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おやつおいしい(14)「センパイ、これどうやって作ったんですか?」
「次のスパイスも一緒にがんばりましょうね」
「大丈夫、全部のスパイスを食べればきっとよくなりますよ」
「センパイ超強くない?バトル苦手って嘘でしょ」
「センパイ…泣かないで、センパイ」
「おれも買い食いに一票!!センパイは何が食べたいですか?」
「はい、スケジュール作ったんでちゃんと忘れずサボらず授業出てくださいね!あとおれのノート貸してあげるから次の試験がんばって!留年したらセンパイって呼べなくなるじゃないですか!!」
「先輩、ネモ、ボタン。泣かないで。俺は不幸なんかじゃないんだから。笑顔でいてよ」
「……ごめんね。ごめん。うん、ありがと」
「先輩、どうもー。いい食材手に入ったんでなんか作ってください。…へへ、だって先輩が作った方が美味しいんですもん」
「みんなありがとう!お陰でいい人生になった。この五年間、本当に楽しかった!」
「…………またね!!」
***
「ペパー!ボタン!シロナさんが…シンオウのチャンピオンが、オシバナの名前を知ってるって…!!」
「名前は公式の資料では伝わっていないのよ。ただ英雄の少年と記述があるだけ。ご先祖様たちがあえてそうしたらしいわ。いつか来るであろう、彼が愛したパルデアの友人たちを、確実に導けるように」
「彼のお墓にも名前は刻まれていないの。その代わり、見て。彼が大事に身に付けていたものが目印として刻まれているのよ。……見覚えが、あるのね?」
「この子達は"墓守モクロー"の一族よ。一説には英雄の相棒の子孫と伝えられているわ」
「た、タマゴ…?モクローの?」
『くぽ!くぽ!』
「ペパー?モエギとコライドンも…なんで泣いてんの…?」
『くぽ?』
「ーーーおかえり」
***
コサジの灯台の研究所跡。
宵闇の中、デスクライトのみが点る部屋でペパーは一心に机に向かっていた。
「ジニア先生と校長せんせへの反応からして、やっぱある程度は覚えてそうだな…サワロ先生の強面にも全然へっちゃらちゃんだったし」
ノートを広げ、記憶をたどるように考えては何かを書き込んでいく。
『くぽ』
その足元に翡翠色をした赤ん坊のモクローが拙い足取りで近寄ってきた。手のひらに収まるほどの小さな身体で懸命に翼を動かしてペパーの膝まで到達する。力尽きて落っこちそうになったのを慌てて受け止めた。
「おっと。大丈夫か?」
『もふぅ…』
「はは、こんなに小さくなっちまって大変だな。ま、すぐ大きくなるだろ」
ペパーはモクローをデスクの上に乗せると、その前に地図を広げた。
「今どこにいるのかわかるか?」
『くぽ!!』
モクローがコサジの灯台を迷いなく指差したのに思案顔に頷き、またノートに何かを書き込む。モクローは不思議そうに首を傾げ、ペパーの顔を見上げた。
『くぽ、くぽぽ~?…もふっふ?』
「うーん…何言ってるかまではさすがにわかんねー。どうにか意志疎通できるようになんねえかな」
『くぽぉ…』
「じゃあ次は…あっ」
モクローは不安げに一鳴きすると、ぱたぱたと翼を動かしてどこかへ行ってしまった。小さな身体は古ぼけた機材に紛れてすぐに見失ってしまう。ペパーは「相変わらず気紛れなヤツ」と肩を竦めるとデスクに向き直った。
「地図は読めるし現在地もわかる…と。やっぱ、結構記憶が残ってるんだな」
「……どこまで残ってる?どこまで再現できる?」
「ジム、リーグ、スター団、パルデア十景……ヌシの住処、エリアゼロも行くべきか?」
「まずはボタンとネモに連絡してもらって…」
『くぽーっ!?』『アギャース!?』
スマホロトムを呼び出して通話をかけようとしたその時、何かが落ちたような大きな音と共にモクローとコライドンの悲鳴が響き渡った。
「な、なんだ!?」
『ばう!!』
慌てた様子でマフィティフがペパーの元に駆けてきて、ペパーのズボンを引っ張る。誘導されるままに向かうと、そこには大惨事が広がっていた。
「う、うわー…」
床にひっくり返ってぶちまけられたパンとヨーグルトと生クリームと各種ジャム。その中心に全身ベトベトになったモクローがきょとんとした顔で座り込んでいる。
「何やってんだお前ー!!」
『く、くぽ…くぽ~…!!』
「な、泣いた…?……いってぇ!?」
『はにゃァ!!』
いつの間にか背後に回っていたマスカーニャに尻を叩かれて思わずその場に崩れ落ちた。目の前にはまだ泣きじゃくっているモクローがいて、コライドンが慰めるようにして顔を舐めている。
まるで赤ん坊のようーーー否、赤ん坊そのものの姿。
ペパーの知っている生意気な親友の少年とは似ても似つかなかった。
呆然とその様子を見つめ、ふと床に散らばる物たちに視線を移す。
「サンドウィッチ…を、作ろうとした、のか…?」
『くぽぉ…』
モクローはまだ半べそをかきながらも全身を使ってパンを持ち上げ、ペパーに差し出した。
「オレに…?」
『もふ』
ーーーだって先輩が作った方が美味しいんですもん。
親友の少年はペパーに作らせるばかりで、ほとんど自分で作ろうとしなかった。
震える手でヨーグルトと生クリームとジャムまみれのパンを受け取り、一口齧る。素材そのままの味がして思わず笑ってしまった。その姿を見てモクローが嬉しそうにぱたぱたと翼を動かす。
『くぽ!くぽ!!』
その姿には覚えがあった。親友の少年ではなく…幼い頃のペパー自身だ。
「オレを喜ばそうと思って…食事、作ってくれたのか」
『くぽ!!』
そういえばパルデアに戻ってきてからは彼の…親友の少年の記憶を、過去を辿るのに必死でずっと張りつめた表情をしていたように思う。
自分はこの赤ん坊のことをどれほど見てあげていただろうか?笑いかけて、褒めてやっていただろうか?
『くぽ~…もふ?』
ペパーは服や髪がベタベタになるのにも構わず、モクローの小さな身体をそっと抱きしめた。
「ごめん…ごめんな。お前はお前なのにあいつのことばっか聞いて…不安だったろ」
『くぽ?くぽ~?もふっふ』
「はは、何言ってんのかわかんねーけど…まあいいや。サンドウィッチ、一緒に作ろうぜ。野菜サンド、ジャムサンド、たまごサンド、ハーブソーセージサンド…お前は何が好きなんだろうな?全部作るからどれが美味かったのか教えてくれよ」
『くぽぽ!!』
「その前に掃除と風呂だけどなー。バター以外全滅だこれ」
『もふぅ…』
わかりやすくしょげるモクローに、久しぶりに声を上げて笑った。
***
「ペパー?呼ばれたから来たけど…その髪どしたん?」
親友の一人に声をかけられて振り返る。肩の上でばっさり切った癖毛が揺れた。
「よっボタン、急に呼んで悪い。髪は色々あってめんどくさくなって気分転換も兼ねて切った」
「その色々が知りたいんだけど…あれ、家の中やけにさっぱりしとらん?引っ越しでもすんの?」
以前は室内のスペースを圧迫していた機材や研究資料が随分と少なくなっているのに気づき、ボタンは目を丸くした。
「引っ越さねーよ。まだ役に立ちそうなもんは校長せんせに引き取ってもらった。赤ん坊育てるんだから物が多いと危ないだろ。残ってるパソコンもあるから欲しいものあったら持ってってくれよ」
『くぽ~!!』
ボタンが返事をするより先に、生まれた直後より少し大きくなったモクローが死角から飛び出してきてボタンの顔面にダイブした。更にコライドンも出てきて両者の顔を舐め回す。
「ぎゃー!?」
「こら、ハッカ。急に飛びつくと危ねーからダメだ」
『もふぅ』
「コライの方も止めてほしいんだけど!?……"ハッカ"?」
「こいつの名前。いくつか候補はあったんだけど、一番本人が気に入ったのを選んだ」
「な、まえ…名前…え、だって、」
ボタンが戸惑いながらペパーとモクローを交互に見たその時、転がり込むようにしてもう一人の親友が現れた。
「ペパー、呼ばれたから来たよ!霊テラス色モクローのバトルの仕方についてだよね!?」
「ちっげーよ!!バトルには早いし割り切り早いしツッコミどころありすぎて反応に困るっての!!」
「うわ、ネッモ…」
「えー!だってこの子はポケモンバトルできないけど、バトルでは活躍できるもん!ねー?」
『くぽぽ?』
ペパーは一瞬遠い目をしたが、気を取り直してモクローを肩へと乗せると親友2人を室内へと促した。
「とにかく…こいつのこと、勢いで連れ帰ってきてなあなあでオレが引き取っちまったけどさ。今のうちに腹割って話しといた方がいいと思って」
床にはポケモンの遊び道具がいくつか転がっており、デスクには年代がバラバラの写真がいくつか飾られている。ネモとボタンが知っているものもあれば、覚えのないものもあった。そして、部屋の中心にはサンドウィッチを始めとした料理を載せた真新しいテーブルが鎮座している。
そわそわと身体を揺らしながら料理を見つめるモクローの頭を一撫でし、笑いかけた。
「ま、とりあえず食いながら話そうぜ!!」
『くぽ!!』