RABBIT IF

RABBIT IF


来てくださってありがとうございます先生。

すみません、見ての通り何もない場所ですから、何の用意も出来ず…

それで本日はどういった御用で…

何があったのか知りたい…ですか…

ミレニアムの方たちから聞いてませんか?

…そうですか。それどころではないんですね。ミレニアムは…

当たり前と言えば当たり前ですね。あんなものを…


『中毒者だけを殺すミサイル』を作ったんですから…


本来は中毒の重さで威力が変わるそうでしたが…

失敗して問答無用で中毒者のヘイローを破壊するものになったそうで…

すみません、話が逸れました。

……そうですね。どこから話したものでしょうか…

私がアビドス側にいた経緯については…

知ってるんですね。ではその辺りは省いて、当日の事を話しましょう。


その日は、全員が集まっていました。

翌日の砂祭りのために全員が集まって、準備をしていたんです。

最初に気付いたのは誰だったでしょうか…

誰かが空を見て、ミサイルが落ちてくるのを見たんです。

そして、そのミサイルは爆発と同時に閃光弾のような強い光を発して、

爆風による砂煙もあって、思わず私は目を閉じました。

目を閉じていたら、周りから叫び声が聞こえてきたんです…

目を開くと…開くと…ウップ…


【数分後】


ゲホッゲホッ…すみません…説明の途中でしたね。目を開いたら…


みんなが全身から血を吹き出しながら、苦しみ悶えていました。


目や口や鼻や耳、様々な場所から血が出ていて、

正直この世のものとは思えませんでした。

一方の私は、身体に何の異常もなくて…

突然の状況だったのでとっさに動くことも出来ず…気付いた時には…


その場にいた私以外の全員が死にました。


上層部の皆さんも…

重度の中毒者だった人達も…

そして、私以外のRABBIT小隊のみんなも…


皆さん、ヘイローが壊れる直前、なんともなかった私に様々な声をぶつけてきました。

助けを求める声…

無事だった私を羨む声…

慈悲を乞う声…

理由を求める声…

謝罪する声…

そして、ミサイルやミサイルを撃った人を恨む声…

様々な声が…今でも頭の中に響いています。

私は血に染まった砂漠の真ん中で、その光景を見て立ち尽くしていたんです。

気付いた時には、私は反アビドスの人達に囲まれていました。

普通なら投降するべきだったかもしれません。

私自身も、中毒者だった皆には苦しめられることが多くて、

義理はないに等しかったはずでした。

ですが、どうしても許すことができませんでした。

RABBIT小隊のみんなの命を奪っておいて、

こんな惨状を生み出しておいて、

あんな物を使っておいて、さも被害者であるかのような態度に私は怒って…

そんな時、同じような感情を持った『何か』が私の中に入ってくるような感覚の後、

我を忘れて、自分や死んでいったみんなの武装を使って徹底的に抵抗をしました。

無我夢中でしたが、かなり激しい抵抗だったそうです。

もしかしたら、死んでいったみんなの怨嗟の声がそうさせたのかもしれません。

ですが結局のところ数には勝てず、『何か』が消えて、

私は捕縛されました。

捕まった私は、ありったけの罵倒を反アビドスの人達にぶつけました。

『人殺し』『イカれてる』『ここまでするほどか』『小隊の仲間を返せ』

思いつく限りの言葉を言った私の様子に

反アビドスの皆さんはやるせない表情をしていました。

そして私は、『薬』を使用していなかったのにアビドス側についた点と

投降の声を無視して強く反抗したこと、

捕まった時の態度や、その後も反省する様子が無いこと…

何より…


何をしても死ななかったことから、こうして隔離施設で一人過ごしています。


……改めて考えても凄いんですよ、ここ。

アリスさんの『光の剣』でも傷一つつかないんですから…

おまけに理論上は、長い年月が経っても壊れないそうでして…

流石ミレニアムが作っただけはあります。

私のためだけに作った施設と聞いた時には驚きました…相当警戒されていますね。

今更ですが会うだけでもかなり手間だったのではないでしょうか?


…なんで泣いてるんですか?安心してください。

食事を抜いても死ぬことはないですから。

実際、ここに来てから食事は一回も…違いますか?

…どうして受け入れているか?ですか…

……結局のところは自業自得ですから。

どんな理由があっても私のしたことは許されるものではなかったんです。

先ほどの罵倒も、どの口が言うかというものばかりでしたし…

誰かが擁護してくれたら話は少し違ったかもしれませんが、

同情する声はあっても、誰も擁護はしてくれませんでしたし…

私をよく知るFOX小隊の皆さんも矯正局にいたままでしたから…

…たらればの話をしても仕方ありませんね。

ともかく私はこうして隔離されていますが、不思議と後悔はないんです。

最後の瞬間、反アビドスに対して戦った私は間違ってなかったと思うんです。

あんな兵器を使うことはどう考えても正しいことではありません。

あの時だけは、怒りに駆られていましたが、

少しだけSRTとして行動できたと思います。


ブーッ!ブーッ!


…面会は終了みたいですね。何かほかに言うことは…

…ありがとう?どうしてですか?

…死んだみんなのために怒ってくれたから…ですか…

…こちらこそ、間違ってばかりの私に会ってくださって、ありがとうございます。

今度来たときは外の様子を聞かせてくださいね。


ウィーン


…出ていきましたか。さて、先ほど吐いた砂の処分はどうしましょう。

普通の砂なので成分としては問題ありませんが…

おそらく研究されるのでしょう…

自分の吐しゃ物を研究されるのはどうにも恥ずかしいですね…

……先生。ありがとうございます。

こんな怪物になってしまった私に会っていただいて…

謝罪ではなく、感謝を言っていただいて、本当にありがとうございます。


さて、『もしも』を考える続きをしましょう。

それ以外することがないですから…

今日は…そうですね…

丁度いいです。先程のたらればの先を考えましょう。


悲しいことに…時間ならたっぷりありますから…

____________________

SSまとめ

Report Page