RABBIT Line
「ウググ…」
目の前で屑の一人がうめき声を上げている。
「……」
ゲシッ
「グハッ」
私に蹴られて、屑は気絶した。
今日の任務は医療用の薬品に『砂糖』を混ぜた屑達を鎮圧するものだった。
屑の相手は楽だった。
強さの問題ではない。
屑の相手だったら、罪悪感が沸かないからだ。
「………足りません」
ゲシッ!ゲシッ!ゲシッ!
私は日頃のストレスを屑にぶつける。
言うことを聞かない小隊のみんな…
脅してくるトップの3人…
『砂糖』を勧める周りの生徒達…
一番腹が立つのは…
「…RABBIT1!やりすぎだぞ!」
…いけない、殴りすぎてしまった。
小隊のみんなに窘めるなんて、我ながら情けない。
「何度呼びかけたと思ってるんだ!早く帰らないと報酬の『砂糖』が減るぞ!」
「…聞こえませんでした」
「…くひひ、そんなヘルメット団みたいなヘルメットをしているからだよ」
私はアビドスに来てから、アビドスの外で任務を行う際、
ヘルメットを被るようにしていた。
顔を見られないようにするためでもあるが、なにより…
ダァン!
「!…(ザザッ)RABBIT4、私を撃たないでください」
『…あ、怪しいヘルメット団員を…撃ったんだけど…』
「……もういいです。3人は先に戻ってください」
ダッダッダッ
「私はもう少し残りま…もういない…」
まったく…今の3人はこういう命令だけは素直に従うんですよね…
そして、私が屑達を一か所にまとめ終わった後、帰ろうとしたとき、
「ま…待て…」
屑の一人が私を呼び止めた。どうやら、目を覚ましたらしい。
「私たちが…何をしたというんだ…」
医療品に『砂糖』を混ぜたではないですか…
「私たちは…ただ…」
……
「あの方…の…ため…に…」
「……黙ってください」
最後の一言が何故か無性に腹が立った。
ここに来る前のホシノさんを思い出す。
その時の私は、笑う彼女から指示を聞いた後、具体的な場所を彼女が言っていないことに気付き、聞きに戻ったら…
『先輩…ごめんなさい…でも…私…アビドスのために…』
そう言って一人泣いていたホシノさんを偶然見てしまったのだ。
そしてホシノさんはそのまま寝てしまい、私はベッドへと彼女を運んだ。
「あの人のため?ふざけたことを言わないでください。あの人は悪人ではあってもあなた達のような屑ではありません」
「お前に…何が…」
「わかりたくありませんよあんな悪党。人をこき使って、精神的に追い込んで、人が苦しんでいる様子を笑って、笑っていたかと思えば急に泣き出して、何かに謝った後に急にトんで寝て、本能のままに動くアレの考えなんてわかるわけないじゃないですか」
「言わせて…おけば…」
「……ですが」
ドドドドドドドドド
「グァ…」
私は起き上がりそうなった屑の一人に銃弾を浴びせた。
「あの人にだって、超えてはいけない一線はあります。あなた達はその一線を越えた。それだけの話です」
「……」
「…聞いてませんか」
どうやら屑は再び気絶したようだ。
私は予定通り、匿名でヴァルキューレに連絡して、彼女達が来る前に撤収した。
そして、小隊のみんなでホシノさんに報告した。
ホシノさんはいつも通りに戻っていて、私は深いため息をついた。
報酬は後日貰えるとのことで、小隊のみんなは喜んでいた。
その後、私は与えられた部屋へと戻った。
カポッ
私はヘルメットを外して、外を見る。
窓ガラスに『一番の屑』の顔が映った。
SRTの本質を忘れて、ただ手を汚し続けている自分に一番腹が立つ。
そんな自分の顔を見るのが、見られるのが嫌で、
私は任務の際はヘルメットを被るようにしたのだ。
…そういえば
『あの方…の…ため…に…』
「…何故腹が立ったんでしょうか?」
屑の最後の一言に腹が立った理由がわからなかった。
「……多分、何かしらが、私の一線を越えたんでしょう」
そう結論付けて、私は眠りについた。
____________________
(SSまとめ)