も、誇りも。
失いかけて、否、失って初めてこの国を護るべき価値があると知った。
平穏だったアマゾン・リリー。
強く、国を護る戦士たちの唯一の弱点は忠誠を誓う自分の生き写しだとは。
「わらわは誰のものにもならぬ……!」
精一杯、怯えを悟られないように言う。
もはや自分に言い聞かせるように。
「一つだけ、方法がある……」
少女は歌うように囁いた。
「身体で支配をし返せばよい……。わらわがしたように……なればまた、そなたはこの島の女帝。いいえ、きっともっと……」
「わらわの身体は、わらわとルフィだけのものじゃ!ふざけるでない……!」
甘美な誘惑だが、前提条件がふざけている。
誰がこの身体を使うものか。二度と支配をされぬと誓った、この身体を。
「それでは、もうそなたも、この島も終わりじゃの?女は全てわらわのモノ。全てを失ったそなたは刻んで獣のエサじゃ」
くつくつと少女は笑う。玉虫色の、星色の瞳孔を見ていると気分が悪くなる。
かつて命を失いたくないが為に、艱難辛苦を耐え忍んだ。
きっとまた、耐え忍べばいつかは救いがあるだろうと心の隅の、奴隷だった少女が囁く。
願わくば助けに来てくれる者が初恋の人間だったら良い。
「わらわに、一体何を、しろと……」
口の中が乾く。とんでもない道を選んでしまったのかもしれないと早速後悔する。
もしかしたら死んだ方がマシなのかもしれない。
「番い方くらいは、知っておるじゃろ?」
「……」
「跪け。海賊“女帝”」
少女は笑って白いワンピースをたくし上げた。
少女らしい細い脚。
視線を上げる。
柔らかそうな幼い割れ目から、異形の肉色の触手がこちらを見て、ぬるりと白い涎を垂らしていた。