RABBIT Drill

RABBIT Drill


いよいよその時が来た。

「はい。それじゃあおじさんの訓練を始めるよー」

私は夜の砂漠の真ん中でホシノさんと向かい合っていた。

月明りがあって、夜でも明るかった。

それはともかくシロコさんを逃がした罰で、今日から私はホシノさんと訓練をするのだ。

罰ということなので、間違いなく通常の訓練ではないのだろう。

返却された武装を持ちながらホシノさんの話を聞いている。

「…まぁ最初だし難しいことはしないからミヤコちゃんは安心してねー」

対してホシノさんはショットガンしか持っていない。

「…ホシノさん」

「何勝手に喋ってるの?」

「!?」

私が質問しようと話しかけるとホシノさんは殺気をこちらに向けてきた。

凄まじい威圧感で、まるで砂漠全体が殺気を向けているようだった。

「……シー…ルド…」

殺気を浴びながら、私が必死にそう言うと

「……必要ないでしょ。そんなくだらないことを聞くために遮るなんて、やっぱり調子に乗ってるねミヤコちゃん」

「……」

私はその迫力で何も言えなかった。

せめてもの抵抗で、目をそらすことだけはせず、ホシノさんを見続けた。

「…うん、一発ぐらいは先に撃たせようと思ったけど、やっぱりなし」

殺気を抑えることなく、ホシノさんは移動を開始して、説明を続けた。

「改めてだけど今日の訓練は

『おじさんが満足するまでの間、もしくは1時間おじさんと戦闘する』

ほら難しい内容じゃないでしょ?」

確かに訓練の内容自体はシンプルだった。

「おじさんなりに考えたんだけど、ミヤコちゃんにはまず力関係をわかってもらう方が後々の訓練が楽になるだろうからね。そうした方が逆らう気も失せるでしょ?」

冷や汗が止まらない。ホシノさんは私よりも背が低いはずなのに、巨大な怪物のように感じた。

そして、数メートル離れた場所で立ち止まり…

「それじゃ」

ショットガンを上に向けた。恐らく開始の合図なのだろう。

私は腹をくくった。

「訓練開始!」

バァン!

ホシノさんはそのままショットガンを空に向けて撃った。

そして…

ドゴッ!!!!!

「カハッ!?」

視界から消えると同時に腹部に強い衝撃が走った。

「…遅い」

そう言う声が一瞬聞こえてそして私は後方に吹き飛ばされた。

そのまま砂漠を転がっていき、勢いが止まったのは数十メートル後方だった。

「ゲホッ…ゲホッ…」

私は腹部を抑えて、その場に蹲った。

呼吸ができない。

想像以上のダメージだった。

これに比べたら小隊のみんなの暴力なんて、蚊に刺されたようなものだった。

私は何とか顔を起こして先ほどまで私がいた場所を見た。

ホシノさんがいた。

どうやらホシノさんは一瞬のうちに距離を詰めて至近距離で攻撃をしたようだ。

なんというスピードとパワー…

ふらつきながら立ち上がると…

ドガッ!!!!!

「!?!?」

後頭部に強い衝撃を受けて、私はその場に再び倒れた。

「ごめんね~。遠くまで蹴りすぎちゃった」

後ろからホシノさんの声が聞こえた。

私は先ほどまでホシノさんがいたところを見ると

とっくにホシノさんはいなくなっていた。

数十メートルを一瞬で…

それも気配を一切感じさせずに背後に…

ガシッ!

前へと回ったホシノさんに頭を掴まれた。

ギギギギギ…

「アガァ!?」

まるで万力のような強い力が頭に伝わり、そのまま持ち上げられた。

「うへぇ…よそ見は良くないなあ!!!」

ボガッ!!!!!

ホシノさんにまた腹部を殴られて強い衝撃が走った。

「ゴボッ!?」

その衝撃で私はとうとう吐いてしまった。

「うわっ!?汚っ!?」

ホシノさんは私を遠くへ投げ飛ばした。

先程より遠い数百メートル離れた場所に投げられたが、先ほどとは違い、何とか受け身を取ることができた。

「うぇぇ…汚い…」

ホシノさんは服に付着した私の吐しゃ物に気を取られているようだ。

私はその隙に何とか呼吸を整えて…

ドドドドドドドドド

ホシノさんに攻撃を開始した。

戦闘ということは、私から攻撃してもいいはず…

私は何とか手放さずにいた『RABBIT-31式短機関銃』を用いて

ホシノさんを攻撃した。

…したはずだった。

「なっ!?」

ホシノさんに弾丸が命中しない。

ホシノさんは弾丸を全て回避しながらこちらに近づいていた。

「!…ドローン起ど」

私は自走式閃光ドローンを起動させようとしたが…

ガシッ

「だから遅いって言ってるじゃん」

ホシノさんは既に近くまで接近しており、

私はドローンを操作するスマホを持つ手を掴まれ、

そのまま取り押さえられた。

ギギギギギ…

「!!」

ホシノさんは先ほど以上の力でスマホを握る私の手を強く掴み、

思わず私はスマホを手放してしまった。

「…これは没収させてもらうね…さて」

そのスマホをホシノさんに取られてしまった。

「…よくもおじさんに汚いものを浴びせてくれたね…」

ホシノさんのその声は殺意だけではなく、怒気もはらんでいた。

「…安心して、腕だけは料理のために残してあげる」

ホシノさんはそう言うと…

「!?」

私をまるで物を扱うように上に放り投げて手から両足へと握る場所を変えた。

身長差もあって、後頭部を打ち付けたが…

「それじゃ……お仕置き!!!」

バギッ!!!!!

「いっがあああああああ!?」

私は自分の右足首を折られた痛みでそれどころではなかった。

「…うるさいなぁ…片足を折られたぐらいでさ!!」

ドガッ!!!

私は背中を思いっきり蹴られた。

「ほらほらまだ5分も経ってないのに、一方的にいいようされたら訓練にもならないよ!」

バギッ!!!ドゴッ!!!

ホシノさんの蹴りが何度も背中を襲う。

一撃一撃が、まるで戦車砲のような威力で意識が飛びそうだった。

というよりも意識が飛ぶ直前だった…しかし…

「それだとSRTの隊長の名前が泣くんじゃないの!?」

「!!」

SRTの名前を聞いて、無意識に体が動いた。

ドドド!ドドド!

私は、私の足を持つホシノさんの手を撃った。

「!」

ホシノさんは一瞬手を離した。

私の足にも被弾したが関係ない。

一瞬あれば充分です…

足が落ちる前に…

ガシッ

ホシノさんの首に組み付いた。

そのままホシノさんを支えにして銃のリロードと共に勢いをつけて体を起こす。

「…へぇ」

ホシノさんは柱のように頑丈で倒れなかったが、目の前にはホシノさんの顔があった。

「…これなら…回避できませんね!」

ドドドドドドドドド!

私は全弾をホシノさんの顔に撃った。

「……せめてかすり傷ぐらいついていて欲しかったです」

全弾命中したはずなのに、ホシノさんの顔には傷一つなかった。

「…アハハ!いいじゃんミヤコちゃん!やっぱりあの時拾っておいて良かった!」

ホシノさんは笑っていて、先ほどとは打って変わって機嫌がよさそうだった。

ピピピピ

ホシノさんのポケットからベルが鳴る。

「ちょうど5分経ったし、ミヤコちゃんに一つレクチャーしてあげる」

ようや5分ですか…そう考えていたら…

ホシノさんがショットガンをこちらに向けた。

「『神秘』の一端ってものを…」

その後のことはよく覚えていない。

最初の5分で身体がボロボロだったこともあって、途中から意識を飛ばしてしまったのだ。

気付いた時には

「お?起きた?」

ホシノさんに背負われていた。

「大丈夫?ミヤコちゃんが思った以上に張りきったから、おじさんちょっとやりすぎちゃった」

全身が痛い、身体のほとんどの骨が折れているのかもしれない…

言っていた通り腕は動くが、指先を動かす気力もない…

呼吸をするだけで苦しい、のは元々アビドスに来た時からでした…

「まぁシロコちゃんを逃がしちゃった罰だから、ミヤコちゃんは受け入れて」

ホシノさんはいつものような口調で私にそう話した。

「でも、これでわかったでしょミヤコちゃん。おじさんの方がずーっと強いって…だからもう逆らわないでね」

「……」

「今日の訓練はおしまい。3日あげるからその間に動けるぐらいにはなってね~」

…とんでもない無茶をこの人はいつも言う。

「…ところでだけど、ミヤコちゃん身長は?」

急にそんな質問をされた。

「……156cmです」

「…どうりで」

「?」

「…シロコちゃんを背負った感じに似てるなって」

…それがその時の最後の会話だった。

…戦っていた時を思い出す。

私があの戦いの中で覚えているのは…

最初の5分と…


月明りに照らされたホシノさんから伸びた明らかに大きすぎる蛇のような影だった…


~その後、アヤネの監禁場所にて~

「……ミヤコさん、全身包帯塗れで大丈夫ですか?」

「…フゴフゴフゴ(大丈夫です)」

「大丈夫じゃありませんよね!?」


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