RABBIT Before

RABBIT Before


私が外で次の任務に備えて待機していると、

「あっ!ミヤコちゃんだ!」

私の名前を呼ぶ声が聞こえた。

「貴方は…」

私を呼んだその生徒の顔には見覚えがあった。

元SRT特殊学園の生徒だ。

名前は憶えていないが、名簿の中にいたことは覚えている。

「覚えてるよ!SRT復活させるために公園占拠した事!アレは…どのぐらい前だっけ?」

確か彼女はSRTが解体された後は、ヴァルキューレに編入していたはずだ。

そんな彼女がここにいるということは…

「…貴方も『砂糖』の虜なんですね」

「そんなの当たり前じゃん!」

やっぱりだ…

元とはいえ、同じSRTだった生徒が『砂糖』に堕ちている。

その事実だけで胸が締め付けられる思いだ。

「『砂糖』って良いよね!ヴァルキューレには馴染めなかった私が

ここだと『砂糖』があるだけで馴染めるんだもん!ホシノ様に感謝だよね!」

彼女は『砂糖』を余程気に入っているらしく、

『砂糖』をばら撒いたホシノさんを尊敬…いやむしろ崇拝しているようだった。

「ところでさぁ、ミヤコちゃんって、誰の指示で行動してるの?」

唐突にそんな質問をされた。

「私はキリノさんやその上司のハナコさんの指示で行動してるんだけど、ミヤコちゃん達は全然見当たらないからさ!別の人の指示で動いてるのかなって!誰なの?ハスミさん?ハルナさん?あっ、それともヒナさん直属だったり…」

そんな会話をしていると…

ザザーッ

誰かから通信が入った。

「すみません、通信が入りました。少し待っていてください」

そう言って、彼女から少し離れて通信を受け取る。

「はい、こちらラビ」

『もしもし~。ミヤコちゃーん?』

「…どうかしましたか?」

『お願いしたいことがあるから来てくれる~?あっ、場所はA4の校舎ね』

「…了解しました」

『いつも通り遅刻厳禁だからよろしくね~』

ブチッ

それだけ言われて通信が一方的に切られてしまった。

どうしましょう…

ここからだと急いで向かわないと絶対に間に合わない。

そう考えていると…

ガシッ

「ねぇ!ねぇ!ねぇ!今の声ってホシノ様だよね!」

元SRTの彼女に腕をつかまれ、そう尋ねられた。

…どうやら通信を聞いていたらしい。

「ひょっとしてホシノ様直属だったりするの!?うわぁ!いいなー!」

私の返事を待たず、彼女のテンションは高まり続けている。

「…通信相手は言えません。そして申し訳ありませんが、これから急ぎの用事が出来てしまいましたので腕を放していただけると…」

「どうして?どうして?どうして?どうしてホシノ様の直属になったの?羨ましい!」

…私の声はどうやら聞こえていないようだ。

「はぁ…ですから腕を放してください…」

「わかった!」

わかったと言っているが、一向に腕を放してくれない。

どうやら私の頼みを理解したわけではないらしい。

「SRTだからだ!」

「……は?」

突然彼女はそう言った。

「SRTの能力を買われて、ホシノ様直属になって『砂糖』をいっぱい貰ってるんだ!

いいなぁ、羨ましいなぁ~


もしSRTに戻ったら、私もホシノ様直属になってご褒美の『砂糖』をたくさんもらえるかな!」


……………


ドゴッ


「…えっ?」

私は自由だった方の手でゴミ(彼女)の顔を殴った。

ゴミは唐突なことで、自分が何をされたのか受け入れていないようだ。

それがきっかけで握られていた腕も自由になった。

そして私はゴミを押し倒し…

ドゴッボゴッバギッドガッ

そのまま顔を殴り続けた。

「痛っ!?なんっ!?止め!?ミヤ!?」

私の頼みを聞いてくれないゴミの懇願を聞く気はない。

『もしSRTに戻ったら、私もホシノ様直属になってご褒美の『砂糖』をたくさんもらえるかな!』

ゴミはSRTを侮辱した。

「………」ガクッ

目の前のゴミは気絶したが、それでは足りない。

まだ徹底的に痛めつけないとコイツはダメだ。

「……………」

声が聞こえるが気にすることはない。

目の前の相手は気絶しているんだ。どうせ幻聴だろう。

「……コちゃん…」

さっきから幻聴がうるさい。

殴ることに集中できないじゃないですか。

「月雪ミヤコ!!!」

バン!

突然背中を撃たれた。

「っ!?誰ですか!?今はとりこ…み……ちゅ…う…」

私の後ろには、


銃を構えて、どう見てもイラついている様子のホシノさんがいた。


「ほ…ホシノ…さん…」

「……言わなかった?遅刻は厳禁だって。それともその耳は飾り?うさ耳が本当の耳だったりする?」

「……申し訳ありません」

私の謝罪が聞こえているのか聞こえていないのか、

ホシノさんは何のアクションもせず、私が殴り続けたゴミを見ていた。

「……よっぽど鬱憤がたまってたみたいだね」

「……SRTを舐めた発言をしたため、ついカッとなってしまいました」

「…うんうん、わかるよ~。母校を舐められるとカッとなるよね~」

「……」

「でも、ミヤコちゃんにそんな資格はあるかな?」

「っ!…それは」

それは事実だった。

『砂糖』の元締めであるホシノさんに協力している時点で

私にSRTを名乗る資格はない。…それでも

「……ゆるせないものはゆるせません」

「…私としては遅刻したことがゆるせないかなぁ」

「……」

「まぁ、別にいいけどね。それじゃあ私は彼女を救護室に連れて行くから、ミヤコちゃんは先に校舎に行っててね~」

「……失礼します」

そうして私はA4地区の校舎へ向かった。



「……うーん、かなりの重症だね~。あのお願いを受けてくれるか、おじさん不安になっちゃうよ~」

「ホ…シ…ノ…さ……た…す…け…」

「あっ、言っておくけど重症はミヤコちゃんの方だからね~。君の事は何とも思ってないから」

「…え?」

「実は聞こえてたんだよね~。通信を切ったフリをして~、おじさんに対して普段はどんな陰口言ってるんだろうって。そしたら君の声とミヤコちゃんが殴る音が聞こえてさ~。慌ててミヤコちゃんを探して、ここで見つけたわけ」

「そ…」

「あんなこと言ったらミヤコちゃん怒るに決まってるじゃん。ミヤコちゃんはSRTが大好きだからさ。それにね、君は一つ勘違いしてるよ」

「な…」

「確かに最初は能力と面白そうだったからっていう理由だったけどさ、今は割と愛着があるんだよね~」

「……」

「そういえば君は言ってたっけ。私から『砂糖』を貰いたいって…


お望みどおりにしてあげる」

ブスッ

「あっあっあっ…」

「私が普段愛用してる一般よりも強めの『砂糖』だよ~。ちょっと刺激が強すぎるかもしれないけど…って」

「……」ブクブクブク

「もう聞こえてないか。口から泡吹いてるし」

ヒョイ

「うーん、救護室は何処だったかな~?

それにしても…ミヤコちゃん受けてくれると良いなぁ…


料理の仕事

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SSまとめ

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