RABBIT JOURNEY

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アリス「…ミヤコ…大丈夫ですか?」

ミヤコ「ゼェ…ゼェ…大丈夫じゃ…ありません」

私がアリスさんと旅を始めて数年、

私は自分の問題点に苦しんでいた。

それは…

アリス「まだ次の集落まで数日かかりますけどSPは持ちますか!?」

ミヤコ「…SPとは…なんですか?」

アリス「スタミナポイントです!」

ミヤコ「…HPも持ちそうにありません…」


体力の無さである。


ミヤコ「ここまで…体力が落ちているなんて…腐ってもSRTの隊長…だったんですけど…私…」

アリス「千年以上も引きこもっていたら体力は落ちるに決まってます」

ミヤコ「好きで引きこもっていたわけではないんですけど…そもそも私が幽閉されるきっかけの一つはアリ…」

アリス「ゴホン!…恐らくミヤコはRPGでいうところの初期ステータスというものだと思います。このまま旅を続ければ、ステータスもいずれ戻るはずです!」

ミヤコ「…一体いつになるんでしょうね…」

歩くリハビリをしていた時を思い出す。

時間の感覚がないが、もしや歩けるようになるだけで数十年かけたのではないかと不安になった。

ミヤコ「……そ、そういえば、ここはどの辺りなんですか!?」

不安な考えを振り払うように、この場所がキヴォトスのどの辺りか質問をしてみる。

アリス「ここは確か……元はトリニティの学区の一角だったと思います!」

その言葉を受けて、私は改めて周囲を見渡した。

周りは草原が広がっており、ここが三大校のトリニティと言われてもピンとこなかった。

ミヤコ「諸行無常…というものですか…」

百鬼夜行の言葉を思い出す。

どんなに栄えていても千年以上経てば、滅びてしまうものなのだと考えてしまう。

ミヤコ「…あの」

アリス「アレですね!」

ミヤコ「…はい」

私は、アリスさんから貰ったカメラを懐から取り出す。


ミヤコ「…トリニティの証、探しませんか?」


数年の旅の中で私には一つ目的が出来ていた。

それは、その学区があったという証を探すことである。

集落にもあるにはあるが、あそこは生きるために必要な物しかないのだ。

それに…自分自身で見つけたい。

わがままかもしれないが、私はかつてのキヴォトスの思い出を自分の手で見つけたいのだ。

アリス「目標はどうしますか?」

ミヤコ「どうでしょう…一か月以内に見つかるといいですね。

…少なくとも雨が降る前には」

私の戦闘スタイルは、吐き出した砂を武器に変えて戦うものになっていたのだが、

これには欠点があった。

どういうわけか、その武器は水に触れた瞬間、泥化して使い物にならなくなるのだ。

雨が降った場合などは目も当てられない。

アリス「ミヤコは雨が降ると途端にクソ雑魚ナメクジになりますからね…」

ミヤコ「ナメクジは寧ろ雨に強いじゃないですか…」

アリス「つまりミヤコはナメクジ以下ということですか?」

ミヤコ「…撃ちますよ」

そんな軽口を言い合いながら、私たちは探す目処をつける。

何も手当たり次第に探すわけではない。

アリスさんが持っている昔の地図を見ながら、ある程度場所を決めて探すのだ。

アリス「…此処は元は教会だったみたいです!」

ミヤコ「…でしたら、この辺りを探しましょう」

天井も壁も残っていないが、探せば何か見つかるかもしれない。

そして、私たちの宝探しが始まった。

とは言っても、何か見つかることの方が少ない。

千年以上経っているのだ。朽ち果てて、残ってない場合の方が多い。

それでも、私はこの証探しを続けている。

アリスさんはそれに付き合ってくれていて、申し訳なさと有難さを感じている。

とりあえずいつも通りに砂を吐く。

ミヤコ「ハァァァァ」サラサラ…

アリス「…いつ見ても絵面が危ないです」

ミヤコ「誰もいないのでいいんですよ」

アリス「…羞恥心のステータスもいつか回復したいですね」

吐いた砂を操り、薄く地面全体に広げて、異物が無いか捜索する。

異物があれば、吐き出した砂に違和感が出てくる。

そこを探していくのだ。

ミヤコ「雨降りませんように…雨降りませんように…雨降りませんように…」

アリス「…いつも真剣に呪文を唱えますね」

いつものように空に願いながら地面を探す。すると…

ミヤコ「?」

アリス「どうかしましたか?」

ミヤコ「…地面から空気の流れが…」

アリス「!そうなんですか!?」

ミヤコ「この辺りから…」

その地面を小突くと…

ガラガラ…

地面に穴が開いた。

アリス「……」

ミヤコ「…地下通路?」

もしやこれは…

ミヤコ「カタコンベの入り口の一つ?」

少しだけ覚えている。トリニティの地下にはカタコンベが広がっているというウワサが

千年前のキヴォトスにはあったはずだ。

空が赤く染まった時にも聞いたような気がするが…細かいことは覚えていない。

アリス「すごいですミヤコ!未知のダンジョンを発見しました!」

ミヤコ「…未知というんですか?」

アリス「少なくとも埋もれていたものを見つけました!これは大発見です!」

…一つ気がかりなことがある。

ミヤコ「…千年以上も見つからなかったのは何故でしょう?」

アリス「ワクワクします!探検しましょう!探検!」

ミヤコ「えっ!?アリスさん!?」

私の疑問を置き去りに、アリスさんが私を引っ張って穴の奥に連れて行った。

そして数時間後…

アリス「……ハァ」

ミヤコ「…何もない場所でしたね」

そう。あの通路は少し先まではまっすぐ伸びていたがその先の曲がり角は土砂で埋まっており、何もなかったのだ。

アリス「…そうですよね。千年経てば地下通路なんて埋まってますよね…すみません、体力の無いミヤコを巻き込んで…」

ミヤコ「…探していたのは私なのに、私以上に落ち込んでいます」

どうしましょう…どうやって励ましましょう…

ミヤコ「…わ、私はワクワクしましたよ!ですから…」

アリス「虚しい…虚しいです…」

ミヤコ「……ハァ」サラサラ

アリス「私は間違えました…」

ミヤコ「…てい!」

パン!

アリス「痛っ!?」

ミヤコ「安心してください。ハンドガンです」

アリス「ミヤコ!何するんですか!?」

ミヤコ「なんでアリスさんがそんなに落ち込んでいるんですか」

アリス「……ですが」

ミヤコ「徒労に終わることなんて最初から分かっていました。むしろそれに付き合わせてしまった私の方が悪いんです」

アリス「……」

ミヤコ「アリスさんが私の事を思って落ち込んでくれているお人好しなのはよくわかります。…よくわかってますけど、失敗する度に落ち込んでいたらキリがないことぐらいわかっているはずです」

アリス「……ミヤコは虚しくなかったんですか?」

ミヤコ「…虚しいです。虚しいですけど、それは止める理由にはなりません」

アリス「……それもそうですね。よくよく考えてみれば、苦労したクエストが思った以上に報酬がしょっぱいなんてことはよくありました!」

ミヤコ「…今回はこの虚しさが報酬ということにしましょう。それに、あの通路だって何か意味があるかもしれません」

ポタッ、ポタッ

アリス「おや?」

ミヤコ「あっ」

ザーッ

雨が降ってきた。

ミヤコ「…アリスさん」

アリス「ミヤコ?」

ミヤコ「…早速あの通路の出番のようです。戻りますよ。でないと私はシナシナのウサギになりますからね」

少なくともあの通路は今、雨宿りとしての意味はあるようだ。

アリス「…それは困ります!パーティメンバーのデバフはできるだけ回避するのが冒険で大事なことですから!」

いつも通りのアリスさんに戻ったようで、少し安心した。

私たちは雨から逃げるように、あの通路へと向かう。

通路に入って、なんとなく振り返ってみると

瓦礫の隙間に小さな花が咲いていた。

きっと、元からあった隙間から入る僅かな光を浴びて育ったのだろう。

パシャリ

なんとなく、その花の写真を撮った。

ミヤコ「何もないことは、ないかもしれませんね」

少なくとも、報酬は虚しさだけという寂しい結果にならなくて済みそうだ。


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SSまとめ


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