RABBIT OCEAN

RABBIT OCEAN


ザザーン!

私とアリスさんが旅を始めて数ヶ月…旅を続けていく中で、海へとたどり着いていた。

ミヤコ「…あらかじめ言っておきます」

アリス「?どうしましたかミヤコ?」

ミヤコ「恐らく海に入った瞬間…私は溶けます」

アリス「溶けます!?」

ミヤコ「もしくは泥化します」

アリス「泥化します!?」

私の放った言葉にアリスさんが驚きの声をあげた。

ミヤコ「…いえ流石に冗談ですよ。大量の水でそうなるのなら私は旅の大雨で溶けて無くなってますから」

アリス「…ハッ!?確かにそうです!」

アリスさんはハッとした表情をする。旅の中で思いましたけど本当にこの方は本当に表情が豊かですね。

アリス「そうですか…冗談を口にできるようになりましたか…」

?何やら感慨深げな表情をしましたが…何故でしょう?

アリス「…ではアリスから質問です!」

ミヤコ「はい?」

アリス「それなら何故頑なに海に近づかないんですか?」

現在私達は砂浜で談笑しているが、海からは若干の距離が空いている。

ミヤコ「……」

アリス「何故ですか?」

ミヤコ「……この旅の中で自分の体力の無さを思い知らされたから…でしょうか?」

アリス「……」

ミヤコ「きっと泳ぐ体力もありません…つまり私は沈んで海の藻屑となります」

アリス「…また冗談ですか?」

ミヤコ「…いえ、こちらに関しては冗談では済まないでしょう」

そう言うと、アリスさんは少し考えた後…

アリス「…ミヤコ!」

ミヤコ「はい?」

アリス「泳ぎましょう!」

ミヤコ「はい!?」

そう言い放った。

ミヤコ「人の話聞いてましたか!?なんで唐突に今なんですか!?」

アリス「ご安心を、ミヤコの分の水着はあります!」

ミヤコ「なんであるんですか!?」

アリス「伊達に千年も生きてません!予備の水着なんていう使われずに肥やしになったアイテムぐらいたくさんあります!」

ミヤコ「そもそもアリスさんは泳げるんですか!?」

アリス「千年の間に水泳スキルは習得済みです。…それにミヤコ!SRTとして苦手な物は苦手なままで本当にいいんですか!」

ミヤコ「!!…そ、れは…」

アリス「せっかくの機会です。ミヤコの弱点を少しでも克服しましょう!」

SRTの名前を出されると断りづらい。ですが…

ミヤコ「…それ…でも…嫌な物は嫌です!」

水に入ることは嫌だった。

そんな言い合いを繰り返して数日…結局私は根負けして、水着を着る羽目になった。そして…

ミヤコ「…何故崖から飛び込む必要が?」

私達は砂浜ではなく、近くの断崖へと移動していた。

アリス「…こうなったら荒療治です。ミヤコの苦手意識を回復するには崖から突き落として無理矢理水に慣れさせるしかありません」

ミヤコ「…本音は?」

アリス「…何日も駄々をこねるミヤコにアリスは怒ってますので少しお仕置きでもと…」

ミヤコ「…大人げない」

アリス「安心してください!」

ガシッ!

そう言ってアリスさんが私の身体に抱き着いてきた。

アリス「アリスも一緒に飛び込みますから!」

ミヤコ「…いえこれ逃げないようにするために無理矢理!?」

バッ!

そうして、私はアリスさんに抱き着かれたまま海へと飛び込んだ。

ミヤコ「…絵面が完全に宿敵を道連れに崖に落ちているアレなんですよね」

なんという小説だったかと現実逃避気味に考えるうちに…

ドボン!!

海の中へと入ってしまった。

千年近く前、私は不死身になってしまった。

でも最初から完全な不死身だったわけじゃない。

例のミサイルを撃ち込まれて、何かに憑かれたように暴れまわって、

そして、捕まってから隔離施設へ収容されるまで反省することなく、周囲に嚙みついていた私に待っていたものは…


尋問という名の耐久実験だった。


反対する人もいたと思うけど、私は質の悪い人達に身柄を渡されたのだ。

その中でわかったこともあった。

一度死んで砂から蘇る際、以前の死因が通用しなくなった。

その最初の死因が溺死だった。

水責めの際に誤って拷問官が殺してしまったのだ。

その後に窒息死…餓死…圧死…感電死…様々な死因を体験して耐性を得た。

苦しくて…辛くて…狂いそうだった。

そして、死んで蘇るたびに…死ななくなるたびに…自分が人から外れていく気持ちになって、怖くなっていった。

最終的に何をしても死ななくなり、隔離施設に入れられたのだ。

ミヤコ『……』

水中が嫌な理由は泳げる体力がないだけではない。

最初の死因、私が怪物になるきっかけだったからだ。

何も感じなくなっても、これは怖いままだ。

アリス『……』

アリスさんが私を見つめている。私は一体、どんな表情をしているのだろう…

ミヤコ『…見ないでください』

水中でも問題なく声を発することが出来てしまう…こんな人じゃない私を見ないでください。

そう思っていたら…

アリス『…ミヤコ』

アリスさんが話しかけてきた。

ミヤコ『!?…アリスさんも水中で会話…』

アリス『出来ます…ミヤコはどうしてそんなに悲しい顔をしているんですか?』

ミヤコ『…怖いんです』

アリス『泳げないことがですか?』

ミヤコ『…私自身が怖いんです』

アリス『……』

ミヤコ『千年以上死ぬことがなくて人間じゃないことの自覚はあります…でも…』

アリス『……それがどうしようもなく悲しいんですね』

ミヤコ『…どうして…こうなってしまったんでしょう』

アリス『……』

ミヤコ『ただ…目指していた…だけだったはずなのに…』

アリス『……ミヤコ』

ミヤコ『私…わ、たし…』

アリス『…泣いても構いませんよ。海の中ですから周りには誰もいませんし、涙を流しても誰にもわかりません』

アリスさんが抱き方を変えた。

逃がさないためにしがみつくような抱き方から、慈しむような抱き方に…

ミヤコ『…あぁ…あああああ!』

私は無我夢中で泣いた。人間が恋しかった。でももう戻ることが無理なのはわかっていて、ただ悲しくて、ただただ泣き続けた。

アリスさんは私が落ち着くまで、傍にいてくれた。

そして、ひとしきり泣いて、私が落ち着いた後、

アリス『…落ち着きましたか?』

ミヤコ『…はい。すみません取り乱しました』

アリス『…ミヤコ、先輩として一つアドバイスをします』

ミヤコ『アドバイス?』

アリス『…悩むくらいなら自分の好きなように活用しましょう!』

ミヤコ『?』

アリス『…どんな体質でもどんな力を持っていても、最終的に用いるのは自分です。でしたら自分が好きなように使うことが一番です!魔王の力を持っていても世界を救うために使うのなら、それは勇者の力です!もちろん限度はありますけどね』

ミヤコ『……』

アリス『…では泳ぎの特訓を開始しましょう!』

ミヤコ『あっ、それは普通にするんですね』

アリス『もちろんです。イベントで有耶無耶になんてさせません!目標は一緒にマリンスノーを見ることです!』

ミヤコ『深海前提ですか!?』

その後、私はアリスさんとの特訓でなんとか泳げるぐらいにはなった。

ただ、泳ぎとは別にして、この日の事は忘れないと私は思う。


____________________

SSまとめ


Report Page