RE‐BIRTY DAY PRESENT FOR WADDLE WAVE
稲生・紅衣・メメ・虎屋のスレ主薄暗い祠に一人
調度品は質素であるが立派な物が拵えられている 私はただ時間が過ぎるのを待っていた
ここには外の何事も通さず干渉しないこの世界で最も安全な場所
いや 内から外に干渉出来ない事こそが安全である最たる理由だろうか
その祠の中でさえ外からの霊圧の干渉を感じるほどに外は荒れているようだった
そんな薄暗い祠に一筋の光が差し込んだ 窓は無い ポウッと灯すような照明はあれど こうも刺すように光る照明は無いはず
光の中に人影が見えてようやく扉が開いたのだと気づいた
「兄...様......?」
一瞬兄様を幻視したが...そこにいたのは少女と思しき人影
兄様と見間違えたのは黒々としたマントのように漂うナニカとその霊圧からだろうか
「貴方がマグダレーナとかいう人ですわね?」
人の子供特有の少し甲高い声が耳に響いた 扉の外から伝わる戦っているだろう霊圧も気になるがこの扉を開いた人物にも興味を示さざるを得なかった
「えぇ...そうですが あなたは一体?」
「私(わたくし)は虎屋翼(たすく) 強いて言えば配達を頼まれたような立場ですわね...後一つ訂正するなら私は"男"ですわよ 男としてしっかり振舞っているつもりですのに不思議と皆さん間違われますがね...」
自分の中の記憶を辿り...やはり虎屋などという苗字の知り合いは居ない
兄様の力を渡された新しい滅却師の子供でしょうか それにしてもどうやってこの祠を開けたのでしょう
「祠の開け方についてですわね?端折りますが貴方の兄様...ユーハバッハが私と協力をし鍵を複製しました 代償は私自身の魂魄の損傷とユーハバッハの魂魄の消耗でありその後そんな状態でおしょう?とか言う人と戦っているみたいですわね」
兄様は私などのために相当な無茶をしたようで 兵主部一兵衛と手負いの状態で戦う無茶までさらにしているらしい
止めなくては!二人とも...!
「気がそれてる所ごめんなさいね」
外へ出るために走り出そうとしたが右肩に衝撃を受けた 見れば銀色の矢じり...いえ銀紙に包まれた矢じりが軽く服を裂いて刺さっていた
「"話を最後まで聞いてから動いてください"...なんです『第六感』?わかりました 念の為ですが"霊圧を上げないで"」
洗脳や操作の類だろうか体の自由が利かない...兄様の敵だったのだろうか 戦っているのは真実だろうがどこまで信用すればいいのでしょうか
「配達員だと言ったでしょう?受け取って判を押して貰わないといけないのですから
私が持ってきたプレゼントは二つ...一つは先ほど申した通りユーハバッハからのココの鍵をプレゼントですわ」
プレゼント...贈り物 どうしても嫌な物と結びついて思い出してしまう
体が動かないのと同様に思考もまた雁字搦めに過去に苛まれていく
「ど...どういう教育を受けたらプレゼントの一言でこんなナイーブになるんですの...?気を取り直して二つ目は...今貴方に渡した『クッソ固いチョコ矢じり』ですわ」
...言われて見れば銀紙越しにだがチョコレートの匂いがした
「それが貴方の父上...『霊王』からのプレゼント 貴方の『選択』へのチケットですわ」
『霊王』その名を聞いて少し冷静になったからだろうか ようやく相手の顔や様子に目が向いた
マントのような物と形容していたソレにはグラデーションのように白黒が分かれており白色には文字が浮かんでは消えながら循環し 灰色には火傷の跡のようにグズグズとした文様が...黒色にはマグマのように未だ焼け続ける烙印の様な文字が見えた
「ちょっとは冷静になってくれたようでありがたいですわね...モクモクは貴方のユーハバッハから頂戴した聖文字によるもので持ち主の思考をそのまま出力していますわ 黒いのは『第六感』のアレコレですが正直面倒ですし端折りますわよ?」
ハァと一息つきつつやれやれといった具合に話し始めた ついでに自分の体を見れ場白いモクモクが体から出ていて私の思考を公開していた...先ほどから見透かしたような言動は本当に見透かしてただけのようだ
「私が持ってきた『選択』はいくつかありますので一つずつご説明いたしましょう
その矢じりは能力の起点 私の能力によりソレを受け取った対象は霊圧を一定量消費しないと解除できない...今の貴方のように非戦闘時で霊圧が高まっていなければそのまま相手を操作できますが 戦闘時で最初から霊圧が高まっているのなら受けた瞬間『全ての霊圧』が一度解除に強制的に向かわされます...つまりは一瞬完全に無防備になるのですわ」
冷静に一度なった頭が正直説明など聞いている場合なのだろうかと焦りが再燃しだしたが聞かないと動けないのでそのまま聞き続けた
「冷静で結構ですわね さてその上で選択肢を上げていきましょう
一つ目はユーハバッハをそれで撃ちぬく...ユーハバッハはここの鍵を開けるため魂魄を消費していますし一瞬であれ無防備にすれば間違いなく死ぬでしょう
貴方は滅却師との関係を断ち切りこの場に留まれる
二つ目はおしょうを撃ち抜く...手負いとはいえユーハバッハやその息子たちがいるのであればおしょうを倒すことは出来るでしょう その後どうするのかは正直知りませんが
貴方は霊王宮から降りて滅却師として生きることが出来る」
選ぶことなど出来るだろうか...私はもう...ただ戦いを止めて欲しい...
「...まぁ お優しい『霊王』からの選択肢は以上ですわね ここからは私から
もしもどちらも選べないのならさらに選択肢を上げますわ...矢じりとして使いたくなのでしたら食べてしまってくださいな
貴方が望むのであれば 出来る限り苦痛なくこの場で自死させてあげますわ
貴方が望むのであれば 貴方の力を無理やり開放して全部壊させてあげますわ
貴方が望むのであれば ここには来なかったことにして私はまた鍵を閉めますわ
その全てを私が責任を持つことにしてあげますわ」
話が終わり相手がおいてあった椅子に体を預けた後 体は動けるようになった...だが依然固められ続けている様に動けなかった
「どうかしっかりと悩みに悩んでくださいな 貴方のユーハバッハは『マグダレーナの選択の時まで生き抜いてみせる』と心から決意をしていたのですから 未だ経験少ない我が身ですが...しっかり考えないと後で後悔することだけは分かりますわよ」